番外編短編・ゴシップ記者の秘密
ゴシップ記者トマスは、殺人事件の知らせを受けた時、耳を疑った。
被害者であるマムは、極悪女として有名で、人殺しの噂もあった。何かネタになる機会がないかと、先月、マムの地元に行ったばかりだった。
「この偶然はチャンスかもしれね。頑張って取材するぞ」
マムとアガター家の公爵、その妻フローラともトラブルがあったという噂を耳にした。これは面白いとフローラの跡をつけていたら、あっさりと捕えられてしまった。
何か貴族の特権を使われるんじゃないかとビクビクしていたが、フローラは案外優しかった。高級ホテルに連れていかれ、ご馳走、お酒、マッサージと天国のような扱いを受け、ついついペラペラ話してしまった。
マムの地元では、元夫のリッキーの事も調べていた。どうやら男色の者達からモテていたようで、彼を悪く言う人物はいない。一番リッキーに親しかった友人は行方不明で色々と聞き込みしていたが、トマスの見た目は小汚いおっさん。中にはゴシップ記者だと見抜く者もいて、調査は上手くいかなかった。
という事もあり、これはフローラが調べた方が良いとも思った。
それに優しくして貰った恩もあり、もうアガター家については変な記事も書かないと心に決めた。
そうは言ってもアガター家の公爵の様子は気になり、彼が泊まっているホテルのな周辺を彷徨く事もあった。
「おい、お前、記者だろう? 何探っているんだ?」
アガター家の公爵に身分がバレた時は冷や汗が出た。噂通り猜疑心も強く、ゴシップ記者の顔と名前は全部頭に入っているようだ。
「違いますよー。記事にはしませんって」
トマスは事情を必死に公爵に説明し、ようやく理解して貰えたが。
「でもフローラはいいよなー。事件調査やってるなんて羨ましいぜ」
「は?」
「案外あいつはおもしれー女だったか。転んでもただでは起きない面白さがあるわな」
公爵はフローラについてそう語っていた。てっきり冷え切った夫婦だと思っていたが、フローラを語る公爵はまだまだ妻に未練がありそうだ。
子供が大事にしているおもちゃを取られそうになり、焦っているようにも見えたが、この事は誰にも言わずに秘密にしておこう。
もちろん記事にもしない。こんな事を書いても読者の需要は無いだろうが。
「そ、そうかい」
「うん。フローラはおもしれー女だよ。初めて気づいた。こんなギャップがあるとはな」
公爵の目は、子供のようにキラキラとしていた。
「うん、おもしれー女さ」
公爵はなぜかとても幸福そうに見えてしまった。




