番外編短編・二人の出会い
公爵令嬢フローラ・アガターは修道院で躾され、立派なレディとなって王都に帰ってきた。公爵令嬢という地位も神が与えたもの。いわば運が良くて貰えたものだから、そこに驕らず、貧しい人の為に奉仕しないと教え込まれていた。
今日も障害者施設や庶民が使う病院へ出向き、せっせと奉仕してきた。その姿はとても公爵令嬢に見えず、しょっちゅう父親に怒られていたが。
「フローラ、もうそんな奉仕とかしなくてよろしい」
「嘘、お父様。なぜです?」
父親の部屋に呼び出された。案の定叱られたが、何と縁談まで持ってきた。相手も公爵家。王都でも一番評判が良いアガター家の長男だった。
正直、縁談はそろそろ来る頃合いだと思っていた。見た目はキツく、色々と誤解されていたフローラだったが、実は恋愛小説も好きで、年頃の娘らしく結婚に良いイメージを持っていた。両親も仲が良いし、自分もそうなれるものだと信じて疑っていなかった。
「承知しましたわ。お父様、縁談をお受けしますわ」
あっけなく縁談は決まり、とんとん拍子で相手の男と会う事になった。名前はブラッドリー・アガター。絶世の美男子と評判らしい。薔薇公爵という二つ名もあり、令嬢達からも人気だった。
それ故にフローラの元には嫌がらせの手紙なども届いたが、たいして気にしなかった。修道院では、人の心には悪があり、小さなきっかけでも悪魔に追従してしまうと教わっていた。
「という事で、私は嫌がらせの手紙ぐらいでは気にしませんわ」
アガター家の庭で、将来夫となる男、ブラッドリーに語っていた。
「ま、マジで?」
「ええ。そういえばうちにも昔からこういう嫌がらせはよくあったわ。気にしていたら、キリがなく無いですか」
フローラは優雅に微笑む。
「お前、おもしれー女だな。普通の令嬢だったら、怖がって逃げるぞ」
ブラッドリーの話し方はチャラく、貴族らしきもなかったが、話してみると案外面白い男だと思った。作家を目指していて、今は恋愛小説を書くのに夢中だそう。将来は世界で一位の作家になると野望を語り、フリローラも聴きいってしまう。
「親は作家なんて辞めろって言うが」
「いいじゃないですか。私も恋愛小説が好きよ」
「そ、そうか?」
「頑張って。必ず良いものが書けるはずよ」
フローラが励ますと、ブラッドリーは子供のように顔をクシャリとさせていた。
これが二人の出会い。将来、あんな殺人事件に巻き込まれるとは想像もしなかったが、この時の二人は希望があった。
「ありがとう。何か君といたら、本当に良い作品が書けそうな気がするよ」
「ええ。応援するわ!」
庭のハーブや薔薇も太陽の光を受け、キラキラと光っていた。今はまだ将来の事は気にせず、お互いの事を知るのに夢中になっていた。




