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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第3部・サレ公爵夫人の危険な日常〜お嬢様学園殺人事件〜

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疑惑編-2

 もうすっかり夜だ。あの後すぐに帰ろうかと思ったが、他の白警団の連中にも色々と事情を聞かれ、空は真っ暗になっていた。遠くの方に半分かけた月が見えるが、満月ほど明るくはなかった。


 公爵家に帰ると、リビングルームに夫もいた。てっきり入院でもするだろうと思っていたが、医者が返したそうだ。


 といっても夫の顔色は悪い。ぐったりととソファに座っていた。フローラの存在の気づくと、また悲鳴。


「ちょ、フローラ! そのメイクはやめてくれないか?」


 マム顔のフローラを見て夫は怯えていた。小さな古子供みたいのプルプル震えていたが、世間でいう薔薇公爵や美男子という二つ名前が嘘みたいだ。髪の毛もぐしゃぐしゃ、顔色も悪く、情け無い表情も見せている。


「いやよ。私、このメイクが気に入ってるの。こうすればあなたが家に帰って来てくれるんじゃないかって希望も持てるのよ?」


 フローラは微笑む。公爵夫人らしい嘘くさい笑顔でもなかった。目は完全に死に、口元だけが笑っている奇妙な表情だった。


 決して意地悪で言っているつもりはなかった。むしろフローラの本心だった。


「悲しかった。あのマムなんかと不倫して。いえ、マムだけでなく、パティもローズもドロテーアとも……」


 それ以上は言葉が詰まって何も言えない。


 不倫をされて怒りもあった。復讐してやりたいとい気持ちも少なからずあった。それでも一番は悲しみ。


「不倫は心の殺人ね。私の心はまだ死んだままかもしれない」

「そ、そうか……」


 沈黙が落ちた。夫もこれ以上何も言えないようだった。


「ちなみにマリオンは助かったそう。良かったわね、死ななくて」

「いや、別にそんな事は……」


 今の夫は歯切れが悪い。不倫中はよく暴言も吐いてきたものだが、今は借りてきた猫のようだった。フローラは自分の気持ちを素直に言っただけだが、夫のにはダメージがあった模様。


 髪をぐしゃぐしゃとかき、舌打ちまでしている。眉間に皺もよせ、居心地も悪そう。叱られた子供にしか見えなくなってきたが、夫なりの何か感じる事がありそうだ。


「坊ちゃん! お粥持って来ましたよ」

「公爵さまー! パンもありますよ!」


 ちょうどそこにアンジェラとフィリスが入ってきた。二人ともコスプレを落とし、いつも通りのメイド姿だった。


 二人はテーブルの上にお粥とパンを置いた。ミルク味の粥といつもアンジェラが焼いている硬いパンだ。質素な食事だったが、夫はボソボソと食べていた。


「アンジェラ、フィリス。お粥もパンも案外うまいな」


 フローラと二人だけの会話から解放され、夫もホッとしているのだろうか。珍しくメイド達の料理を褒めていた。


「坊ちゃん、わがまま言わず、質素な食事をしなさいよ」

「そうですよ。肉ばっか食べていたら病気になります。普段の何気ない食習慣が健康の第一歩でししょ?」


 アンジェラだけでなく、フィリスにまで怒られ、夫はシュンとしていた。


 もう夜も遅いという事でメイド達も部屋に下がり、二人夫婦二人だけになった。


 夫はスプーンで粥をちまちまと食べていたが、途中で飽きたらしき、パンをお粥に浸して食べ始めた。


 その表情は本心では美味しい等と思ってなさそう。それでも夫は綺麗に完食していた。先日文句をつけていたアンジェラのパンも。


「アンジェラのパン、嫌いじゃなかったの?」

「いや、マリオンの件があったらさ。こういう何気ないつまんねー日常も貴重なのかなって思ったり……」


 ここで夫は咳払いし、大きめの声を出した。


「っていうか、そのメイク! 本当にやめてくれよ」

「なんで?」

「フローラの心が苦しそうだからだよ!」


 ここで夫は主語が「俺」や「私」ではなかった。


「もうやめてくれよ。お前はマムじゃない。フローラ。俺の妻だ。世界に一人しかいない妻なんだから、目を覚ませ」


 そこまで言われたら夫に逆らえない。フローラは洗面所へ出向き、メイクを全部落とした。


 鏡の中にいる女はキツい美人。悪役女優顔と呼ばれるフローラだった。もうマム顔ではなくなった。


「やっぱりこの顔が一番ね」


 フローラはそう呟きながら夫のいるリビングルームへ戻った。ここでようやく夫はホッとした表情を見せてきた。


「なんかさ、明日は久々にどっか出かけない?」


 その上、夫がデートの提案もしてきた。明日はマリオンの事件を調べるつもりだったが。


「いいけど」


 断る理由もなかった。事件調査よりも優先したくなってしまったのは、今でも夫への気持ちが残っているという事か。


「よし、わかった。明日だからな、忘れんなよ」


 夫はそう言い残すと、自分の部屋に帰っていく。相変わらず夫婦の寝室には帰って来ないが、今日は家に帰ってきた。左手の薬指にもちゃんと指輪もある。


 なぜ夫がデートに誘ったかは不明だった。フローラは首を傾げる。


「デートかぁ……」


 十年ぶりのデートだが、別にドキドキもワクワクもしなかった。日常の延長のようなイベントだ。全く楽しみでもなかった事がフローラを困惑させる。


「私って夫の事を本当に愛してるのかしら?」


 急に分からなくなってきた。


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