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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第3部・サレ公爵夫人の危険な日常〜お嬢様学園殺人事件〜

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新しい夫婦関係編-5

 ベッドの上で泣いているモラーナ。彼女を見ていると、同情すべきか悩む。太い眉毛は相変わらず芋臭く、可愛げは全くない。モラーナがして来た事を思うと余計に同情はできないが。


 あの後、ダリアはあっという間に逮捕され、モラーナへの傷害罪と万引き罪、フローラへの殺人未遂など余罪がたくさんあるらしい。特に万引きについては十年来の常習犯。自宅には万引きで得た商品も大量にあり、キャロルの罪も明らかになったそう。学園は寮長の逮捕によってかなり混乱状態だとララから聞いていた。「聖母像って願い叶える効果ない?」という噂も流れているという。


「あなた、何被害者のふりして泣いているのよ?」


 フローラはそんな事を思い出しつつ、モラーナの顔を見下ろした。モラーナが入院している病室は個室で、こうしてゆっくり話が出来る。医者によるとまだ精神的ショックが大きく、夜中に泣き叫んでいるというが、やはり同情は出来ない。おでこにある傷も、あまり痛そうには見えない。


「もう泣くのは辞めたら? それにあなた脅しもやっていたし、私の夫も略奪しようとしたじゃない。被害者面するのは辞めてよね」


 フローラの言葉自体は厳しいが、バスケットから栗のマフィンを与えてやると、モラーナはモグモグと食べていた。入院食にウンザリしているようだった。「おいしい、おいしい」と泣きながら食べている姿は、フローラでも少し良心が痛んだが。


「私、ずっと何者かになりたかったんです。プライド高い割に名誉も実力も友達もお金も何もない事が悔しくて」

「へえ」


 顔を真っ赤にして泣いているモラーナ。モラーナは興奮気味だったが、フローラは白けた目をしていた。


「セシリーやマリオンには憧れていたけど、同時に嫉妬もしてた。特にセシリーみたいになれたら、幸せになれるのにって思った。どうにか彼女みたいになれたら、彼女そのものになったら、幸せになれると思った」


 栗のマフィンを食べながら、ヤケクソのようにモラーナが言う。


「あなたの旦那さんも欲しかった。アドルフにそっくりな旦那さんを奪えれば幸せになれると思った。ああ、私、セシリーになりたかったな……」

「そうは言ってもあなた、脅迫犯でしょ。モラーナを殴ったのもあなたね? 間接的な殺人犯ですが? 裁判での罪は重いでしょう」


 モラーナは犯行について否定しなかった。マリオンとも揉め、口論になって灰皿で殴ったと言う。その後、ダリアに勘づかれたモラーナも逆に脅されるようになり、ダリアとも揉め、結果こうなったらと語る。


 正直、自業自得としか言いようがないが、怒る気にもなれなくなった。フローラは生暖かい目でモラーナを見つめながら考えた。


 フローラも夫の元不倫相手・マムとそっくりなメイクをしていた。メイクをした時は全く気づかなかったが。マムと同じ顔になれば夫の気持ちが帰ってくるとも考えていたのだろう。浅知恵だったが、結局モラーナと全く同じことをしていた。何者になれれば幸せになれると勝手に条件をつけ、自分を粗末にしていた。こんな事をしている女は、誰かの一番にはなれないかもしれない。モラーナを見ていたら、身につまされてしまった。今はモラーナも強く責められない。


「何者にならなくてもいいんでは? 残念だけど、あなたはあなたね」

「そうかしら……」


 モラーナはまだグズグズち泣きながら栗のマフィンを食べていた。病室の窓からは綺麗な秋空も見えた。空は平和だが、モラーナの心は大荒れだろう。


「それに今はあなたは犯罪者。良かったわ、犯罪者という何者かになれたわよ」

「う、嫌な事言わないでくださいよ」

「あなたはセシリーにもマリオンにも、ダリアにもなれません。もちろん私にもなれない」


 フローラもマムになれない。フローラはフローラだ。夫が不倫した女になる事はできない。


「あなたはあなたね?」

「そうかもしれない……」


 モラーナは栗のマフィンを食べ終えてもまだ泣いていた。罪が明るみなった事よりも、今の惨めな自分を受け入れる事がモラーナにとっては最大の罰なのかもしれない。


「わかった……。マリオンやダリアにやった事を全て告白します」

「ありがとうね」


 フローラは公爵夫人らしい嘘くさい笑みを見せた。


 同時にコンラッドが病室に入って来た。手には逮捕状もあった。


「モラーナ、お前は脅迫と暴行罪で逮捕する!」


 もうフローラの仕事は無いだろう。そっと病室から出て後の事はコンラッドに任せた。


「さあ、家に帰りましょう」


 夫のいる公爵家に帰ろう。もう事件は全て解決だ。


「ああ、アンジェラに郵便局行くように頼むの忘れてた。早く帰って言っておかないと」


 そう呟くと少し早歩きで公爵家まで向かう。事件が終わり、再び退屈な日常に戻るだろう。それでも今はそれが一番幸せなはずだ。


「ただいま。アンジェラいるー? ちょっと用事を頼みたいんだけど」


 公爵家にフローラの呑気な声が響いていた。


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