番外編短編・言葉の毒
公爵夫人フローラ・アガターは屋敷の書斎で仕事をしていた。
「なんで男達は浮気をするの? そしてなぜ女達もそんな男に騙されるのかしら?」
長年、夫に不倫されていたフローラ。その経験を活かし、貴族のサレ妻達の相談や証拠集めを仕事にしていた。簡単に言えば探偵業だ。
今はとある伯爵夫人の相談を受け、浮気調査をしていた。相手の女は男爵令嬢ミリヤム・オフレだが、学業優秀で、外見も良い優等生だった。なぜこんな女性が不倫?
フローラの夫は女の趣味が悪い。なので不倫相手も極悪女のオンパレードだったわけだが、一般的には違うらしい。この仕事をして気づいた事だが、どうも優等生、真面目、堅物な女が不倫している印象がある。なぜだろう。
「どう思う、フィリス?」
ちょうど書斎に来たメイド、フィリスに聞いてみた。相変わらず赤毛の田舎娘だったが、妙に観察眼がある。一つ意見を聞いてみよう。
「そうですね。確かに不倫する女、真面目なタイプが多いですね」
「うちの夫の不倫相手は全員極悪だったけどね」
「それは公爵さまの女の趣味が悪いから。毒妻のフローラ奥さんと結婚してしまうぐらい」
「なんか言った?」
結局、フィリスと冗談を言い合うだけで、全く答えは出なかったが、ある日。
例の男爵令嬢、ミリヤムが引きこもり、自殺未遂までしているという知らせを受けた。ミリヤムに被害を受けたサレ妻は「ザマーみろ!」と笑っていたが、どうもフローラは引っかかった。
確かにミリヤムのした事は酷い。フローラ自身も心あたりのある事だったが、人の不幸まで喜べない。
フローラは腐っても公爵夫人だ。公爵家として慈善活動もしているような女だ。下品な発言は控えたい。相手の為というより、自分のプライドを守る為だ。それにミリヤムにも何か事情があるのかもしれない。
という事で、ミリヤムを少し調査してみる事にした。まずメイド界隈に入り、色々と聞き込みをしたが、ミリヤムの親はクズだったらしい。
男爵家として外面は良かったが、日常的にミリヤムを「ブス」「クズ」「バカ」「最低」なども言葉を浴びせていた。
「そんな言葉ばっかり言われたら、自分のことも嫌いになりますよ。不倫したのも自分が嫌いだからでは? 自分を雑に扱う最終形態が不倫?」
また書斎で仕事し、今回の件をフィリスと共通していた。フィリスは意見を述べていたが、その通りだろう。フローラは深く頷く。
「そうね。私だって腐っても公爵夫人という自負がある。このプライドが不倫とか悪い事できないようにしているわ」
「でしょう。奥さん、言葉は毒にもなりますね。人のプライドや自肯定感奪ったり」
そんな話をしていたが、フローラは耳が痛くなってきた。夫に対して適切な言葉を使っていたのか分からない。むしろ自信を奪う言葉などを与えていないか。反省してしまう。
「ミリヤム、元気になるといいわね」
「あら、奥さん。珍しくいい人ですね。丸くなりました?」
フィリスには揶揄われたが、本気でそう思う。
何か良い方法があるかは謎だったが、ミリヤムに手紙を送った。励ましの言葉や癒しになる言葉を添えて。これで何か変わるかは不明だったが、言葉によって失われた自信は言葉でしか救えない気がした。
「あぁ、フローラ。また酷評されたし、新作の売り上げも悪い!」
次の日、夫は仕事の愚痴を吐いていた。そんな夫を見ていると……。
「あなた、大丈夫よ。絶対、大丈夫だわ」
いつもだったら、励ましの言葉は出てこない。夫の仕事をバカにしてしまった時もあったが、それは違う気がした。
「本当か?」
「ええ。私が言うのなら、本当よ」
「そうかね? まあ、なんかやる気は出てきたぞ!」
夫は笑顔を見せ、再び仕事に戻っていた。




