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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第2部・サレ公爵夫人の内助の功〜呪いの愛人ノート殺人事件〜

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殺人事件編-3

 真夜中にお茶会を開く貴族はいるだろうか。かなり少数かもしれないが、公爵家のダイニングルームに灯りをつけ、テーブルも上は紅茶一式、それに菓子類が並べられていた。菓子類はフローラが作った蒸しケーキやクッキーなど。前日の余り物だが、今もふんわりとバターの香りが漂っていた。


 そんなテーブルを囲むのは、フローラ、アンジェラ、フィリスの三人。全員パジャマ姿で実にユルい雰囲氣が漂っていたが、フィリスは全身全霊で謝罪中。


「ああ、ごめんなさい。鍵を開けっぱなしにしたのは、私です! 私のミスですぅー!」


 窓の外から鳥の鳴き声だけが響く静かな夜だったが、フィリスの大声にフローラの耳はキンとなった。


「奥さん、申し訳ないです。愛人ノートが盗まれたのは、私達の責任です。こら、フィリスも頭下げて」

「わあ、ごめんなさい!」


 フローラは紅茶を啜っていたが、使用人達の失態は責めなかった。元々田舎者で粗野なフィリスには、仕事の出来は期待していない。していないが、ため息が出る。まさかここまでうっかりメイドだったとは予想外だ。


「まあ、仕方ない。フィリスを雇った私の責任です。アンジェラ、頭を上げて」


 フローラの酔いはすっかり覚めた。クララに家で夢見心地になっていたが、全部幻のよう。まさか愛人ノートが盗まれるなんて。


 状況から見て盗まれた可能性が一番高い。金庫をよく見たら、無理矢理こじ開けようとした跡もあった。おそらく犯人は金も狙っていたのだろう。


「いいから、フィリスも頭を上げて。でもあなたには、躾の教師を頼みましょう。そうね、これは私が探します」

「わー、奥さん! 許してくれるんですか? 奥さん大好き! フローラ奥さんバンザイ!」


 寛大に許してやると、フィリスは調子に乗って煽ててきた。この変わり身の速さは、どう見ても田舎者だったが、叱る気力も失せてきた。


 それにこうして真夜中にお茶会をするのも、意外と楽しいものだ。紅茶にはカフェインが入っているはずだが、さほど目も冴えない。それにこんな時間菓子を食べるのも、背徳感が刺激されて面白い。


 マムの事件に前までだったら、多分こんな事はしなかった。優等生的なルールを守るべきだと思う「つまんねー女」だった。でも今は、そんな場所から解放されていた。自分で認めるのも癪だが「おもしれー女」に変わりつつあるのかもしれない。


「奥さん、これは白警団に言いますか?」


 この中で人一倍冷静なアンジェラは現実的な提案をしてきた。


「ほら、マムの脅迫状の件もあった。早めに白警団に言っておいた方がいいのでは?」


 アンジェラの提案はもっともだが、あの嫌味で無能なコンラッドの顔が浮かぶ。マムの事件の担当だったが、彼の捜査はことごとく的外れの上、フローラや夫も疑われた。あのコンラッドに細い目、人を見下したような低い声などを思い出すと、今、この件を通報しても無駄か。それに盗まれたモノがモノである。夫の不貞を記録した愛人ノートが盗まれた。コンラッドは鼻で笑い、スルーする可能性が高い。そもそも白警団に信頼もしていない。


「だったら、私達で犯人を探しましょうよ!」


 フィリスは自分のミスを棚にあげ、犯人を見つける事を提案してきた。何が面白いのか、冒険小説でも読んでいるかのように目がキラッとしていた。


「犯人は公爵さまだろう。この愛人ノートが一番都合が悪い。このせいで公爵さまは離婚する時、かなり不利だわ」


 アンジェラはクッキーをボリボリ噛み砕き、推理を発表した。


「でもアンジェラ、公爵さまが愛人ノートを盗むんだったら、他にいくらでもチャンスがありますよ。金庫を取ろうとする理由もないです」


 フィリスのツッコミはもっともだった。一番愛人のーとびついて都合の悪い人物だが、夜中に鍵が偶然開いた公爵家に忍び込む必要もない。そもそも今はパティに夢中で、頭もおかしくなっている。離婚後の事など全く考えていないはずだ。


「だったら誰?」


 フローラもクッキーをつまみつつ考えるが、心当たりが大多過ぎる。パティも第一容疑者だ。あの成金娘は金庫を取ろうとしても全く違和感がない。夫から公爵家の間取りを知るのも簡単だろうが、愛人ノートを盗む動機は不明だ。夫を略奪した後、有利に使おうとしている可能性はあるが。


「パティは脅す為にに盗んだんじゃないですか? 元愛人たちに世間に公表するぞって脅して、お金とる為?」


 うっかりメイドのフィリスだったが、この推理は筋が通っていた。さすが探偵の娘なのか。これにはフローラもアンジェラも目から鱗だった。


「おそらくパティが犯人ね。でも証拠もない。それに元愛人達にも動機があるわよ。世間に公にされたくない元愛人達が盗む理由はある」


 フローラはそう言いながら、過去の愛人達を思い浮かべる。


 まずはドロテーア。彼女も不動産投資で儲けていたが、確か実家から縁談もあった。過去の不倫が公になるのは痛い。


 それに女優のブリジッド。彼女は今も清純派として仕事がある。だとしたら、世間に過去の不倫が公になるのは痛い。昨日会った時も何かに怯えていた。


 また画家のクロエ、容姿だけは良いエリュシュカも不倫がバレたら困るだろう。二人とも家柄は良いお嬢様だ。特にクロエは不倫がバレたら、パトロンから資金が引出せないかもしれない。クロエはフローラに脅しもしていたし、彼女が愛人ノートを盗んでいても何も不思議では無い。


 この中で愛人ノートを盗んだ犯人がいる? 容疑者が多く、サレ妻の立場でバイアスがかかるフローラは全員怪しく見える。


「この中で誰が一番、夫との不倫がバレて困ると思う?」


 自分一人では分からないので、聞いてみた。


「ブリジッド!」

「女優のブリジットでしょうよ。一番世間にバレたら困る」


 フィリスもアンジェラも同意見だった。確かにスキャンダルになったら、一番打撃がある。仕事も全部失う可能性がある。


「そうね、ブリジッドが一番、困るわよね」


 フローラは深く頷いていた。これはブリジッドを探るのが一番の近道か。あの怯えた態度も気になる。まずはブラッッドを探ってみるか。


「さあ、もうお茶会はお開きよ。もう寝ましょ」


 そうこうしているうちにフィリスもアンジェラも眠そうだった。このまま推理を続けても、ろくな答えは出ないだろう。


 まずはブリジットをさ探る事に決め、こも真夜中のお茶会は解散となった。

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