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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第1部・サレ公爵夫人、探偵になる!〜悪魔な恋愛カウンセラー殺人事件〜
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悪魔な恋愛カウンセラー編-3

 翌朝。


 天気は曇りだった。心なしか、公爵家にある庭のハーブ類も元気がないように見えたが。


 フローラとフィリスは、公爵家の衣装部屋で着替えていた。といっても、いつものような仕立ての良いドレスではなく、ソースや土の汚れがついたワンピースだ。


 フィリスも似たようなボロを着ていた。元々田舎娘のフィリスは何の違和感もない服装だったが、フローラは全く似合っていない。顔が上品すぎた。姿勢も良すぎるのも問題だった。


 こんな格好をしているのも理由があった。昨日、夫が家にやってきた。どうやら新しい愛人がいるようだったので、愛人調査をするために夫の別宅に行く事に決めた。夫にバレないよう、変装をし、別宅に行くつもりなので、いつものようなドレスは着れない。


 それにフィリスの父親に貰った探偵マニュアルには、尾行時はキャラ設定を作りこみ、女優のように他人になりきれとあった。という事でフィリスと相談し、庶民の姉妹設定で行く事にした。もちろん、フローラが姉でフィリスが妹。


「奥さん、庶民の服装が全く似合ってませんよ。このままだと悪目立ちします」

「そうなのよ。困ったわねぇ」


 衣装部屋の鏡を見ると、顔と服装がチグハグしていた。


「奥さん、メイクでそばかす描きましょう。あとは猫背にして、言葉遣いも崩しましょう」

「できるかしら」

「難しいと思いますが、公爵さまにギャフンと言わせたいんでしょ?」

「今時ギャフンなんて言わないわよ」


 とはいえ、このままでは無理がある。フィリスはフローラに下手なメイクを施し、庶民風の言葉を教えた。


 もしかしたら庶民が公爵夫人に化ける方が簡単かもしれない。逆に公爵夫人が庶民の女になるのは大変。持って生まれた気品、雰囲気を悪化させていくのは、二人とも骨が折れた。匙加減を間違えると、コスプレっぽい。鼻につく。


 それでも何とか庶民に化け、公爵の裏口からアンジェラが用意した馬車に乗り込み、郊外へ向かっていた。


「ところで奥さん、公爵さまの別邸って何で庶民向けの郊外にあるんです?」


 馬車の窓から見える風景は、豪華な都から、どんどん質素に変わっていく。麦畑や商業地区も見え始め、フィリスには馴染みがある。ちょっと懐かしいぐらいだった。


「ええ。夫はドロテーアっていう庶民の女と不倫してたの。そのドロテーアとの逢瀬に都合の良い別邸を建てたわけ。別邸や別荘は他にも色々あるけどね」

「そ、そうですか……。っていうか、こんな話題しても大丈夫ですか? 怒り狂ったりしませんか?」


 フィリスは首を傾げていた。確かの前のフローラだったら、したくもない話題だ。皿や花瓶を投げ、メンヘラしていたかもしれない。


「ええ。大丈夫よ。夫にざまぁと言わせようと思うと、ちょっと元気が出てきたかも……」


 そう言い、愛人ノートをめくるフローラは、以前よりは表情が変わっていた。


「そうですよ。公爵さまにギャフンと言わせましょうよ!」

「今時ギャフンなんて言う人いないわよ。ざまぁでしょ」

「田舎者は言うんですよ!」


 二人の会話は和やかだった。これから愛人調査に出かけるとは思えないほど緩い。あんなに似合ってなかったフローラの庶民向けも服装も、時間の経過と共にしっくりし始めたようだ。


 馬車の窓からは、青い空も見えてきた。さっきまでは曇り空だったが、天気も良くなってきたらしい。空を見ていたら、フローラの心も晴れてきた。夫の愛人を調べ、有利に離婚した時の事などを想像するだけで楽しくなてきた。


「奥さん、つきましたよ」

「ええ、行きましょう。いえ、行くぜとか言った方がいい?」

「それは崩し過ぎですって」

「冗談よ」


 二人とも馬車を降り、庶民が集まる住宅地を歩く。変装のおかげか、二人の姿は全く目立っていなかった。無理矢理作ったフローラの猫背も、公爵夫人らしさを消していた。


「あれ? この声は何?」


 どこから美しい歌声も聞こえたきた。庶民の住宅地は比較的うるさい馬車だと思っていたが、何の声?


 通行人達も集まり、誰かの歌声を聴いていた。


「路上のアーティストですよ。庶民の住宅地ではよくいますよ」

「へえ。盲目のシンガー、マーシア・エイマーズですって。いえ、なんだって」


 マーシアの姿は、人垣のせいで全く見えないが、盲目なのに歌手とは珍しい。


「私はあなたを愛します〜♪ 愛してます♪」


 マーシアの歌声は情熱的で、何か心を打つものがあった。結婚当初、まだ夫の事を愛していた時も思い出してしまう。まっすぐな歌だ。心に直接投げかけられているよう。貴族連中が持ち上げる芸術家には無い何かがある。


「ちょっと、奥さん。盲目の歌手なんてどうでもいいじゃないですか。早く行きましょー?」

「え、うん。行くわ」


 着心地なく笑いながら、フィリスと共に歩く。


 夫の別邸に近づき。もうあの歌声は聞こえなくなってしまったが、なぜか耳から離れなかった。

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