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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第1部・サレ公爵夫人、探偵になる!〜悪魔な恋愛カウンセラー殺人事件〜

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疑惑編-3

 翌朝。昨日、極悪女のマムが死んだ事など全部嘘だったんじゃないかと思うほど、空が晴れていた。ホテルの窓から見える空は、どこを切り取っても一枚の絵になりそうなぐらい綺麗だ。


 朝食の為一階の食堂へ向かう。まだ六時半だったので、他の客は数人しかいなかった。ビュッフェ形式の食堂には、テーブルの上にパン、肉、フルーツ、ヨーグルト、チーズ、スープ、デザートと色とりどりの食べ物が並び、これにはフィリスもアンジェラも大興奮。プレートに山のように盛り付け、爆食していた。


「アンジェラ、元を取りますよ!」

「そんな事はわかってるよ、フィリス! さあ、全部食べ切ってしまおうではないか!」


 庶民丸出しのフィリスとアンジェラには呆れてしまうが、仕方ない。ここまで付き合ってくれたし、元気な二人を見ていたら肩の力も抜けてくるのも事実だった。


 そんなフローラはフルーツとコーヒーだけを頂き、メモを取りながら考えていた。


 マムを殺したのは一体誰?


 何しろ極悪女だ。敵も多い。かなり恨まれていた。とりあえず、今までの結果から怪しい人物を書き出し、考えてみる事にした。


 ・魔術師エル


 第一容疑者だ。あの呪いの会の様子から見て、動機は確実にあるだろう。殺害方法は呪い? まさかね?


 ・クリス


 障害者作業所の職員。マムも金目当てで福祉業界にも進出していた。その恨みがあったりする(でも女のクリスでも撲殺ってできる?)


 ・マーシア


 盲目のシンガー。福祉施設でのマムへの怯えよう。動機はある。でも、クリス同様、殺害できるか謎。


 ・ザガリー


 知的障害がある青年。マーシアに恋(?) 犯行は可能だけど、マムを恨むほどの思考があるかは謎。


 ・エリス


 洗濯女。あのマムへの嫌いよう。殺意があってもおかしくはないが、彼女は老婆。撲殺するのは物理的に無理。


 ・夫


 こうして書きた出すと一番怪しい! 動機もあるし、犯行も可能。おまけにアリバイもない。


 ・いじめられっ子(名前不詳)


 マムは地元でいじめっ子だった。当時の被害者が恨んでいてもおかしくない


 ・顧客(名前不詳)


 噂では、顧客からも相当恨まれていたよう。そこから犯人がいてもおかしくない。


 ここまで書き出してため息しか出ない。飲んでいるコーヒーも異様に苦い。思わず顔を顰めてしまう。


 容疑者は無限にあり、そこから犯人を割だ出すのは、かなり難しそうだった。犯人は数名で結託し、マムを殺した可能性もある。動機や殺害方法だけでは、砂浜で塵を探すようなものだろう。


「ああ、困ったわ。なんでマムはこんなに恨まれてるのよ……」


 そして改めてフローラ自身にも動機がある事を認めてしまう。別にスッキリとせいせいはしていないが、これで夫の不貞が止まった事は、嬉しい。マムが自殺や事故死だったら、もっと手放しで喜んでいた事だろう。


「まさか、呪い……?」


 そして第一容疑者のエルは魔術師だ。超自然的な力を使い、遠隔でマムを呪い殺す事は不可能ではない?


