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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第1部・サレ公爵夫人、探偵になる!〜悪魔な恋愛カウンセラー殺人事件〜

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面白い女編-4

 マムの地元・リーリア地方に降り立った二人は、まずは人の多い商業地区に向かっていた。


 商業地区に近くの広場には、百合の花を持った少女像もあり、庶民から親しまれているらしい。百合をモチーフにした雑貨や菓子なども多く売られていて、これで町おこしもやっているようだ。


「奥さん、見てくださいよ。百合のポーチやイヤリングとか可愛いです!」


 商業地区に入ると、百合の雑貨屋が目につき、調査も忘れて入店していた。時にフィリスは可愛い雑貨に目がないようだった。


「確かに可愛いわね。でもポーチなんてどうするの? 何個あっても仕方なくない?」

「いいんです! 買います!」


 可愛い雑貨を見ても一ミリも心を動かされていないフローラと違い、フィリスはたくさん買い物をしていた。もっともこうしてフローラに付き合ってくれているし、止めるつもりもない。


 その間、フローラは雑貨屋の女性客に声をかけた。もちろんマムの事を聞く為だ。フィリスのようの本来の目的は忘れていなかった。


 女性は三十代ぐらい。おそらく主婦だろう。雑貨屋の主人に子供を預けて遊びに来たなどと話していた。着ているものは地味だったが、生活に必要でもない雑貨を買っている所を見ると、生活レベルは低くはなさそうだ。所作もところどころ上品で、もしかしたら貴族のメイドをしていたかもしれないが。


「マム!?」


 その名前を聞くと、女性は嫌悪感いっぱいの表情を見せた。


「あの女、死んだのね。まあ、ざまあって感じ。まあ、マムはこの街であまりにも嫌われたから、家に閉じこもって引きこもりっぽい感じだったけどね。それで被害者ぶってぶりっ子するからもっと嫌われてけど」


 雑貨屋にいる他の女性客にも声をかけたが、誰もが似たような表情を見せた。見事に誰もマムの死を悲しんでいない。


「あのいじめっ子、死んで当然だしー。リッキーも死においやったっていう噂」

「リッキーって?」


 聞いた事にない名前だった。


「マムの元旦那さんよ。怪我して車椅子で生活してたけぢどね」


 あの元夫の事か。しかし、これ以上雑貨屋で聞き込みするのも怪しまれそうだった。会計を済ませたフィリスを引っ張って一旦外に出た。


「奥さん、次はどうしますか?」

「そうね。まあ、適当に聞いてまわりましょ」


 その後、商業地区のパン屋、菓子屋、豆屋、書店と聞いて回ったが、誰一人マムについて悲しむ人は居なかった。「死んで当然」とまではっきりと言う人も多い。想像以上にマムは嫌われているようだ。しかし、元夫のリッキーについては一同口が重くなった。噂ではマムがリッキーを殺したらしい。


「まさかマムが元夫を殺したんですかね? 奥さんはどう思います?」


 商業地区を出て、一旦広場に戻った。そこのベンチに座り、屋台で買った揚げドーナツを食べながら一旦休憩したが。


「まさか。いくらマムでも人殺しまでする?」


 揚げドーナツは甘いはずだが、そんな話題中に食べると、一気に胃もたれしそうだった。


「でも……」


 可能性としては多いにある。マムは実際、フローラにも脅迫状を送り、毒も持っていた。彼女が人殺しをしていたとしても、不自然ではなかったが。


「奥さん方、揚げドーナツを分けてくれんかね」


 その事で話し込んでいる最中、ホームレスに声をかけられた。もう初老ほどの男だったが、痩せ細り、着ているものもぼろぼろだった。


「いいわ。あげるわ」

「いいんですか、奥さん」

「いいのよ」


 ホームレスは涙目になりながら、感謝していた。


「ああ、神の思し召しだ!」


 演技がかった感謝しているホームレスを見ていたら、違和感を覚えた。フローラ達の前から去ると、また似たようなパフォーマンスをし、煙たがれている。


「乞食の演技気持ち悪いなー」

「本当は金持ちの癖に演技してるんだよ、わざとらしい」


 広場にいる他の庶民達は、そんな噂もしていた。ホームレスに見えたあの男は、演技だった?


「フィリス、あれ演技だったの?」

「そうですよ。田舎にはよくいるんです。戦争帰りの軍人も、片腕がない〜とか泣いて物乞いしているのは、よく見ましたから。奥さん、外見だけが弱い人は案外したたかかもですよ? そして本当の弱者は助けたい姿してないらしいです」


 フィリスはゲスい目をして笑っていた。


「そんなもの?」

「そうですよ。奥さんは公爵夫人ですから知らないと思うけど、人間って案外したたかです。悪いヤツなんて田舎に山ほどいますよ。ルールが通用する貴族社会と違うんです」


 何か穴だらけだったパズルのピースがはまりそうな感覚がした。


 マムの夫も事故で車椅子になったと聞いたが、これも何かのピース?


 夫は「自分が弱者になったら見捨てるんだろう」とも言っていた。弱者とは一体?


「さあ、フィリス。揚げドーナツばっかり食べている場合じゃないわよ」

「えー?」

「まだまだ聞き込みを続けるわ」


 再び商業地区に戻り、自転車や家具屋やアクセサリーショップで聞き込みを続けたが。


「まあ、リッキーはな。あれはあれで、変な友達も多かったから」


 自転車の主人はタイヤの整備をしつつ、噂を教えてくれた。


「リッキーは本当に事故だった?」

「それは確かだよ。でも、なー。自殺はマムじゃないか。あいつだったら、殺しもやりかねないよ」


 もはやマムに評判の割さには驚かない。フィリスも苦笑している程だった。


「ちなみにリッキーの遺書を受け取った友達ってどこへ?」


 トマスから聞いた情報では、リッキーの友人は行方不明と聞いたが。


「それがずっと行方不明なんだよなー」

「どんな事でもいいの。その友達の特徴でも何でもいいから教えてくれる?」


 フローラはこれがパズルのピースの最後になるような予感がしていた。自転車の主人はフローラ達にも怪しみ始めたが、スケッチブックを持ってきた。


「まあ、俺は画家でも何でもないけどな」


 そしてスケッチブックに友人の顔をサラサラと描いていく。


「ご主人さん、上手じゃないですか」


 フィリスが無邪気に褒めると、主人は調子に乗ったようだ。筆を動かし、さくっと一枚の絵を完成させた。


「え、この人がリッキーの遺書を受け取った友人?」


 絵を見たフローラは、言葉を失いそうになっていた。そこにはよく知った人物の顔があったから。


「間違いないぜ。俺はこれでも画家を目指していたから。まあ、金がなくて自転車屋つぐしかなかったけど。今は王都で人気ある画家の絵を見るぐらいだよ」


 主人はそう言い残すと、仕事に戻って行ってしまった。


「奥さん、どうしたんです? そんなに意外な人物だったんですか?」


 フィリスの呑気な声も遠くに感じてしまう。


「え、ええ……」


 おそらくこの絵の中の人物が犯人だ。状況はそう物語っていたが、証拠は何一つない。もし、この人を犯人だと認めさせるのには、どうすれば?


 それは人を呪いで殺した事を証明するより難しそうだ。フローラは奥歯を噛み締め、この絵を睨みつけていた。


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