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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第3部・サレ公爵夫人の危険な日常〜お嬢様学園殺人事件〜

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番外編短編・毒をもって毒を制す

 公爵夫人フローラ・アガター。別名サレ公爵夫人と呼ばれている。夫のブラッドリー・アガターは何回も不貞を繰り返す遊び人。おかげで苦労を重ねてきたフローラだったが、こんな夫の愛人を執念深く調べ、さまざまな証拠を得ていくうち、いつの間にか殺人事件を解決してしまった過去がある。


 今は浮気や不倫専門の探偵の仕事を始め、夫の不倫も落ち着いてきたところだったが。


「フローラ奥さん! お客様ですよ!」


 公爵家の屋敷の書斎で仕事中、メイドのフィリスがやってきた。来客だという。


「だれ?」

「さあ、サビーナ・バラボーという令嬢ですって。よく聞こえなかったけど」


 フィリスはお茶を用意しに行きますと慌ただしく、去っていく。元々田舎出身の若いメイドだ。いつまで経っても粗野なメイドで呆れてくるが、ザビーナ・バラボーの名前は記憶がある。


「あの女、何しに来たのかしら……」


 ザビーナは夫の元愛人。作家の娘で、ザビーナも恋愛小説家と活躍していた。隣国の女だったが、夫も作家で、出版パーティーで知り合ったらしい。世間では才色兼備と言われるエリート女性だが、とにかく性格は悪く、わがままで、仕事関係者にパワハラしまくっていた。顔もブス。大柄。声も低く、とても貴族の令嬢には見えないが、甘やかされて育ったらしい。


「私、公爵さまに無理矢理暴力振るわれてぇ。こんな酷い目にあったんですから」


 客間にザビーナの声が響く。一応、フローラはザビーナに会っていたが、嫌な女だ。不倫も無理矢理やらされたと嘘泣きし、訴える、悪評をばら撒くと脅してきた。


 つまり金目当て。ザビーナは金遣いが荒く、常に金欠。お金に困って脅し事を思いついたのだろう。指輪やイヤリング、ドレスは高価だったが、髪はパサパサと痛み、指先も荒れている。酒焼けした声も耳につく。そんなザビーナを一瞥すると、フローラは背筋を伸ばし、毅然とした態度をとる。


「あなた、うちの夫と不倫関係があったのは去年の事でしょう。あなたがノリノリで夫を誘惑した事も知っているわ。しかも、私、当時の事はよく調べているのよ。あなたの家の財政状況もね」

「うっ……」

「証拠をお出ししましょうか? 泥棒猫ちゃん?」


 本当はそんな証拠はない。ないが、フローラは悪役女優風の容姿の女だ。目は切れ長で、声も落ち着き、何より、黒薔薇のようなオーラがある。おかげで貴族界隈では毒妻など不名誉な二つ名もあったが、ザビーナもこれに圧倒されたらしい。フィリスが出したお茶をがぶ飲みし、尻尾をまいて帰っていく。


「すごい、奥さん。あの極悪女を毒をもって毒で制しましたね!」

「フィリス、そうかしら?」


 他人事だと思い、ニヤニヤと笑うフィリスにため息がつくが、ここで解決とならなかった。


 あろう事かザビーナはゴシップ記者に訴えたらしい。公爵家で出されたお茶を飲んでから、湿疹やかぶれが発症し、毒を盛られたという。


 もちろん事実無根だったが、ゴシップ記者に記事に記事にされると、あっという間に貴族社会に噂が広がり、公爵家に誹謗中傷もスタートし、夫の仕事が一本飛んだ。フィリスもあらぬ疑いをかけられ、外に出ると石やゴミを投げられ、公爵家から出られない状況が続く。


「おい、フローラ!これはどういう事だよ?」


 夫はゴシップ誌を持ち、書斎で紅茶を飲んでいるフローラに訴えてきた。


 元々美男子で有名だった夫。自身の金色の髪をぐしゃぐしゃとかき、顔を真っ赤にさせている姿は、美男子の影が薄くなった。


「おい、フローラ。お前は毒妻と呼ばれている。まさか本当に毒を……?」

「盛るわけないじゃない。ちなみに、ザビーナと付き合っていた時、食物アレルギーなどはあった?」


 夫は落ち着き払っているフローラに戦意も萎えてきたらしい。夫は冷静さを取り戻すと、少し考えていた。


「あ、あいつ、マンゴーがダメだった。去年、貴族の令嬢界隈でマンゴーが流行ってたんだ。濃厚で珍しい果実だって。でも、ザビーナはあんまり食べてなかった。残してた」

「でしょう? マンゴーにはかぶれを引き起こす毒成分があるらしいわ。別に死にやしないけど、体質によっては合わないからね。おそらくわざとマンゴーを食べて自作自演し、私達に誹謗中傷しようとしたんでしょう」

「なるほど。ってお前、それどこで知ったんだ?」

「あなたがザビーナと不倫中に調べたのよ。ザビーナのメイドや主治医に聞いて、調べたの。あなたが不倫中にやった事は全部お見通しね」


 口元は笑顔だが、フローラの目はすわり、無言で夫に圧力を与えていた。


「さあ、ブラッドリー。過去の不貞の後始末はご自分でなさってくださいよ」

「わぁ、うちの妻、怖い! わーかったよ!」


 ヤケクソになって夫は吠えていた。


 結局、夫はザビーナと交渉し、手切金と共にこの噂は収束する事になった。フィリスの疑いも晴れた。


 もっともザビーナの行いは貴族界隈でも噂となり、今は田舎に引きこもって仕事中だという。田舎に向かったのは借金取りから逃げる為でもあったらしいが。


「という事で、ブラッドリー。紅茶を持ってきてちょうだい。私も仕事中なのよ」

「わ、わかったよ!」


 夫は慌てて紅茶を取りに行く。この一件で夫は余計にフローラに頭が上がらなくなり、不貞もできない状況だ。こんなフローラの悪評は極まり、極悪な元愛人達もお金目当てや誹謗中傷、逆恨み、復讐などでも一人も近づいてこない。


「こういうのって毒を持って毒を制すって事ですかね!? やっぱり奥さんは毒妻!?」


 フィリスは相変わらずだ。田舎出身らしさを丸出しにしで騒ぐ。


「誰が毒妻ですか……」


 フローラは呆れてくるが、今日はフィリスと一緒にマンゴープリンでも作って夫に食べさせてもいいかもしれない。

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