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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第3部・サレ公爵夫人の危険な日常〜お嬢様学園殺人事件〜

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面白い女編-6

「お前さんがやった事は全てお見通しだよ! いいから、吐きな。全て言え!」


 スタッフルームにララの低い声が響いていた。貫禄ある声でもある。ララに詰められたキャロルはすっかり萎縮していた。


 スタッフルームは普段は休憩所としても使っているようで、椅子やテーブルが並び、隣の部屋は更衣室も合った。シンプルな部屋なのでここに派手な制服のお嬢様・キャロルがいるのは違和感しかない。もっともフローラや夫もどう見ても貴族なので、この夫婦は同席している事も変な雰囲気を醸し出してはいたが。


「し、知りませんよ。万引きなんてしてませんから」


 ララに詰められたキャロルはすっかり萎縮してしまった。顔を青くし、時々爪を噛んでいた。その姿はお嬢様らしい雰囲気を見事に壊している。


 フローラは何も答えないキャロルに呆れてきたが、一応バスケットに残しておいた栗のマフィンを与えてみた。キャロルは栗のマフィンには一切手をつけず無視。餌付け作戦は失敗だったらしい。


「それにしてもララはすごいわ。側からみていても怖いもの」

「確かにフローラの言う通りな。コンラッドに爪の垢でも飲ませたいものだ」


 夫婦二人でキャロルとララを見守る。ララの攻防も凄まじかったが、キャロルも案外頑固だった。涙目になってはいるものの、口は糊でくっつけたみたいに閉じている。


「困ったわね、ララ。どうしましょう?」

「そうだな、このドラ娘は。やはり学年主任に言いましょうかしらね!」


 ララの学年主任という言葉にキャロルは今までにないぐらい震え上がっていた。


「どうするんだ、お前。この万引きがバレたら退学になるかもしれないぞ」


 夫にも詰められたキャロルはついに泣き始めてしまった。


「ち、違うんです! ダリア先生に脅されていて……」


 ついにキャロルは口を開いた。いかにも貴族の見目の良い男にも冷たくされ、キャロルの中で何か吹っ切れたのかもしれない。


「ダリア? どういう事? 詳しく教えてくれない? ダリアの事を教えてくれたらこの件は黙っておくわ。その代わり店のものは全部お金払って、二度とこんな事しないって約束してくれるのなら」


 フローラは無表情に言う。こんな小娘に公爵らしい笑顔を作ってやる事は無いだろう。それにダリアがマリオンを襲った犯人という可能性もある。ここで捕まえてしまうより、しばらく泳がせてみるのも楽しいかもしれない。


「フローラ、そんな甘くていいのか?」

「そうだよ、お前らしくないね」


 ララにも夫にもこの対応に驚かれたが、フローラの中では筋が通っていた。


「いえ、いいのよ。この小娘は別に人の夫を泥棒したわけでもないし」

「……」


 夫は目が泳ぎ無言になった。


「わ、わかったよ。全部言えばいいんでしょ!」


 キャロルは不貞腐れながらも真実を語り始めた。元々お嬢様としてプレッシャーやストレスが多かったキャロルは万引きに手を染めるようになった。最初は万引きも楽しかったが、寮長のダリアにバレた。


「その時は絶対絶命だと思った。でもダリア先生は万引きのプロだったの!」


 なぜかここだけキャロルは目をキラキラとさせ、ダリアと一緒に万引きをした過去を語る。


「ダリア先生はマジでプロだから! 凄腕ですよ、学生の頃からのプロ万引き犯で」

「こら、万引き犯を持ち上げるんじゃないよ」


 ララは呆れてキャロルの頭を叩いた。キャロルは全く凝てないようで目をキラキラさせながら、万引きテクニックを語っていた。


 貴族社会にどっぷり浸かっている夫は、こんなキャロルには引いていた。さすがに小娘が万引きに興じている姿はショックだったらしい。無言でキャロルを見ていた。


「でもあなた、これでダリアの事はわかった。おそらく万引きをネタにモラーナに脅されておたのね」

「だろうな。それでゴーストライターやったり、文芸誌の代筆なんてやっていたんだろうな」


 キャロルはララに連行され、店に商品を返しに行った。残された夫婦は、事件について話し始めた。


「モラーナ達が脅しで揉めていた事は確かよ。私はやっぱりマリオンを襲った犯人はモラーナだと思うわ」

「ダリアは?」

「可能性はあるけれど、動機がない。同じ脅された仲間ではあるけれど」


 フローラはどうしてもモラーナが犯人としか思えなくなっていた。最初は私怨でモラーナが犯人だと決めつけていたが、今はそのカンが戻って来たらしい。


「客観的証拠は?」


 夫は再び目を生き生きとさせながら聞く。こんな風に推理しているのが楽しくて仕方ないらしい。口元は笑うのを我慢するかのようにピクピク引き攣ってもいた。


「無いわ。カンです。あなたに一番ちょっかいをかけていたという私怨です!」

「あはは」


 ついにこれに夫は吹き出し、腹を抱えて笑っていた。


「フローラ、お前は面白い女だ。どんどん調査しろよ。モラーナを第一容疑者としてな!」

「ええ、そうするわ」


 夫の笑い声を聞きながら、フローラも釣られて楽しくなってきた。そう、今は籠の中じゃない。自由だった。隣にも夫がいる。今はこれ以上幸せで楽しい事は何一つ思いつかない。


「フローラ、あのさ、秋は……」

「え、何?」


 急に夫が真顔になり、何か言いかけた時だった。校舎の裏庭の方から大きな物音がした。女の悲鳴らしき音も耳に届き、フローラ達は顔を見合わせた。


「何、この音は?」

「いいから、行ってみるぞ!」


 フローラ達は裏庭の方に向かった。裏庭は人気がなく、木々も多いので薄暗い場所だったが。


「え? 何で?」


 そこにはモラーナが倒れていた。突き飛ばされ、壁に頭を打ったらしく、頭から血を流しているではないか。


 芋臭い太い眉毛は動いてはなかったが、夫はすぐに彼女の身体を起こし、確認していた。


「大丈夫! まだ生きている! 人を呼んでくる!」


 夫は急いで校舎の方へ走っていく。


 フローラはモラーナの様子を見ながら、小さく震えていた。


「モラーナ、何で?」


 まさか第一容疑者が倒れていたとは。モラーナの足元には土を掘り返した跡が見えたが、これも事件に関係があるのだろうか?


「モラーナは犯人じゃない?」


 まだまだ事件調査をする必要がありそうだった。


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