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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第2部・サレ公爵夫人の内助の功〜呪いの愛人ノート殺人事件〜

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疑惑編-3

 客間にいるコンラッドは、大股で座り、ドヤ顔だった。


 マムの事件後は、自らの失態について負け犬の遠吠えをしていたコンラッドだった。白警団内でも立場が無いという噂を聞いたが、今、目の前にいるコンラッドは、限りなく偉そうだ。


 元々鋭い目の嫌味な男だったが、今は余計にイライラとしてきたが、悟らせるわけにはいかない。フローラは薄く微笑み、事情を聞く事にした。


「単刀直入に言う。パティは自殺だ」

「は?」


 あの極悪女のパティと自殺という言葉が全く結びつかない。まるで水と油のような関係でフローラは言葉も出なかった。


 その間にコンラッドは白警団の調査結果をペラペラとスピーチ。彼の頭の中では国王にでもなった気分か。それぐらい流暢だった。


 ペティの死因はピーナッツアレルギーが反応した結果だった。あのパーティーの直前、ピーナッツオイル入りのクッキーを食べ自殺。自室には遺書のようなものも見つかり、状況から見ても自殺だと判断したという。


「まさか、あんな極悪不倫女が自殺するわけないわ。ちゃんと調べなさいよ」

「おいおい、素人が何を命令してるんだ。しかもサレ公爵夫人が。あはは」


 本当に嫌味だ。コンラッドは足を組み、さらにスピーチを続けた。死への引き金を引いたクッキーは、シスター・マリーの菓子屋で販売されたものだという。


「シスター・マリーの?」

「まあ味は良いクッキーだからな。最後の晩餐として食べたかったんだろう」


 ここでコンラッドは口笛まで吹いていたが、あのパティが自殺なんて。しかもシスター・マリーの菓子で。少なからずマリーとフローラは関係がある。ブリッジッドがマリーの菓子を大口注文したとも聞いた。


 これは単なる偶然?


 そもそもパティがピーナッツアレルギーがある事をどれだけ人が知っていたのか。悪意がなくても誰かの差し入れでうっかり食べてしまう事もあるだろう。当日、パティの部屋に誰か来なかったのか。あるいはクッキーをプレゼントした者がいなかったか。


「ちゃんと調査しなさいよ。パティはクッキーはいつ入手したの?」

「クッキーを無理矢理食べさせるなんて無理だろ。どう見ても自殺。はい、論破。それってあなたの感想だろう。サレ公爵夫人の感想なんて聞きたく無いわ〜」


 コンラッドの嫌味な表情は全く楽しく見えない。むしろイライラするが、表に出すのは負けを認めるようだ。わざと上品に微笑み、フローラは一番知りたい事をきいた。


「自殺だとしたら、サレ妻の私に罪悪感でも持ったから?」

「そんな訳ないだろ。遺書らしきものは、公爵とこの世でくっつけない事を嘆き、悲劇のポエム書いてたな」

「ポエム? 他にノートみたいなものはパティの部屋から見つかった?」

「は、ノート?」

「うん? 公爵夫人、何か知ってるのか?」


 愛人ノートを盗んだ犯人=パティ?


 もし愛人ノートがパティの側にあったら、いくら無能&コネ男のコンラッドでも、何か怪しいと思うはず。事実、マムの事件の時は証拠もない癖に疑ってきた。


 そんなコンラッドがあっさり自殺と判断した事は、愛人ノートはパティの部屋から見つかってない。


 愛人ノートを盗んだ犯人はパティではなかった?


 またはパティだったが、別の人物の元にある?


 確か愛人ノートには「パティはピーナッツアレルギー」と書いた。パティを殺した犯人は、そこを見て殺人を実行した。筋は通ってしまう。


 まるでフローラが書いた愛人ノートが呪いを呼んだみたいだ。しかしそんな呪いで人は殺せない。マムの事件でそれは立証済みだ。


「じゃあな、サレ公爵夫人。いや、無能な素人探偵か。俺は他の凶悪事件で忙しいんだよ。なんせ白警団のエリートだからなっ!」

「ちょ、コンラッド。待ちなさいよ、まだ聞きたい事があるんだけど」

「待つもんか。パティは自殺。はい、終了。って言うか公爵の元愛人達がことごとく不幸になってると聞いた。奥さんが何かやっただろ。本当に呪詛でもしたか? 万が一自殺じゃなかったら、奥さんが呪い殺したんだろう? 奥さんが犯人だ」


