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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第1部・サレ公爵夫人、探偵になる!〜悪魔な恋愛カウンセラー殺人事件〜

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幸せな結婚編-4

「病める時も健やかなる時もって誓ったけどさ、病める時って何なんだ?」


 夫は結婚式の直後、そう言っていた。フローラは白いドレスを飾り付けられ、教会の礼拝堂も全てを祝福されたかのように花で飾り付けられていた。


 礼拝堂の大きな窓からは、眩しい光も差し込み、一瞬ここは天国ではないかと勘違いしそう。


「さあ。でも幸せな時だけじゃなく、苦しい時も一緒にいる事が愛?」


 フローラは礼拝堂にある十字架のオブジェをチラリと見ながら答えた。


「幸せな時は一緒にいる人は多いわ。でも、不幸な時に側にいるのは、夫婦だけなのかも? 私はあなたがどんなに落ちぶれても、障害者になっても、全く稼げなくても一緒にいたい」

「そうか、そうかもしれない……」


 夫は何か深く頷き、フローラに手を差し伸べる。その左手の薬指には、ちゃんと指輪があった。


「病める時も必ず俺がフローラを幸せにするよ」


 とても美しい言葉だった。


 その数ヶ月後、夫が裏切るとは夢にも思っていなかった。


「ええ」


 フローラもこの言葉をピュアに信じた。この時は、幸せな結婚ができると疑ってもいなかった。病む時の事も、遠い未来にあるもので、ずっと自分は愛されて幸せになれるものだと。まるで恋愛小説のヒロインのような気分だった。


 ここで物語が終わっていたら、ハッピーエンド。喜劇とも言えよう。


 現実はそうではなかった。夫の不貞が発覚し、恋愛小説のヒロインから、サレ公爵夫人という不名誉な役柄に落ちてしまった。メンタルも病み、悲劇へ直行していた。公爵家に引きこもり、籠の鳥のよう。


 でも、この物語はずっとそう?


 このまま悲劇に漬かり、サレ公爵夫人のまま?


 フローラは障害者施設から別邸に走っていた。ドレスの裾を持ち上げ、鬼の形相で走っているフローラは、もう籠の鳥ではない。サレ公爵夫人でもない。悲劇のヒロインでもない。謎を解く探偵の顔そのものだった。


「ザガリーのやつ、絶対捕まえるから! 夫の事だって絶対助ける! 私は絶対殺人犯には負けないわ!」


 汗だくになり、息も絶えかけていたが、どうにか別邸のすぐ前についた。


 マムが殺されて以来、初めて立ち入る場所だ。白警団のテープも貼られ、立ち入り禁止になっていたが、テープの一部は千切れていた。誰か不法侵入した事は明白で、フローラの顔に緊張が走る。


「大丈夫、落ち着け!」


 自分に言い聞かせ、息を整え、背筋を伸ばした。ドレスの裾は土埃で酷い有様だ。靴の踵も潰れ、フローラの黒く豊かな髪もボロボロだった。


 結婚式の時は、美しく飾り付けたが、今のフローラは雑草のようだ。思わず、別邸の庭みある雑誌に目をやるが、毒ニンジンも生えている事に気づく。


 今は美しい花嫁なんかではない。毒を持った雑草のような気分だが、フローラの心は冷静になってきた。


 これから犯人のザガリーに対面する。もしかしたら殺される可能性だってあるだろう。


「それでも夫に浮気されるより、何倍もマシだわ」


 不倫は心の殺人。ある意味夫だって殺人犯だ。だとしたら、ザガリーと対面する事も、たいした事ないだろう。


 決意を固めたフローラは奥歯を硬く噛み締め、別邸の中へ入って行った。


 鍵は空いていた。薄暗く人気もない。風の音しか聞こえないが、フローラは背筋を伸ばし、キッチンやリビングへ行く。


 確かマムはリビングの方で殺されていた。あれほど憎く思った不倫相手だったが、今は不思議と憐れみもあった。フローラも同じように殺されるからかもしれない。マムも酷い女だったが、殺される時を想像すると、胸が痛む。誰しも不当に命を奪われて良いわけない。


「あ、あなた?」


 最後に書斎へ入ると、夫が倒れていた。顔は青白く、手足をだらりと伸ばしていたが、息はあるようだ。心臓が動いている様子を確認すると、フローラの目尻に涙が滲む。


「ああ、あなた。起きて!」


 身体をゆすったが、起きない。どうやら気を失っているようで、しばらく目を開ける様子はない。


 それでも夫が生きているだけでホッとする。この男だって殺人犯みたいな人なのに、どうしても心の底から憎めない。


「病める時も、健やかなる時も……」


 なぜか結婚式の誓いの言葉が口から溢れた時、目の前にザガリーが現れた。その右手には鋭く光ったナイフもあり、フローラの口から小さな悲鳴が溢れる。


「よお、サレ公爵夫人。そうだよ、俺は障害者なんかじゃねぇよ」


 ザガリーはナイフを目の前に突き出し、大笑いしていた。


「サレ公爵夫人も死んで貰おうか?」

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