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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第2部・サレ公爵夫人の内助の功〜呪いの愛人ノート殺人事件〜

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面白い女編-2

「泥棒猫ちゃん、あなたの様な芋臭い娘は、第三王子にふさわしくないわ。オホホ!」


 舞台の上でフローラの高笑いが響く。ヒロイン役のケイシーは涙目でひれ伏せていた。


 翌日、結局、脅迫状を投げ込んできた人物はわからず、アンジェラとフィリスと共に保留にした。


 とはいっても、黙って指を咥えているわけにもいかず、蒸しケーキを作って劇場周辺で聞き込みしていた。フィリスはマリーの店へ行儀見習いに行ってしまったが、フローラは一人で粘り強く、手掛かりを探していた時。


 劇場の主であるクララ、脚本家のアーロンに捕まった。現在、上演中の劇の悪役女優が急病になり、代役を頼まれてしまった。偶然にも一度稽古に出た事もある劇だ。ヒロインのケイシーとも顔見知り。それにフローラのルックスは既存の悪役女優より悪役顔という事で監督やスタッフからも押し切られ、舞台に立つ事になってしまった。


 昼や夕方の公演で、出演するシーンもさほど長くはないが、こうしてスポットライトの下にいると緊張はする。慣れないカツラや重苦しいドレスも息苦しいが、ヒロインのケイシーをパティやマム、憎い元愛人達だと思うと、演技にも熱がこもり、観客からも歓声が聞こえて来るほどだった。


 もっとも昨日の出来事もあり、連日の調査で身体はへとへとだ。夕方の公演が終わると、フローラは楽屋でぐったりとしていた。


 楽屋は壁に鏡が何枚もあり、メイク道具や衣装がごちゃごちゃと散乱し、決してリラックスできる場所ではないが、舞台メイクを落としていると、ホッと安堵のため息が出る。


 それに良い気晴らしにもなった。昨日の一件で犯人が脅しにきている事は確定したが、今は怖がっても仕方ない。むしろ過剰に怖がったら、犯人の思う壺だ。


 フローラは舞台メイクを落とすと、鏡を見つめてながら、余裕の表情を作ったり。おそらく犯人はアリスか魔術師ルーナだ。どちらも動機がある。アリスはペティと取り分で揉めた。ルーナは顧客のブリジッドを脅しているパティが邪魔だった。あるいはパティに何か弱みを握られた可能性もある。


 もう容疑者も二人に絞り込めた。あとは証拠を洗って犯人を捕まえるだけだ。そう思うと、フローラの表情も緩む。こんな事件、夫の不貞と比べたら、数倍マシだ。


「ふふふ」


 犯人からの挑発だって怖くなく、フローラは少し笑ってしまうぐらい。悲劇のヒロインなんかでもないし、自分は面白い女だ。そう思えば、こんな事件もどうという事もないはず。


「ちょっと、フローラ。一体何笑ってるのよ」


 そこにヒロイン役のケイシーも楽屋に入ってきた。ケイシーも舞台メイクをすっかりと落とし、普通の若い娘に戻っていた。


「いえ、ちょっとね」

「クララやアーロンから噂を聞いたわ。フローラってパティを殺した犯人を探しているんですってね?」


 ケイシーは好奇心旺盛らしい。事件の詳細を聞きたがっていた。見かけは可憐なタイプだが、目は意外とゲスい。野次馬根性を滲ませていたが、ケイシーも何か知っているかもしれない。事情をさらっと話し、噂などを探ってみた。


「え、アリスか魔術師のルーナが容疑者?」

「しっ! まだ証拠はないから大きな声では言わないで」


 そう言っても余計にケイシーは野次馬根性たっぷりの目を見せてきた。確かに人は内緒と言われれば、余計に探ってみたくなる生き物かもしれない。


「アリスは正直、単なる親の七光だと思うけどね」

「そう?」

「一度共演した事あるけど、すっごい無能だったよ。セリフも棒読み。そもそも覚えてこない。アリスのようにぼやっとした子が、クッキーのラベル張り替えたり、細かい工作できる? 私は無理だと思う。アリスが犯人だったら、共犯者がいるよ」


 ケイシーの意見は無視できなかった。確かに今まで劇場周りで聞いた話では、アリスに「頭いい子」とか「計画性がある子」などと言うセリフは一回も聞いた事がない。


 ケイシーが自身の金色の髪をブラシでとかしつつ、こうも言ってきた。


「だったら犯人は魔術師ルーナ? よく分からないけど、ぼったくり商売してるっていう噂も」

「どんな噂?」


 フローラは身を乗り出すて聞く。


「ルーナの事務所では、個人セッションとかカウンセリングやっているそうだけど、不倫している女性を上手く唆して、借金漬けにしているとか」

「え、何それ?」


 魔術師ルーナの評判は全く調べていなかった。世間の人気魔術師という評価を勝手に鵜の揉みにしていた。


「確か『略奪☆不倫の運命の恋カウンセリング』とかいうメニューで売っていたみたい。いやね、下品」


 そう語るケイシーの目もだいぶ下品ではあったが、ここは聞き捨てならない。もしそうなら、絶賛略奪中だったペティもルーナの意見は素直に聞くだろう。ルーナからだったらクッキーを食べても全く不自然ではない。


「ありがとう、ケイシー。これは、ルーナにも会って話を聞くわ」

「ええ、頑張れって。あれほど迫力がある悪役演技できるんですもの。ルーナにも勝てるわ」


 ケイシーに軽くハグをされ、すっかり励まされてしまった。


 そうだ。まだまだ負けられない。犯人からは脅迫状を送られたが、怖がっている場合では無い。


 フローラが劇場からルーナの事務所に向かっていた。上手くすれば、自白させる事も出来るかもしれない。


 昨日は眠れず、今日は劇場で代役。身体は疲れているはずなのに、心は全く疲れてはい。


 むしろ、これから犯人を捕まえられると思うと、クスリと笑ってしまう。


「私は地獄になんて落ちないから。そんな運命があったとしても、叩き潰すわ」


 そんな独り言を呟くと、ルーナの事務所に入っていた。

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