表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

洋館の扉

作者: ちまちゃん

静かな田舎町の片隅に、誰も近づかない古びた洋館があった。

子供の頃から、私はその洋館の存在に興味を惹かれていた。

住民たちは皆「あそこに足を踏み入れたら戻ってこれない」と言うが、誰も具体的な理由を話してはくれない。

その曖昧さが、私の好奇心を煽り続けた。


二十歳を迎えた秋、私はとうとうその扉を開ける決心をした。

夜明け前、街が眠りにつく頃、私はランタン一つを手に洋館に向かった。

大きな木製の扉には、時間が刻んだ無数の傷があり、中央に深紅の模様が描かれていた。

それは血のように生々しく、どこか息をしているようにも見えた。


扉を押し開けると、冷たい空気が肌を刺した。

中は不気味なほど静かで、ランタンの明かりが廊下をぼんやり照らす。

そこには古い家具や埃をかぶった絵画が並び、まるで時間が止まったかのようだった。


「誰かいますか?」


声を出すと、私の呼びかけが壁に反響して消えていった。

その時、奥の部屋から微かな音がした。

人の声ではなく、何か金属が擦れるような音だ。

私は引き返すべきだと頭では分かっていたが、足は勝手にその音の方へと動いてしまった。


奥の部屋には、奇妙な形をした机と、中央に置かれた一冊の黒い日記があった。

表紙にはまたしても深紅の模様。

そして、そのページを開くと、自分の知らないはずの過去の出来事が書かれていた。

両親の秘密、失われた記憶、そして…未来の私の後悔。


「…こんなことが、どうして…」


その瞬間、背後で扉が閉じる音がした。

振り返ると、深紅の模様が光を放ち、私を包み込んだ。

そして私は闇の一部になってしまった。


もう後悔しても遅かった。

もう戻れないと悟った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