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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第2部・サレ公爵夫人の内助の功〜呪いの愛人ノート殺人事件〜

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極悪成金お嬢さま編-1

 案の定、夫の新作「愛人探偵」は貴族界隈で物議を醸し出しているらしい。貴族達からの手紙には、ある事ない事も書かれていたが、共通しているのはどれも「愛人探偵」の内容に批判的だった。


 公爵が書く内容ではないとか、主役の女性が下品過ぎるとか。遠回しにフローラ達への批判だが、ため息しか出ない。


 あの朝食を食べた後、送られてきた手紙を読んでいた。書斎に一人籠り、全てチェックしていたが、気持ちの良いものはない。中にはエロ男爵として有名な男から夫を讃える手紙もあり、全部破りたくなってしまった。


 それでも一通だけフローラを心配する手紙があった。親戚のクララからのものだった。クララは伯爵夫人でありながら、舞台女優をやっていた女で、今は劇場を作り活躍しているそうだ。もう五十歳ぐらいだが、精力的に女優の仕事もしているそう。なぜか舞台に出る事や友達同士で会う事も勧められていたが、フローラを気遣っている事がわかる。


 フローラはクララにだけは急いで返事を書き、フィリスに郵便局へ持って行かせた。


 それが終わると、庭でハーブの世話をしていたら、またネイトがやてきた。ろくでも無い知らせを持って来たのだろう。追い出したかったが、夫に用事があるというので、渋々部屋まで案内した。あの蒸しケーキと紅茶も持って行った。


 夫はなぜかネイトにだけは素直で、引きこもりのままでも普通に扉を開けていた。解せない。


 思わずフローラの眉間に深い皺が生まれたが、夫はこの場所に居て欲しいとう。これも意味が分からないが、同席する事にした。


 テーブルに上は香り高い紅茶、それに食べやすく切り分けた蒸しケーキ。


 夫は全く手をつけていない。一方、ネイトはムシャムシャと食べていた。しっとりと柔らかな蒸しケーキは、あっという間にネイトの腹に収まった模様。


「何しに来たの、ネイト。お菓子を食べに来たの?」


 お腹いっぱいになり満足そうなネイトを見ていると、いい気分はしない。フローラは奥歯を噛みながら、わざとらしい笑顔を作っていた。フローラと付き合いが長い夫はぷるっと震えている。おそらく妻の機嫌は全く良くない事を察知したのだろう。


「ええ、実はこれ。先生の『愛人探偵』の売り上げ等の報告です」


 ネイトはカバンから一枚に紙を見せた。手紙の便箋よりは少し大きなサイズだったが、ここには本の売り上げの数字が並ぶ。初版の一割ほどしか売れてなく、宣伝経費を含めると完全に赤字だった。


 夫のいつもに作品はこんな赤字は無かったはず。明らかに爆死だ。売り上げ的に完敗だ。


「あああ、どうしよ!」


 夫は絶叫し、ネイトの持って来た紙を見つめていた。


「あなた、こんな売り上げに負けちゃダメよ。シリーズ二作目を描いたら、もっと受け入れてくれる読者もいるわ」

「奥さん、お花畑はお辞めなさい」


 珍しくネイトははっきりと言葉にしていた。


「『愛人探偵』は打ち切りです。編集部で決まりました。こんな爆死ではどうしようもない。さ、先生、次の企画書を作りましょう」

「そ、そんな……」


 夫はフローラよりも動揺し、涙目になっていた。そういえば夫の本はデビュー作からよく売れていた。初めての爆死だ。もしかしたら挫折自体も初めてか。夫が公爵家で甘やかされて育った事は、アンジェラからよく聞かされていた。


「ええ、先生は恋愛小説家に戻ってくださいよ」


 ネイトのその言葉に今度はフローラが動揺する番だった。これはつまり、夫の不貞が再開するフラグ?


「ネ、ネイト、何を言っているの?」

「我々も営利企業です。残念ながらお金が全てです」


 ネイトは眉ひとつ動かさず、紹介する愛人リストを夫に見せていた。


「ネイト! 妻の前でやる事です? 私の立場はどう思っているの?」


 腹が立ってきたが、フローラはあえて笑顔を見せた。嘘くさい笑顔だっが、ネイトには何も伝わっていないようだ。


「不貞を勧める編集って何? ちょっとあなたも辞めてくださいよ」

「お、この成金のお嬢さま、可愛い名前だな。パティだって」

「は?」


 一方夫は愛人リストを見ながら、鼻の下を伸ばしていた。引きこもり中はゾンビみたいになっていたのに。ネイトから本の爆死を知らされ動揺していた時は、死にそうな目をしていたのに、一体全体どういう事?


「決めた! 俺はやっぱり恋愛小説家になるぞー!」


 夫は高らかに宣言すると、カバンを持って外へ出て行ってしまった。


「ちょ、あなた。どういう事!」


 フローラは必死に止めたが、夫は全く聞く耳を持たなかった。


「あんたのせいよ!」


 フローラはブチギレた。思わずネイトにメンヘラしそうになったが、彼は案外冷静だった。


「奥さん、諦めましょう。浮気は男の本能みたいなもんです。治りそうもないです」

「な、なんて事……!」

「そんなミステリー作家になったぐらいで本性なんて治りませんよ」

「うっ……」


 悔しいが、ネイトの言う通りだった。その後、夫は全く帰って来なくなった。愛人の元にいる事は、明白だった。


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