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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第2部・サレ公爵夫人の内助の功〜呪いの愛人ノート殺人事件〜

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疑惑編-2

「ひぇ!」


 編集者のネイトは、フローラを見ると、吸血鬼でも遭遇したかのように身を震わせていた。


 夫がいるホテルの部屋から出て、ロビーに向かうとネイトがいた。ネイトも夫の服や食べ物の面倒を見る為、ここにやって来たらしいが、フローラを見ると、カタカタ震え始めた。


「いいから、ちょっとあなたにも聞きたい事があるのよ」


 フローラは震えているネイトの首根っこをつかみ、ロビーのソファに座らせた。今日のネイトは子犬のように従順。「愛人探偵」のシリーズを続けろと脅せばコクコクと頷きそうだが、そんな事はしない。


「奥さん、いや、俺のことを呪い殺さないで! ごめんなさい! 陰でメンヘラ地雷女とヒソヒソしていた事を謝ります!」

「はあ?」


 そう言われる事も心外だったが、なぜ今日のネイトはこんなに怖がっているのか。目にはうっすらと涙も浮かんでいた。ネイトのボサボサ頭や汚いスーツがいつも以上に弱く見えてしまう。


 そうは言ってもフローラは聖女ではない。今までのネイトの仕打ちを考えると、むしろ怒鳴りつけたくなるが、作り笑いをし、事情を聞いた。


 出版社ではパティの事件が話題になっているらしい。パティの親族も乗り込んできて、「あの公爵夫人にパティ呪い殺された!」という騒ぎもあったらしい。その噂を信じたネイトはフローラに呪い殺されるのではないかと怖がっているという。


 ため息しか出ない。大の大人が呪いとか。マムの事件の時は、魔術師エルの狂言を信じる大人もいた。人間は未知なものが怖いと思うものだ。フローラと全く親しくないネイトが噂を信じてしまうのは、無理もないかもしれないが。


「他に知っている事が?」

「無表情で詰めて来ないで下さい! ああ、怖い!」


 いつまでも怖がっているネイトにため息も出てくるが、このゴシップが広がったら、公爵家の名誉は地の果てまで落ちるだろう。既に名誉など落ちているとはいえ、何とか手を打たなければ。


「いいから、パティについて知っている事を全部吐きなさい」

「わ、わかりましたよ! 呪わないでくださいね!」


 ネイトは下唇をプルプルさせながらも、知っている事を教えてくれた。


 最近のパティは金回りがよく、豪華な宝石やドレスを身につけていたらしい。これは夫の証言とも一致する。


 フィリスの推理通り愛人ノートを盗んだ犯人=パティか。動機は元愛人達を脅し、金品を要求していたから。完全にフローラの憶測で証拠は何一つないが、その過程で逆恨みされ殺された。可能性は十分にある。そしてこの憶測が正しいとすれば、元愛人の誰かは犯人だ。


「それで、他に何か知っている事は? 何でもいいから言いなさい」


 怖がっているネイトだが再び口を開いた。今の軽く睨むだけで何でも吐きそうだ。


「そうだな。パティは若い女と一緒にいた」

「若い女? エリュシュカだった?」

「エリュシュカって誰ですか?」

「夫の元愛人だけど、妖精みたいなルックスの女」

「いえ、そんな美人じゃなかったな。なんか存在感薄めで幽霊っぽくて、ヲタクっぽいというか。顔が思い出せない」


 そんな女は元愛人の中ではいない。夫は女の趣味は悪いが面食いだ。元愛人は美人率が高い。パティと一緒にいた若い女は、夫の元愛人ではないだろう。


「だとしたら誰?」

「知りませんって」


 これ以上ネイトから話を聞き出すのは不可能だろう。夫の世話を見るようの頭を下げネイトと別れた。フローラが頭を下げていた事に彼は目を丸くしていたが、今の夫の一番の頼りはネイトだろう。そこは頼むしかなかった。


 その後、出版社周辺でも聞き込みをしたが、ネイトから聞いた情報以上の事は聞き出せなかった。完全に徒労に終わり、気づけば夕方になっていたので、とりあえず公爵家に帰ったが。


「奥さん! 大変です。コンラッドが来てます!」

「あの白警団のコンラッドですよ!」


 帰るとアンジェラとフィリスが飛びついてきた。コンラッドが来ている事は想定内だったが、まさかこんな早く来るとは。


「ええ、分かったわ。フィリスは紅茶を準備して。アンジェラはいつも通り夕食の準備を進めて」


 動揺している使用人達とは裏腹に、フローラは冷静だった。公爵夫人として冷静だったという事もあったが、夫の不貞と比べればマシだ。それに事件に巻き込まれた今は妙に肝が据わってしまっていた。


 フローラは落ち着きながら、コンラッドがいる客間に向かった。背筋を伸ばし、ソファに座っているコンラッドを真っ直ぐに見つめた。


「奥さん、また会いましたね。今度こそは我々の勝ちだ。パティの死因も全部俺が知ってるぜ」


 コンラッドの勝ち誇った声が響いていた。

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