 魔術師が敵国の王族や軍人を呪い殺したという噂は多い。王宮で魔術師が雇われている理由も、単なる娯楽でもなさそうなのが、何とも言えない。一応儀式をする為に雇われているという話だったが、形骸化しているという。


 あの呪いの会も最後まで出ておけば良かった。今となっては後の祭りだが、本当に呪いだったら、この目で確認できたのに。


 フローラはコーヒーをちびちびち啜り、ため息をこぼす。昨日は犯人を捜すと勇ましい事を言ったが、想像以上だ。呪いが関わっている可能性も考えると、簡単な事件ではない。


 昨日は酔っていた。他殺体などを見て、頭も変だったのかもしれない。こうして容疑者を書き起こすと、誰も彼も犯人に見える。


「奥さん、このパンケーキ、すごいフワフワで美味しいです〜!」


 フィリスがフローラのいるテーブルに戻ってきて、実に幸福そうにパンケーキを食べていた。頬はオレンジ色に染まり、目はキラキラ。どう見ても田舎娘だったが、フローラはホッとため息をこぼした。


「あなた、朝からそんな食べて大丈夫?」

「大丈夫です! 元をとります!」

「そうですよ、奥さん。これは元をとりましょう」


 アンジェラも戻ってきてた。アンジェラの皿の上は、ソーセージやベーコンだらけだ。肉は単価が高い。アンジェラは本気で元を取るつもりらしい。


「ねえ、奥さんもこの事件で元を取ればいいじゃないですか。これで犯人も見つけて、公爵さまの心がかえってきたら、完全に元が取れます。公爵さまも作品のネタにして本にしたら、超お得かも?」


 アンジェラもうまそうにソーセージを齧っていた。いつも冷静で小賢しいメイド頭は言う事がケチだ。


「そうですよ。奥さんもコーヒーとフルーツだけでなく、パンケーキ食べましょー」


 フィリスはフローラの皿に無理矢理パンケーキを一枚置いた。甘くやわらい匂いが漂う。一口齧ってみたが、確かに美味しい。口も軽くなりそう。


 そうか、容疑者達にも甘いものを配ったら、口が軽くなるかもしれない。幸い、フローラは修道院で菓子作りも訓練されていた。手作りの菓子を配りながら、聞き込みすれば、突破口が開ける?


「あなた達は、誰が犯人だと思う?


 フローラも口が軽くなった所で、二人にきいてみた。


「魔術師エルに決まってるでしょ」


 フィリスは即答。


「だってあんなに呪ってたんですよ。遠隔で呪いをかけて、成功したんだわ」

「おいおい、フィリス。そんな非科学的な事があるわけないって」


 アンジェラはフィリスの肩を軽く叩きながら呆れていた。確かにアンジェラの言う通りだ。呪いなんてあるわけない。


「私もエルだと思うが、誰か別の人を使わせて殺したんじゃないか? 私は共犯者がいると思うね」


 フィリスは自分の推理が否定されて子供っぽく口を尖らせていたが、同感だ。呪いで人を殺せるとは、ありえない。


「奥さま、朝刊でございます」


 ちょうどそこへ、ホテルのスタッフがやってきた。朝刊のサービスを持って来てたようで、フローラはざっと中身を確認していた。


 マムの殺人事件はまだ報道されていないようだった。都の花祭りや社交シーズンのお知らせ、とある伯爵家の薔薇が満開等どうでも良い情報が圧倒的だったが。


「まって、エルって昨日はずっと女王と国王と一緒に面談していたの?」


 新聞には国王や女王など王宮関係者の一日の様子が記録されていたが、そこにはエルに完璧なアリバイがある事を示していた。これ以上のアリバイはない。


「ま、まさか、本当に呪いでマムを殺したんだわ」


 フィリスは大袈裟に肩を振るわせていた。


「そんな呪いなんてある訳がないだろ」

「アンジェラの言う通りよ。呪い殺すなんて」


 不可能だ。


 ただ、もしエルが犯人だとしたら?


 殺害方法は呪い?


「私はエルに共犯者がいる推理に一票だね。呪いなんてあるわけがない」


 アンジェラはソーセージをぷりぷりと噛みちぎっていた。フィリスの推理には鼻で笑っていたが、フローラは一切笑えない。


 これは呪い?


 それともエルに共犯者?


 または、犯人は別にいる?


 フローラは再びパンケーキを齧ったが、全く甘く感じない。

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