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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第1部・サレ公爵夫人、探偵になる!〜悪魔な恋愛カウンセラー殺人事件〜
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殺人事件編-5

 懺悔室に鐘の音が響いていた。


 郊外にある教会は、大きな鐘がある、派手なステンドグラスや聖母像で豪華な場所だが、懺悔室は、狭く、仕切りもあり、神父の顔も見えない。


「私は夫の愛人、マムが憎くて仕方ないです。ええ、呪いの儀式にも参加しました。でも、こんなのは良くないですね。マムが呪われた所で夫は帰ってこない。それに彼女が不幸になってから反省しても意味はありません」


 懺悔室で語るフローラ自身が、その事がよくわかる。罰を受けたから反省しても意味がない。自分から、その罪を認め、悔い改める方が神も喜ぶだろう。


「私、間違ってたわ。マムには幸せになってほしい。結婚して可愛い子供ができた方が、彼女は自分のしてきた事に一番苦しむかもしれません」


 フローラの声は、細く、懺悔室にまで響く鐘の音にかき消されそうだ。一方、表情は意外とスッキリしたものだ。こうして罪を告白し、心のつかえも取れてしまった。


 教会もほとんど行っていなかったが、その意味も噛み締めていた。やはり、夫との関係がどうやっても上手くいかず、離婚する事になったら、また修道院にいけばいい。最後に駆け込む場所があると思うと救われていた。


「そうです。あなたの罪の告白を聞きました」

「ありがとう、神父さん」

「マムの事も愛せればいいですね」


 初老の神父の声は優しく、フローラの表情は複雑だ。口元は笑っていたが、目には深い影が見えた。


「それは無理です、神父さん」

「ええ。でもできれば許しましょう。マムの為ではないです。あなた自身の幸福のためです。あなただって幸せになっていいんですよ。神の御心もそうです」


 そうは言われても、フローラは素直に頷く事はできなかった。


「そうかしら」

「まあ、愛する事は難しいね。愛は忍耐ですね。結婚したからって、幸せになるとは限りません。むしろ結婚というシステムや夫、子供に幸せにしてもらおうと思うと、不幸になるかもしれない。夫も子供もあなたが一生かけて愛するんです。あなたが楽する為のペットやアクセサリーじゃないですからね」


 神父の言う事はもっともだ。フローラは深く頷く。


 確かにフローラも結婚当初は幸せだった。夫との仲も良く、満たされていた。でも、その奥にあったのものは依存心かもしれない。誰かに幸せにして貰おうと思っていた。


 今は夫に不倫された事実も受け入れられそうだった。自分も悪い所があってのだろう。パートナーの不貞は、全部相手のせいと思うのも、依存だろう。こんなのは、きっと愛じゃない。


「神父さん、愛ってなんですか?」


 その質問は、神父も少し黙っていた。


「選択と行動ですよ。どんな状況でも、相手にとって一番の事を選び、行動する事です」

「感情じゃないんですね」

「感情はいつか廃れます。でも愛の約束は永遠です。愛は約束を守る事でもあります」


 難しい話だ。フローラはよく分からず、首を傾げてしまうが、今はまだ答えがなくても良いのかもしれない。


「ありがとう」


 フローラはお礼を言い。懺悔室を後にした。懺悔室の隣のある礼拝堂からは、讃美歌演奏やお祈りしている信徒も多く、賑やかな声が聞こえてきた。


「あれ? マーシア?」


 礼拝堂では、マーシアがいた。あの障害者作業場で会った盲目のマーシアは、讃美歌を歌い、信徒からの注目を集めていた。


 透き通るような綺麗な歌声。マーシアの容姿や讃美歌の内容の相乗効果で、本当に天使のようだ。フローラもマーシアの釘付けになってしまうが、信徒席に知った顔があった。


「え、ザガリー?」


 ザガリーもあの作業所にいた青年だ。知的に障害があると思われる青年だったが、マーシアの歌に聞き入り、熱っぽい姿勢を送っていた。まるで恋でもしているかのような視線で、フローラは、戸惑い、声もで出なかった。


 おそらく片思いだろう。マーシアは歌にしか興味がなく、必死に歌い上げていた。


 可哀想なザガリー。


 ザガリーの姿が、鏡を見せられているようだ。届かない想いを拗らせ、行き詰まった視線。フローラも夫に似たような視線を何度も送っていた事だろう。


「でも、ザガリーって恋愛感情わかるの?」


 ふと疑問に思ったが、作業場の職員のクリスによると、障害者でも普通に結婚している人も多いと聞いた。そんな疑問を持つのは、無知から差別意識を持っていたのかもしれない。


「そうね、もう帰りましょう」


 これ以上、礼拝堂のいても、もっと嫌な自分に向きあってしまいそうだった。


 フローラは教会を後にし、公爵家の屋敷に帰る事にした。


「奥さーん! 公爵さまが突然お帰りになりました!」


 公爵家に帰ると、フィリスがすっ飛んできた。夫が帰って来るのは珍しいが、このフィリスの慌てようは? 


「公爵さま、今、書斎にいます」

「え?」

「バレちゃったみたいです。探偵マニュアルも愛人ノートも」


 これは面倒な事になった。フィリスの声は半泣きだったが、この状況は逃げられない。夫の反応を想像するだけで、フローラも泣きたくなってくるが、下手に言い訳するのも良くない。


「いいでしょう。私は書斎へ向かいます。フィリスはいいわ。私、一人で向かいます」


 フローラは一人、書斎へ向かった。背筋をすっと伸ばし、書斎のドアをノックしていた。


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