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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第1部・サレ公爵夫人、探偵になる!〜悪魔な恋愛カウンセラー殺人事件〜

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面白い女編-1

 フローラが公爵家に帰ってきた時、天気が崩れて初めていた。マーシア達の障害者作業所ではあんなに晴れていたが。天気というものはなかなか読めない。


 ポツポツと雨も降り始め、公爵家のに庭にあるハーブ類もしっとりと濡れていた。


「それで、コンラッドさん。一体あなた、何の用?」


 フローラは公爵家のリビングルームでため息をつく。中央にあるソファにはコンラッドが我が物顔で座り、ぶつぶつ呟いていた。


 フィリスによると、さきほど公爵家にやってきたそうだ。目的も言わず、出した紅茶やクッキーをがぶ飲みしていたらしい。


 とにかくフィリスやアンジェラには自分の仕事の戻ってもらい、コンラッドと対峙するしかないようだ。フローラはコンラッドの目の前に腰を下ろして、公爵夫人らしくゆっくりと微笑んだ。


 内心は理由もなく公爵家にやってきたコンラッドにイライラしていたが、そんな表情を見せても仕方ないだろう。


「それに、このテーブルの上にあるもの何? 藁でできた人形?」

「これは異国にある藁人形というものらしい。これに釘を打ちつけると人を呪い殺せるんだ」


 他にコンラッドは呪いの護符、呪いの人形、呪いの円盤などを見せてきた。どれもエルの所で見つけたものらしいが、頭を悩ませているらしい。確かにエルはこれらでマムを殺したと語ったらしいが、エルには完璧なアリバイがあった。


 そして非科学的な殺害方法は、どうやってもエルの犯行だと立証もできず、コンラッドは悩んでいるらしい。頭をぐしゃぐしゃとかき、眉間には深い皺。それにヤケクソのようにクッキーをボリボリ。


「呪い殺すなんて無理よ」


 悩めるコンラッドには悪いが、事実だけを冷静に伝えた。


「夫の過去の愛人を殺してって頼んだけど、うまくはぐらかされた。エルにそんな力はありません」


 エルは怪しい事は怪しい。事実、コンラッドもエルを第一容疑者としているようで、ドツボに入ったと言う。数々の呪いのアイテムを収集し、実際殺せるかどうか白警団で検証しているというが、思った通りの成果はない。


「やっぱり奥さんが殺したんだ」

「どうしてそうなりますー?」


 フローラは呆れてため息をつく。


「夫は疑って無いんですか?」

「ああ、公爵がナンパした女が見つかったんだ。つまり、あの男にはアリバイがある」

「へえ」


 おっとりと微笑むフローラだったが、内心ホッとしていた。ナンパとはいえ、今はアリバイが成立した事が嬉しく、ついつい口を滑らせた。


「エルはマムの後をつけていたみたい。そういう噂を聞いたわ」

「本当か?」

「ええ。本人には言わないで。障害者作業所の職員から聞いたの」

「何でそんな所へ?」

「公爵家の慈善活動ですよ。さ、このクッキー召し上がって。私が焼いたんです」


 コンラッドにはクッキー大作戦は効かない気がしたが、意外にも頬が緩んでいた。うまい、うまいと何枚も食べていた。


「そうか、エルはマムをつけていたのか」

「あの男に殺意があった事は事実だと思いますね。問題はどうやって呪いをかけたか、です」

「そうだな! やっぱり白警団に帰って検証してくるわ!」

「ええ。頑張って」


 コンラッドは呪いのアイテムをかき集めると、飛ぶように帰って行ってしまった。今日はおそらく夫のアリバイが成立した事を伝えに来たのだろうが、食い散らかしたクッキーのカスを見ながら、再びため息をつく。


 本当に呪いなんてある?


「奥さん、呪いなんてないです!」


 ちょうどそこのフィリスが入ってきた。トレーを持っていたが、その上にはクッキーが盛られた皿がある。おかわりを持ってきたようだ。


「そうですよ。奥さん。やっぱ呪いなんてないです」


 アンジェラも入ってきた。アンジェラはティーポットを抱えていた。二人ともメイド姿が様になっていて、妙に頼もしく見えるのだが。


「二人とも座って。私が今日知った情報を共有しましょう」


 こうして三人で頭を突き合わせながら、推理を初めていた。話している内容は、呪いや殺人など暗い内容なのに、クッキーやお茶と共にしているので、雰囲気は限りなくゆるい。クッキーの甘い香りが三人の緊張も解いているのだう。


「私はエルが呪いをかけていると思ってたけど、違う気がする。だって現状、エルはコンラッドに疑われているんでしょ? だったらコンラッドを遠隔で呪い殺したら良いのに、そうじゃない」


 今日のフィリスは妙に冴えていた。さすが探偵の娘か。もしかしたら探偵の父親にアドバイスを貰っているかもしれない。


「私も呪いなんてないと思うね。フィリスが前に言ったよう、売名行為だ」

「アンジェラの言う通り。もしかしたら本当の犯人を知っていて、こんな事して脅してるのよ」


 フローラは二人の推理をじっくり聞いていた。この推理は正しいかは不明だが、自分にはない発想だ。こうしてみんなと共有して正解だった。


「たぶん、エルの事は余計なパズルのピースだと思う。別のパズルのピースが間違って混入した感じがするのよね」


 フローラは元よりそう思っていた。エルに囚われているコンラッドを見た後だと、何か本質的なものと食い違っている気がする。


「つまり、犯人は別にいる」

「奥さんは誰だと思います?」


 フィリスは無邪気に聞いてきたが、その答えはない。今のところ誰も彼も怪しく見えるが。


 再び愛人ノートを開き、マムの箇所を眺める。マムは地元でもいじめっ子で嫌われていた。死んだ元夫ともトラブルがあったらしい。


「まだ分からない。でも残りのピースは、マムの過去じゃない? ここはまだ調べてないわ」


 フローラの意見に一同賛成し次はマムの地元に調査しに行く事に決まった。今度はフローラ一人よりもフィリス連れて聞き込みした方が良いという事になり、着々と次の調査計画も決まっていく。


 まだ犯人の影も形も見えてこないが、エルに囚われているコンラッドより一歩ルードしているかもしれない。


 それに気づくと一同に余裕も生まれ、談笑するほどだったが。


「フローラ!」


 そこに夫が帰ってきた。ホテルで仕事しているはずだが、髪を乱し、焦っていた。いつもはクールで塩対応な夫だったが、事件が起きてからこんな夫の姿ばかり見ている。もはや慣れてきたところだったが。


「フローラ、何だよ、これは!」


 夫が手にしていたのは、ゴシップ記事だった。そこにあったのは、夫やマムのスキャンダルではなく、フローラの不貞だった。


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