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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第3部・サレ公爵夫人の危険な日常〜お嬢様学園殺人事件〜

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疑惑編-3

 翌日、昨日とは違い曇り空だった。グレーの薄ぼんやりとした空で何とも微妙だった。


 フローラは公爵家のキッチンでサンドイッチと栗のマフィンを作っていた。サンドイッチはアンジェラが焼いたパンを作ったのですぐにできた。一応今日のデートに持って行くものだが、夫が気にいるかどうかは不明。


 アンジェラもフィリスもデートに行くと、目を丸くしていた。無理もないだろう。あんな合コン三昧だった夫がどういう風の吹き回しなのだと首を傾げていた。フローラも同感だが、いざデートといっても何も楽しみではない。簡単な言葉で言えばマンネリだった。


「あなた、で、どこ行くの?」

「いや、まず王都の公園の方をぶらっとしようぜ」


 昼過ぎ、夫と公爵家を出た。何故か今日の夫は優しく、フローラが持っていたバスケットも代わりに持ってくれた。


 普段塩対応で不倫までしていた夫だ。おそらく昨日の一件での罪悪感を持ったからだろう。夫の気持ちが手に取るように分かり、フローラは笑えない。夫は何故か薄ら笑みを浮かべていた。一応は左手の薬指に指輪もあったが。


 王都の公園までほぼ会話はなかった。途中に劇場もあったからだろう。劇場には白警団のテープが貼られ立ち入り禁止だった。白警団の連中が聞き込みもやっているようで、夫の表情がますます曇っていく。


「一応聞くけど、フローラがマリオンを殴ったわけではないよな?」

「そんな訳ないでしょ……」


 呆れてため息が出る。


「いや、フローラ。今日のメイクはいいぞ。素晴らしい」

「そうかしら?」


 今日のフローラのメイクはいつも通りだった。アイシャドウやアイラインなどもせず、ベースメイクだけ。シンプルにまとめたおかげで余計に悪役女優っぽくなっていたが、夫はフローラの顔を眺めると、満足そうに頷く。


「そうだよ」

「とてもそう思えないけど」


 会話は全く盛り上がらない。途中で書店にもよったが、よりのよってモラーナの新刊が店頭の目立つ所にあり、夫との会話が完全に消えた。


 とはいえ、ゴシップ誌はまだマリオンの事件を嗅ぎつけてはいないようだ。代わりに国王も他国で美女と豪遊というプチスキャンダルも見つけてしない、フローラは女王の事も思い出す。彼女もサレ妻でマムの事件以降親交があった。フローラと違い完璧な美女の女王。そんな女王でも不倫されるのだ。男の性にウンザリしてきたところ、夫と無言で歩き続け、王都の公園についた。


 公園の中央には大きな噴水があり、子供達が無邪気に遊んでいた。他にもカップルも多く、人前でイチャイチャと行為を見せつけるカップルもいて、フローラの頬は引き攣る。


「みっともない」

「いやいや、フローラ。最近の恋愛小説では人前で手を繋ぎ、ドヤ顔するのが流行っているんだぞ」


 夫はそういってフローラの手を取る。そう言えば夫と繋ぐのは数年ぶりだ。ひんやりと冷たく、乾燥気味の夫の手。フローラの手よりは大きく、骨っぽいが。


「どうよ、ドキドキするか?」

「いいえ、全くしないわね」

「そ、そうか……」

「別に嫌ではないけど」


 フローラは苦笑してしまう。あれだけ夫の不倫に怒り狂い、愛人のも憎しみを持っていたが、今は感情的になれない。嬉しくも悲しくもなく、まさにマンネリだった。


 それでも嫌ではない。落ち着きはする。肌に馴染む感じはするが、どうもイチャイチャするカップルのように楽しくはない。夫は日常の相手なのだろう。恋人や不倫は非日常の相手だが、夫はそうではない。これから長年ずっと一緒にいる相手だと思えば、全くドキドキしない事は普通か。


 フローラはそう納得する事のした。そう言えばマムの事件の時、神父には愛は感情では無いと言われた。感情はいつか廃れるから、意思と選択で行動するのが愛と言っていた。今ならその意味がわかる。もうフローラの中では夫への感情は廃れたが、意思だったら夫を愛する事ができるかもしれない。


