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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第2部・サレ公爵夫人の内助の功〜呪いの愛人ノート殺人事件〜

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呪いの愛人ノート編-3

「余計な事はするな。事件はプロに任せておけばいいんだよ!」


 目の前にいるコンラッドが吠えていたが、右から左に抜けていく。


 フローラはゆっくりと紅茶を啜り、微笑んでいた。もちろん作り笑いだ。目は冷ややかで全く笑っていない。


 あの後、劇場周辺も聞き込みをし、アリスについて調べた。チケット販売員や掃除のおばちゃんなどに聞いたが、総じてアリスの印象は薄いようで、頭の中で顔を描くのは困難だった。もちろん、今どこにいるかも不明。


 一つ分かった事は、アリスと母親のブリジッドはかなり不仲という事だった。何をやっても上手くいかず、引きこり状態になったアリスに役者の仕事をやらせた事もあったらしい。しかし無能なアリスはろくに台詞も覚えられず、監督やスタッフの評判も悪くなり、すぐにやめたらしい。いわゆる親の七光というものだったが、これがきっかけに母娘の関係はより悪化。


 アリスは不良になったり、ブリジッドは宗教や魔術にハマっていったとか。アリスがパティと結託して母親を脅したとしても、不自然ではない。


 それが分かったところで、すっかり日が暮れていた。さすがに疲れたので後者家に帰ってきたが、客間にコンラッドが鎮座している。しかも捜査を邪魔するなと怒られ、フローラの疲労は倍になりそう。どうせ碌でも無い事しか言ってこないだろう。無視でいいやとコンラッドの発言は流す事にした。


 目の前にいるコンラッドの後頭部はヒヨコみたいになっている。確かコンラッドは三十歳ぐらいだが、将来の夫の頭皮も想像でき、フローラは楽しくはない。


 それにコンラッドは夫の作品・「愛人探偵」を片手に何か喚いていたが、一体何が気に入らないのだろう。


「だから、奥さん! こんな素人調査なんてお辞めなさい。餅は餅屋だろ。パティは自殺! 余計な事するな」


 コンラッドはそう吠えた後、「愛人探偵」をばさりとテーブルの上に置いた。その音でようやくフローラもコンラッドの相手をする気になったが、退屈で欠伸が出てきた。


「ちょ、奥さん。俺の話聞いてるか?」

「キイテマスー」

「棒読みで言うな! 聞いて無いだろ!」


 コンラッドは顔を真っ赤にして怒っていたが、何かピンときたらしい。


「奥さん、この『愛人探偵』に出てくる主役は本当にモデルはあんたか? だとしたら、愛人ノートってやつはどこにあるんだ?」


 コンラッドは腐っても白警団の男だ。カンは悪く無いらしい。


 フローラは内心、ギクリとしたが、顔は平然と微笑んでいた。内心と表情が全く違うのは、貴族あるあるだ。フローラは動じた所は一才見せず、紅茶を啜る。


「コンラッド、この小説は夫の妄想の産物ですわ。愛人ノートなんて存在しません」

「本当か?」


 コンラッドは脚を組み直し、フローラを鋭く睨みつけた。


「そもそも愛人ノートなんて探してどうするんです?」

「いや、どうもしないさ。でも不貞なんてする女って頭おかしいからな。何か犯罪の匂いがするわけよ」


 無能だと思っていたコンラッドだが、完全にバカでは無い様。かと言ってこのまま捜査に首を突っ込まれても、解決しそうな予感はしない。むしろマムの時のように余計な事をしでかしそうだった。


「その点については同意だけど、こんな場所にいていいの? 他の仕事は?」

「おお、そうだった。隣国は内戦中だからな。国境近くで事件が多いんだよ。こんなサレ公爵夫人を相手にしている暇はないぜ! 内偵もあるんだからな!」


 コンラッドは捨て台詞を投げると、さっさと帰って行ってしまった。


「何なんのよ、あの白警団は」


 一人客間に残されたフローラは、ため息しか出ない。おそらくトマスが書いたゴシップ記事を見て公爵家にやってきたのだろうが、相変わらず碌な事を言わないようだ。


「お、奥さん!」


 そこに紅茶のポットを持ったフィリスが入ってきた。今日もシスター・マリーの所で仕事だったようだが、すっかり所作も落ち着いていた。


「全くコンラッドは何しに来たんだか。って、奥さんの調査の進捗はどうです?」


 ここでフィリスと一緒に分かった事を共有する事のした。


「やっぱりパティは愛人ノート盗んで脅してたんだ。最低な不倫女よ!」

「まあまあ、フィリス。元を辿れば私のせいでもあるからね。フィリスは犯人は誰だと思う」

「アリスでしょ」


 即答だった。


「動機もあります。脅しの取り分でパティと揉めたんだ。で、邪魔になった」

「おいおい、フィリス。アリスが仮に犯人だとして、どうやってクッキーを食べさせるんだい?」


 そこにアンジェラも入ってきて、テーブルの上を片付けながら言った。


 確かにアンジェラのツッコミ通りだ。ピーナッツの香りがするクッキーをパティに食べさせられるか?


 その点、ルーナの方が簡単そうだ。魔術師的に「

 食べないと地獄に落ちるわ!」などと言って半ば無理矢理クッキーを食べさせる事も可能か。それにパティはルーナに憧れていた可能性も高い。


「でも、どっちにしろ証拠はないね」


 リアリストのアンジェラはバッサリと切り捨て、これ以上推理も進まなくなってしまった。


「だったらアリスを探すしかないですよ!」


 フィリスは口を尖らせ提案。


「でも肝心の顔が不明なのよね」


 フローラもそうしたい所だが、今までの証言からアリスの顔が思いつかず、頭を抱えてしまう。


「だったら奥さん。パティとアリスに脅されていた可能性がある元愛人にあたるんですよ。他のエリュシュカ、クロエがいたでしょう?」


 アンジェラの提案はもっともだった。諦めていたが、冷静に考えればまだ調べていない。


「奥様、引き続き頑張ってください」

「そうですよ、アンジェラの言う通りです。まだまだ諦めるのは早すぎます!」


 アンジェラにもフィリスにも励まされてしまい、フローラは深く頷いた。


「ええ。ここで諦めたり何枚しないわ。コンラッドにギャフンって言わせるんだから」

「奥様、今時ギャフンなんて言う人はいません!」


 つかさずアンジェラのツッコミが入る。


「いますよ!」

「います!」


 珍しくフローラとフィリスの声が重なり、一同は腹を抱えなはがら大笑いしていた。まだ犯人の尻尾は捕まえられていない。それでも姿らしきものは見えてきた。もう迷路からは抜け出せたのかもしれない。

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