番外編短編・編集者ネイトが行く!
ある朝、編集者ネイトは気づいた。異世界転生してしまったと。
前の世界では「常盤」という男で、よりによって同じく編集者をしていた。
「常盤」は死んだ記憶はないが、いつの間にかこの世界に迷い込んでしまったような?
「ああ、なんじゃ、この記憶は!」
頭を抱えそうになるが、ネイトは一人、前の世界の記憶をノートに書き出した。
詳細はよく覚えていないが、前の世界でも担当作家の妻に迷惑をかけられていたらしい。「川瀬文花」というメンヘラ地雷妻に振り回され、殺人事件にも巻き込まれた記憶も思い出す。
「っていうかサレ公爵夫人と川瀬文花は同じキャラじゃーん! まさか事件も同じか?」
現在、担当作家のブラッドリー・アガターは事件に巻き込まれていた。その妻のフローラもサレ後者夫人として有名だったが、あの文花と同じだとしたら? 事件も同じか?
そう仮説を立てたネイトは、ブラッドリーが巻き込まれている事件を推理してみた。
「確か前世ではアイツが犯人だったが、たぶん、トリック的にもコイツか?」
細部は色々違っていたが、ネイトは前世の記憶を頼りに推理をし、犯人はザガリーという男では無いかと見立てた。
「おー、前世の知識でチートできるかも!」
そう考えたらネイトは白警団に行き、自分の推理を披露しようと思ったが。
白警団では逮捕されたザガリーが連行されている所だった。ブラッドリーやフローラもいて、ニコニコ笑いながらこの顛末を見守っていた。
「そんな、一足遅かったか!」
頭を抱えた同時に前世の記憶も全て失ってしまい、チートで無双する事は夢と化した。
そうは言ってのフローラとの妙な噂も払拭され、ブラッドリーも新作に意欲的だった。
編集長はブラッドリーにミステリーではなく、恋愛小説を書くように頼まれたが、なぜかネイトはミステリーを書かせた方が良い気がしていた。編集長の反対を押し切り、ブラッドリーのミステリー企画を通す事にした。
もう前世の記憶はないが、そうした方が良い気がした。
ブラッドリーのミステリー小説が売れるかは分からない。売れなかったら、ネイトの立場も危うくなるが、心配しても仕方ないだろう。
ブラッドリーの筆を乗らせるために、愛人も紹介もしていた。妻であるフローラの事を考えたら酷い行動だったが、編集者としては正しい行動だと思っていた。
それでも今は、編集者としてより倫理観も芽生えてきたか困る。前世の記憶は無いが、「常盤」が何かを伝えたがっている気もするのだ。
「先生、原稿取りにきましたよ!今日こそは締め切り守ってくださいよ!」
今日も担当作家のブラッドリーの元へ仕事へ行く。
「ネイト、もう少し待ってくれん?」
「ダメです、先生!」
とにかく今は仕事だ。「常盤」もこんな自分は否定する事はないだろう。
「さあ、先生。原稿を書いてくださいね!」
ネイトは笑顔でブラッドリーに圧をかけ続けていた。