「まあ、フローラ。あっちの広場で弁当食おうぜ」

「ええ」


 二人で公園の広場に行き、レジャーシートを広げ、弁当を食べ始めた。


「あなた」

「何だよ」


 フローラは夫の横顔を見つめながら、こう言った。


「今日は誘ってくれてありがとう。おかげでマリオンの事が忘れられたわ」


 目を細めて笑ってみた。本心では全くそんな事は思っていない。夫の罪悪感からくる行動にイライラとすらしていたが、意思の力だったら、相手の為に言える言葉が思いついた。


「いや、別にいいんだよ」

「そう?」

「このサンドイッチもマフィンもうまいじゃんか」

「あなたが酷評していたアンジェラのパンや栗のマフィンだけど?」

「今日は何だかうまいよ。マリオンの事件があったからかなぁ」


 調子の良い夫はサンドイッチもマフィンもバクバク食べていた。


 フローラもあまり美味しいとは言えないサンドイッチだったが、別に食べられないほどではない。毎日食べても飽きがこないだろう。栗のマフィンも新作だが、ほっくりと甘く、空の下で食べるとあう。


 空を見上げると、晴れていた。今朝は中途半端に曇っていたが、今は日がさし、薄いブルーの穏やかな空だった。


「ところであなた、マリオンの事件での心あたりはない?」


 夫は口元をサンドイッチのソースで汚していたもで、ハンカチで拭いてやりながら聞いた。マリオンとは実際、合コンで何度も会っているはずだ。フローラより何か事情を知っているかもしれない。


「マリオンはそうだなぁ。あの子、すごい痩せているから、ダイエットしてるのかって聞いたら、学園に通っている時から急に痩せたって言ってたな」

「どういう事?」


 確かにマリオンの体型は痩せていた。生まれつきのものかと思っていたが、急激に痩せる事とはあるのだろうか。


「お、フローラ。推理かい?」

「あなたは誰が犯人だと思う?」

「そうだな……」


 夫は腕を組み、しばらく考えていた。


「たぶん、モラーナかダリアのどちらだよ。ま、ダリアかね?」

「何でそう思うの?」


 フローラはモラーナを怪しんでいた。


「わかんないけど、ダリアって案外嫉妬深そうだったんだよな。俺がモラーナの作品について褒めると、何故かすっごい睨まれた。なんで?」


 確かダリアは夫のファンだったはず。そんな夫に露骨に睨むのは、単なるジェラシーか。フローラはどうも腑に落ちない。そもそもあの女達は全員癖が強く、同じグループなのも信じられない。モラーナが脅しをしていた可能性はだいぶ高そう。セシリーだけでなく、マリオンやダリアを脅していたとしても不自然では無い。


 その脅しの内容が不明だった。証拠もない。


「あなたはモラーナの作品は正直どう思う?」

「うーん、まあ、悪くはないよ。でも、ちょっと俺の作風に影響受けてるかな?」

「そう。あなたはモラーナの担当編集者に会える? ちょっと気になるのよね」

「おお、俺だったら会えるかも。よし、俺も事件の調査したいぞ」


 夫はよっぽど事件調査をしたいらしい。小説のネタになるからと、子供のように無邪気な顔を見せた時だった。


 何故か公園に白警団がやって来た。コンラッドもいる。コンラッドは白警団のバッジも見せてきた。白鳥と白ウサギがデザインされた独特なバッジで見違える事はないものだ。


「公爵、ブラッドリー・アガター!」


 しかもコンラッドは夫を名指ししてきた。


「マリオンの事件の重要参考人として来てもらうぞ」

「え、コンラッドどういう事?」


 フローラのその言葉は無視され、夫はあっという間に縄でコンラッドに繋がれてしまった。


 夫が突然のことで頭が真っ白になったよう。何も言わずに固まっていた。


「マリオンが公爵に殴られたと証言しているんだ。公爵、来てもらうぞ」


 フローラは必死に止めたが、コンラッドは夫をあっという間に連行して行った。気づくと周りに野次馬もいて、フローラは彼らを追いかける事もできない。


「違う! 俺はマリオンを殴ってないから!」


 夫は叫んでいたが、コンラッドに抗えないようだ。


 マンネリでつまらないデートだち思っていたが、今となっては後悔しかない。まさか夫が連行されるとは想像つかなかった。平和な日常がいつまでも続くわけがないらしい。


「そんな、夫がマリオンを殴るわけないじゃない……」


 フローラの声は野次馬の喧騒にかき消された。夫がマリオンを殴るわけがない。動機がないのに、何故?


 マリオンは嘘をついている。彼女は単なる被害者でないはず。

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