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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第3部・サレ公爵夫人の危険な日常〜お嬢様学園殺人事件〜

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潜入調査編-6

 公爵家の食堂にはいい香り賀漂っていた。コンソメスープ、パン、ソーセージ、サラダといつもの夕食がテーブルの上に並ぶ。主人である夫がいない時の食事は、こんな質素なものも多い。


 普段ならフローラ一人だけがテーブルの席につき黙々と食事をするが、今日はメイド達と食べたかった。貴族のマナーとしてはNGではあるが、アンジェラやフィリスも席に座らせ、一緒に食べた。


「うま、ソーセージ久しぶりで美味しい!」


 フィリスはソーセージを齧りながら、頬をオレンジ色に染めていた。よっぽどソーセージが気に入ったのか、頬を緩ませ、目尻も下げている。


「こらこら、フィリス。行儀が悪いって」


 アンジェラはそんなフィリスに呆れていたが、強く注意はしていなかった。もう夜の夕食の時間でもあるし、全体的にゆるい空気も漂ってうた。


 フローラもそうだった。事件捜査が迷路に入ってしまい、これからどうするべきか全く分からないが、とりあえず今は食事を楽しむ事にした。


 少し硬めの雑穀パンを千切り咀嚼する。アンジェラが毎日焼いているパンだ。味も普通だ。硬めなので、翌日食べる時は牛乳やミルク、卵に浸して焼いて食べる時みある。


 こんな事件に巻き込まれている時食べるいつものパン。これを食べていると、地に足がつく。ちゃんと日常にかえってこれた安心感も持てる。確かに退屈な日常に不満を持ってしまった事もある。事件調査も進まず、胃もキリキリしてきたが、今の心は落ち着いていた。


 パンだけでなく、ソーセージやサラダ、スープも全部美味しく感じるものだ。こうして普段通りの食事を出来る事は、幸せなのだろう。例えマンネリになったとしても。


「でもやっぱり犯人はモラーナかね?」


 アンジェラはスープを飲も干すと、思いついたように呟く。ゆるい食事の席ではあったが、全て忘れる訳にもいかない。フローラ達は皿が空になるにつれて事件の話題も始めた。


「モラーナはマリオンを脅してた。おそら薬をネタに。それで揉めたんだ」

「でもアンジェラ。証拠が無いんですよねぇ」


 フィリスはソーセージがなくなった皿を未練がましく見ながら言う。


「モラーナはダリアをネタに脅していた疑惑があるけど、一体ネタは何? 私、さーっぱり分からない」


 フィリスは口を尖らせる。


「でもフィリス。あの狡猾そうなキャロルを手下にしていたダリアよ。あ、もしかして?」


 フローラは自分で言った事に何か閃きそうだった。


「ダリアも万引き犯? もしかしてキャロルと一緒になって万引きしているとか……?」


 全く証拠はないが、その可能性はありそうな気がした。


「じゃあ、つまり万引きしていた事をネタにモラーナがダリアを脅してたって事か?」


 アンジェラがまとめてくれた。


「本当だったらモラーナはとんでもない女よ」


 普段冷静、かつベテランメイド頭として数々の修羅場を潜り抜けてきたアンジェラもひいていた。


「モラーナは薬でマリオン、万引きでダリアを脅してた? とんでもない女ですね。セシリーは何をネタに?」

「フィリス、たぶん、マフィアのアドルフと付き合っていた事をネタにしたんでしょう」


 フローラがそう言うと、フィリスもアンジェラも引いていた。


 フローラは驚かない。目の前人の夫を略奪宣言するような極悪女だ。何をやっていたとしてもおかしくない。モラーナはゴーストライターの噂もあったが、これも事実である可能性は高いだろう。


「だったら誰にゴーストライターさせてるんですかね。まさかマリオン? それで印税で揉めたんじゃ?」


 フィリスの推理にも頷きたかったが、そこまではさすがに分からない。そもそもゴーストライターといっても、いくら脅されても素人が出来る事でもない。作家の夫を側で見て来たフローラはよく分かるが。


 三人でわちゃわちゃと推理をしていきうちに、皿はすっかり空になった。アンジェラは食後のデザートとしてプリンと紅茶を持ってきた。デザートも楽しみながら、事件の推理を話していく。


 正直、推理も当てずっぽう。三人で言いたい事を話しているだけで、証拠は何も見つからない。それでも気づくとフローラは笑顔を浮かべていた。事件捜査は何も進んでいなかったが、話しているだけでも気分は軽くなるものだ。


 夫の濡れ衣も晴れない可能性だって大いにある。白警団に逮捕される可能性もあるが、その時はその時だ。病める時も健やかなる時もと誓って結婚した。濡れ衣の夫を捨てる事は、その約束を破る事かもしれない。ふと、フローラの頭に「愛とは約束を守ること」という言葉が浮かぶ。


 何か劇のセリフだった気がする。いや、劇ではな口、夫の小説のヒロインのセリフだったような。


 甘く滑らかなプリンを食べながら、そんなセルフも思い出していた時だった。公爵家に来客があった。


「こんな時間に何?」


 フィリスは来客に驚き、不審そうに玄関の方に向かっていた。


「フィリス、アンジェラ。一応三で玄関に行きましょう。こんな時間の来客は妙ね……」


 フローラもこの時間の来客には首を捻る。編集者のネイトは失礼な男だった。いつもアポ無しで公爵家にやって来たものだが、夜遅くに来る事は一度もなかった。夫の元愛人達もそうだ。極悪な不倫女達がフローラにマウントを取る為屋敷に押しかけて来る事も多かったが、夜遅くに来るものはいなかった。


「ここは私が出るわ」


 こんな時間の来客だ。ろくなものでは無いのは確かだ。フローラはメイド達には対応させず、前に出て玄関の扉を開く。


「何だ。コンラッドじゃない」


 そこにはコンラッドがいた。今日はコート姿で仕事中らしいが、いつもと違って妙な表情だった。


 鋭い目はフローラを睨んでもいない。嫌味っぽい薄い唇もそうだ。何か吠えたりもしていなかった。


 眉間に皺をよせ、目も充血していた。おそらく寝ていないのだろうが、泣くのを堪えているみたいな顔で、フローラは首を傾げた。


「何の用?」

「公爵の濡れ衣は晴れた。明日の朝には帰れる」


 この知らせには、フローラ達は喜んだ。メイド達と笑顔だ。事件捜査は進まないと思ったが、思わぬ所から吉報ではないか。


「うるさいな。お前ら、喜ぶなよ」


 コンラッドはいつも以上に鋭く睨んできた。


「モラーナが遺書で公爵は犯人じゃないと書いた。自分でやったんだと」

「遺書?」


 フローラ達はその言葉の重みに、すぐ笑顔が消えた。


「マリオンは病院で自殺した。尿検査の直後だったよ。あいつは薬もやっていたらい。遺書にそう書いてあった……」


 コンラッドの苦い声が響いていた。

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