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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第1部・サレ公爵夫人、探偵になる!〜悪魔な恋愛カウンセラー殺人事件〜

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調査編-3

 ・探偵の心得その三


 聞き込みをする時は、できれば女性の調査員が望ましい。人は男には警戒心を抱くが、女にはさほど抱かないから。道端で話しかけられているのも圧倒的に女性が多い。


 ここでポイントなのは、気さくなおばちゃんキャラを作る事。親しみやすい空気を出すこと。もし、それが難しい場合は、聞き込み相手の胃袋を掴むのがコツだ。人は食べ物に弱い。美味しいものを食べたり、目の前にすると、気が緩んでついつい余計な事を話してしまう率が高くなる。聞き込み相手と一緒に食事をしたり、美味しいお菓子を差し入れするのは、探偵の調査において有効だ。


 フィリスから貰った探偵マニュアルには、こう書いてあった。


 という事で、今日は今朝から公爵家のキッチンでクッキーを焼いていた。


 フィリスやアンジェラだけでなく、洗濯婦のエリスにも手伝ってもらった。無事、愛人ノートや探偵マニュアルが手元に帰ってきて何よりだ。


 キッチンはバターや砂糖の良い香りが漂っていた。あと少しでオーブンにいれたクッキーが焼けるところなので、キッチンの小さな食卓を四人で囲みながら、一息ついていた。紅茶を飲みまがら、作業の為疲れた手先を癒す。


「それにしても奥さん、よくこんな愛人ノートなんてつけていたねぇ。笑える!」


 エリサはゲラゲラ笑いながら、愛人ノートをめくっていた。エリサにとっては完全に他人事なので、楽しくて仕方がないのだろう。


「エリサ、笑いすぎですって。でも、こんな愛人を調べていたら、殺人事件に巻き込まれて、挙句解決してしまったら、確かに面白いかもー」

「フィリスの言う通りだよ。不倫探偵か、いや、愛人探偵か。とにかく奥さんが今やっている事は、最高の喜劇だよ」


 フィリスもアンジェラも一緒になって笑っている。もうこれでは後者夫人としての地位は無意味なものとなってしまったが、フローラも苦笑するだけだ。


 確かにこの状況は、客観的に見ると、喜劇だ。自分でも笑うしかない。ただ、もし犯人を見つけられなかったら、この喜劇も全く笑えないものになる。それだけはどうしても避けたい。


「でも、魔術師エルがマムを呪い殺したと言っているのは、どういう事? 私はさっぱり分からない。みんなはどう思う?」


 あれからフローラは一晩考えてはみたが、余計に分からなくなってしまった。


 紅茶を啜りながら、みんなの意見を聞いてみるのが良さそう。


「エルは魔術師です。呪い殺したのに決まってるじゃないですか!」


 フィリスは呪い派。笑いながらこの状況を楽しんでいたが、今はそれを注意しても辞めないだろう。田舎娘はもうそのまま突き進んだ方が良いかもしれない。


「私はエル共犯者説を推すね」


 アンジェラはその意見を変えなかった。


「呪いなんてあるわけない」

「そうだよ、アンジェラ。あの無能なエルに呪いなんてできるわけがない」


 エリサはエルが無能である事をやけに強調していた。


「だって王宮ではあの男、全く役に立たなくて、王宮の儀式や祭りでもミスばっかりだった。その点ルーナっていう魔術師は人気だった。国王もよくルーナに相談していたらしい。ルーナはカリスマ性があるんだよね」


 エリサは王宮でも洗濯婦をしていた。この情報は確かだろう。フローラはエリスの情報だけを愛人ノートに記録した。


 ・魔術師エルは無能。


「だったらエリサ、これはどういう事だと思う?」


 フローラは質問した。もうすっかり使用人や洗濯婦と一緒にいる事に慣れ、公爵夫人の威厳も消え失せていたが、今はそれでも良いだろう。


「おそらくエルは、マムの件を利用して売名行為をしてるんだ。都ではエルが有能魔術師という噂で持ち切りだ。仕事の増えてるとか」


 エリサはなかなか冴えいた。今、マムの事は都で話題だった。記者のトマスを買収したお陰で、後者家は被害者という報道が多かったのは救いだ。この点は夫にもネイトにも助かったと連絡が来るぐらいだったが。


「売名行為? そんな事します?」


 この中でフィリスだけが首を傾げていた。


「王宮内も一枚岩じゃないわ。何でも利用してやるっていうエルみたいな男がいても不思議じゃない」

「そうですけどー。何か引っかかるんですよねー」


 フィリスは納得いかない様子。口を尖らせた後に紅茶をがぶ飲みしていた。


「呪い殺したとか言って白警団に捕まったりしません?」


 フィリスの甘い発言に、一同首を振る。エルが売名行為でそう言ったとしても、現状、彼を捕まえられる法律はない。別に犯人がいても、呪いで犯人を操ったといえば筋も通る上、犯罪といえる科学的かつ客観的な証拠もない。


「もしかして、エルのやつ、本当の犯人を知ってるんじゃない? で、犯人を脅しているとか? どう、この推理は」


 フィリスはドヤ顔だ。最初はこのドヤ顔するほどかと思ったが、確かに真犯人を庇ったり、脅している可能性もある。


「まずはエルに会いに行きましょう。このクッキーを前にしたら、口が軽くなるはず」


 ちょうどクッキーが焼けた。フローラはそう言ってみんなに焼きたてのクッキーを見せた。一同歓喜の声があがった。


 クッキーは綺麗に焼け、丸い形も素朴でいい感じだ。それにバターもたっぷり使ってるので、匂いも素晴らしい。


「わ、サクサク!」

「これ、美味しい!」


 味見もしてもらったが、一同かなり評判がよかった。修道院時代に教えてもらったレシピを参考にしたのも良かったのだろう。修道院では菓子を手作りして販売していたので、フローラもその腕を仕込まれていた。


「さあ、次はエルの所に行きましょう」


 クッキーも上手く焼け、フローラも表情は自信が溢れていた。目も行き返り、頬の血色もよかった。


 昨日のコンラッドから聞いた情報を思い出すと、楽観視もできない。マムを自分を殺そうとしていた事は、笑えない。


 それでも今は、フローラにも味方がいる。やるべき事もあった。


 今はとにかく「マムを呪い殺した」と語るエルに話を聞こう。


 落ち込んでいる暇などない。メンヘラしている場合でもなかった。


 甘いバターの匂いを吸い込み、フローラはクッキーを包む為に手を動かしていた。

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