 コンラッドはお茶も飲まずに帰って行ってしまった。


 入れ替わりのようにお茶と菓子一式を持ったパティが客間に入って来た。


「なんなの。コンラッドのヤツ。パティみたいな女は自殺なんてしませんって」


 それはフィリスも同意だった。フィリスはお茶と菓子一式をテーブルの上に置いた。とりあえず二人でこのお茶を飲む事にしたが。


「でもフィリス。無理矢理クッキーを食べさせる事って可能だと思う?」

「うーん、無理ですよ……」


 実際、今の二人もお茶と共にチョコレートクッキーを食べていたが、無理矢理口に入れるのは不可能だ。眠らせたとしても、硬い咀嚼するのは難しい。水っぽいものだったら眠らせて飲ませる事は出来そうだが。だとしたら、パティ自らクッキーを食べるよう誘導した「何か」があったはずだ。


「あ、でも。もしかして!」

「フィリス、何?」

「ちょっと待って」


 フィリスはバタバタと走りながら、退出すると、すぐに戻ってきた。また行儀が悪くなってしまったが、今はそれどころでもない。


「これですよ! これ、あの日のパーティで見つけたラベルです。シスター・マリーのクッキーのラベルです!」


 フィリスは息を荒げながら、それを見せてくれた。確かのあの日、ラベルを拾った。何か必要みなるかも知れないと、一応フィリスにとって置くように頼んだものだった。


「でも、このラベル……。原材料にピーナッツオイルとは書いてない。確かマリーのクッキーにはピーナッツオイルを使っていると書いてあったけど……」


 ラベルは何か違和感を覚えた。もし、このラベルが虚偽だったとしたら、間接的に殺人ができてしまう。


「まさかマリーがラベルを書き換えてパティを殺した? そんな訳ないです」


 フィリスは口を尖らせて否定した。フローラだってそう思うが、犯人がラベルを偽装してパティに渡した可能性も多いにある。たった一行、原材料の表示を変えるだけでできるのだから、ある意味誰でも犯行は可能。


 パティのアレルギーについてどれだけ知られていたか。


 これが今回の事件を紐解く鍵になりそうだ。もしさほど知られてなかったとしたら、愛人ノートを盗んだ犯人と同じかも知れない。あそこにはパティのアレルギーについても書いてあった。


「でも私はマリーが犯人なんて思えませんよ。あんなに丁寧に指導してくれたんですよ」

「そうね……」


 フローラは紅茶を啜りながら頷く。あれほど信仰深いマリーだ。復讐は神がすると断言していた女性が、自ら手を出さないだろう。もしかしたら過失の可能性はあるだろうが。


「とりあえず、これからマリーの所へ行きましょう。このラベルについてはマリーが一番詳しいわ」

「そうですね。でも、その前にお茶飲みましょう。クッキーも。キリキリに張り詰めても、ろくな結果にならないですよ、奥さん。もう夕方ですし、明日でも良くない?」

「そうね……」


 これはフィリスに同意だった。今は少しお茶を飲みながら、身体も心も緩めよう。


「まあ、うちらは愛人ノートの件も知ってるし、コンラッドなんかよりな数歩進んでますよ! 大丈夫、パティを殺したヤツは必ず捕まえましょ!」


 フィリスの明るい声を聞きながら、フローラの心も緩んできた。


 確かに今はまだ何も分からないが、コンラッドよりはパズルのピースを持ち合わせているだろう。それにコンラッドは最終ゴールを間違えている可能性もある。そう思うと、フローラは余裕が出てきた。


 それに愛人パティが死んだって別に嬉しくもない。むしろ、死に逃げされた気分だ。夫は可哀想な事になっているし、このまま作品が描き続けられるかも未知数だ。パティにもっと「この泥棒猫!」と罵りたくもあった。そう思うと、パティを殺した犯人に同意できない。むしろ邪魔された。これは犯人を見つけるしかない。コンラッドがいくら自殺と言い張ったとしても。


「奥さん、紅茶美味しいね!」

「ええ」


 フィリスと二人で啜る紅茶は甘やかに感じるほどだった。

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