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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第1部・サレ公爵夫人、探偵になる!〜悪魔な恋愛カウンセラー殺人事件〜

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調査編-5

 エルのカウンセリングルームを出たフローラは、次はクリス達の障害者作業所へ向かう事にした。


 馬車を自分で呼び、作業所にある貧困街へ一人で入ると、何だか自由な気分になった。肩の力も抜け、エルとの会話すらも今は不快な印象が消えていた。


 空を見上げると、綺麗に晴れていた。まるで夫の目の色のような空だったが、今は昔よりも心が縛られていない。


 公爵家は鳥籠だったのかもしれない。そしてフローラはその鳥。籠の中にいた時はずっと自分を無力だと思い込も、夫の愛がない事をこの世の終わりのように決めつけていたが、今はそうじゃないない。今はマムを殺した犯人を見つけるという目的もある。夫の事ばかり考えているわけにもいかない思うと、なぜか心は自由に解けてしまっていた。


「クリス、こんにちわ。クッキーを焼いてきたの。作業所のみんなで召し上がって」


 作業所につくと、まずは職員のクリスに挨拶をした。


 何の連絡もな突然やってきたフローラに驚いていたが、クッキーを渡すと、クリスは表情を緩めていた。やはり、クッキー大作戦は成功だったよう。


「これから庭でマーシアの歌の演奏があるの。奥様も聞いていきませんか?」

「ええ、もちろんよ」


 クリスに誘われ、庭に出ると、作業所の利用者だけでなく、近所の主婦や老人も集まっていた。狭い庭だったが、簡易ステージもあり、マーシアは緊張しつつもギターを持ち、歌い上げていた。


 歌っているマーシアは盲目な事が信じられないほどだ。目も身体もイキイキとしていた。何よ声も伸びやかで、生命力が溢れていた。聞いているだけのフローラも、目頭が熱くなってきた。歌詞は平凡な恋愛ものだったが、マーシアが歌う事によって命が吹き込まれている。


 事件やエルの事を思い出すと憂鬱になりそうだったが、マーシアの歌声だけで元気になれそう。


 施設の障害者であるザガリーも歌を聴きながら無邪気に喜んでいた。


「まーしあ、すごい! うた、すごい!」


 マーシアを見つめるザガリーの瞳は、友情を超えたものが滲んでいた。一方マーシアは歌の熱中し、そんなザガリーには何も気づいていないようだ。


「ねえ、クリス。マムの事は大変だったわね」


 後方ではクリスがいたので、彼女にも話を聞く事にした。生前のマムはこの作業所にも嫌味ったらしく訪問していた。クリス達の反応も気になる。


「いえ、でも。正直、ざまぁ見ろって感じですよ」


 クリスの反応はクールだった。フローラがあげたクッキーを咀嚼しながら、その視線は冷たい。眼鏡をかけ、真面目そうなクリスだったが、死んだマムについては何も感じていないようだった。


「施設の子達はどう? マーシアやザガリーは、マムの事を知って体調大丈夫だった?」

「大丈夫よ。むしろマーシアなんて元気になったぐらい。今日の演奏会も『マムが死んでおめでとう会』ですからね」


 それは想像していなかった。マーシアもマムが嫌いだったのか。もっともマムが好きなんていう物好きは、夫ぐらいしかいないだろうが。これはブーメラン刺さりそうなので、考えたくも無い話題だったが。


「ザガリーは? 大丈夫?」

「うーん、ちょっと動揺してたかな。でも、基本的にうちの子達は大喜び」

「意外ね。こういう子ってすごく純粋で天使のような印象があった」

「そんな事ないよ。嫌な女がいなくなったら喜んでいた。ハンデがあるけど普通の人間だよ。私もそうね。これでマムがうちの嫌味を言ってこないと思うと、スッキリしたよ!」


 クリスは背伸びし、目も実に爽やかだった。マーシアの曲にもノリノリでリズムを刻みはじめ、日頃のストレスも発散しているようだった。


 他の客達も似たようだった。確かにクリスが言うように、障害者だからと言ってピュアで天使とも言いきれない。クリスだって聖人でも無いのだろう。


 誰にでも、どんな人にも欠点があるという事か。そう思うと、フローラも気が抜けてきた。今までは公爵夫人として気負っていたが、全てを完璧にしなくてもいいのか。夫にも完璧な女を演じなくても良いと思うと、さらに気が抜けてきた。


 しかし今は殺人事件の調査中だ。何時までもリラックスしているわけにいかない。


「でもマムを殺した犯人って誰だと思う? クリスはどう思う?」

「えー、誰だろ。でもマムはあちこちに敵がいたから誰が犯人でも驚かないわ」


 そう語るクリスは全く邪気もない。無邪気なものだった。


「何か気になる事とかない? エルは呪いで人を殺したと思う?」

「確かにそんな噂が立ってるけどね。あ、そういえばエルといえば」


 クリスは何か閃いていた。


「事件が起きる前に、マムの後をつけているのをみた」

「本当? この事は白警団に言った?」


 クリスは首を振った。以前、ここの障害者が強盗被害受けたが、白警団は差別的な発言を繰り返していたそう。以来、クリスは白警団アレルギーとなったそうだ。


 クリスの気持ちはなんとなくわかる。コンラッドのそんな態度を思い出す。身分のある公爵夫人のフローラにも態度が悪かった。弱者への態度も容易に予想がついてしまった。


「他に知ってる事や気になる事はない?」

「うーん、無いわね。あ、またここで祭りも開くので、公爵さまと一緒に来てください」

「ええ、楽しみにしてるわ」


 エルはマムをつけていた事を知った。呪い殺すのは不可能だが、エルが彼女に殺意を持っていた事は否定できない。


「奥さん、来てくれたの?」


 演奏が終わったマーシアがこちらへ近づいてきた。


「ええ。素晴らしい演奏だったわ」

「早くマムを殺した犯人を捕まえて。犯人はとても苦しんでるから」

「え?」


 なぜかマーシアはフローラに耳打ちしてきた。


「え?」

「私の口からは言えない。証拠もないし」

「あなた、犯人知ってる?」


 その問いには答えず、マーシアはクリスに連れられてステージの戻って行ってしまった。


「それでは新曲を聞いてください。タイトルは『吊るされた男』です」


 吊るされた男?


 ダウナーな曲調の失恋ソングだった。歌詞はある男の視点で描かれ、籠の鳥のように恋に囚われている心情を歌い上げていた。


 暗い曲だったが、マーシアが歌うとどこか光を感じさせる雰囲気になったが。


「どういう事……? やっぱりエルが犯人?」


 パズルのピースはグチャグチャになってきた。これは一旦帰って整理した方が良いだろう。フィリスやアンジェラの知恵も必要だろう。やはり一人で殺人事件を解決するのは、難しい。


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