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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第3部・サレ公爵夫人の危険な日常〜お嬢様学園殺人事件〜

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極悪恋愛小説家編-5

 公爵家のリビングルームは、秋のやわらかな日差しが差し込んでいた。壁には夫の肖像画もある。パティの事件後、画家のクロエに描いてもらったものだが、今は見るのも微妙。フローラは紅茶を啜りつつ、ため息をついた。


 昨日、セシリーとアドルフに会った。真似っ子モラーナからのアクションは無かったが、この状況は不味い。現に夫は家に帰って来なくなった。


 フローラは紅茶のカップを置くと、軽く咳払いし、ソファに深く座り直した。モラーナの恋愛小説のページを開くが、ちょうど悪役令嬢がヒロインの思い人を略奪するすシーンだった。


「奥さん、またモラーナの小説読んでるんですか?」


 ちょうどフィリスが入ってきた。新しい紅茶を持ってきたようだ。紅茶の良い匂いもする。


「ちょっとフィリス聞いてよ。モラーナは想像以上に地雷女だったのよ」

「やっぱりね。こんな事だろうと思った。今は何か公爵さまにアクション起こしてます?」


 フィリスとも昨日の事を共有するが、セシリーやアドルフの事を聞くと、顔を顰めていた。その後に苦笑。


「いや、公爵様の周りって変な女しかいませんね?」

「それって私も含まれるのかしら?」

「いえ、まあ、今回も合コン女達を調べてギャフンと言わせましょ!」

「今時ギャフンなんて言う人はいないわ」

「いますよ!」


 フィリスと下らない話をしていたら、少しは気が紛れてきた。


「それにしても世の中には同じ顔の人もいるんですね? 奥さん、アドルフにモーションかけられたら、どうします?」

「アドルフは既婚者よ」


 今日のフィリスはやけに意地の悪い質問をしてきた。


「例えばの話ですよ。なんか別に公爵さまに執着する必要ないっていうか。そっくりな代替品があったら、それで良くない?」


 フィリスは歯を見せずにニヤリと笑う。


「男なんてどれも同じかもですよ? 女もそうかもしれませんけれど」

「そんな事言われても……」


 フローラは慌て紅茶を飲み込んだ。確かにあの夫に執着していた理由は何だろう。似たような代替品があったらそれで良い? 


 フローラの思考に悪魔のような存在が話しかけてきた気がした。


「フローラ奥さん、出来上がった洗濯を届けに来たわよ」


 そこに洗濯婦のエリサがやってきた。エリサはこの屋敷で洗濯婦として不定期に来て貰っていた。マムの事件の時は夫のアリバイも証明してくれた。数々の貴族の家の渡り歩いている為か、噂好きの耳年増のおばちゃんだ。


 リビングから帰ろいとするエリサだったが、もししかしたらモラーナ、セシリー、アドルフの事も知っているかもしれない。引き止めて何か噂がないか聞いてみた。


「モラーナの事は何も知らないんだよ」


 エリサにもソファに座って貰って聞いたが、残念。一番知りたいモラーナの噂は何も知らないらしい。


「でもセシリーの事はちょいと知ってる」


 エリサは声のボリュームを落とし、ゲスっぽい笑みを見せた。


「なになに、エリサ、教えてよ」


 フィリスは身を乗り出していた。フローラもエリサの声に耳を傾ける。


「セシリーはいいとこのお嬢様よ。だがな、結婚した男、アドルフは訳アリの男よ」


 エリサの目はイキイキとしていた。よっぽど噂話が楽しくて仕方ないのだろう。


「アドルフは元マフィアの男らしい」


 この発言にフィリスもフローラも息を飲む。フォリスは田舎娘というが、さすがにマフィアの人間は知らないという。


「相当なワルだったらしい。まあ、結婚して足を洗って落ち着いたそうだがね……。うん、顔は公爵に似てるが、中身は全然違う。やっぱり表情は仕草が元マフィアだ。悪いもんだよ」


 エリサの声を聞きながら、フローラはかえってホッとしていた。いくら夫と似ていても中身は全然違うのさろう。この世の中には全く同じ人物などいない。人に代替品なんてあり得ない。フローラはほっと息をついていた。


「でも何でいいとこのお嬢様、セシリーがそんなマフィアと付き合っていたの? 信じられないよ。普通、貴族とかハイスペ同士でくっつくものでは?」


 ホッとしたのも束の間だ。フィリスの指摘はもっとも。疑問が残る。


「そうね。何でお嬢様、しかも美人のセシリーが元マフィア?」


 昨日の様子では普通に夫婦らしかった。特に不仲そうでもない。そうなると、疑問が残る。これはモラーナの事と関係ある?


「しかもしセシリー、モラーナに真似っこされても強く拒否できない感じだった。何で?」


 それも疑問だった。


「もしかしてセシリー、何かモラーナに脅されているんじゃ? 元マフィアの旦那と悪い事やってて、それで脅されてる。ねえ、奥さん、エリサ、この推理通りません?」

「確かにそうね。素晴らしいわ、フィリス」


 うっかりメイドのフィリスだが、意外と冴えている所も多い。その推理は当たっていそうだが、セシリー達はどんな悪事をしているのだろうか。


「まあね、セシリーの家も結構なブラックな経営しているらしいわ。案外ハイスペ一族もマフィアと繋がっているって聞くよ」

「エリサ、本当?」


 フィリスとエリサは興奮気味にハイスペ達の噂話に興じていた。


 一方、フローラは紅茶をゆっくり啜りつつ、モラーナのついて考える。友達を脅し、ファッションや真似っこしている恋愛小説家。今回の女はかなり手強そうでため息しか出ない。夫の女の趣味の悪さを考えると、どっと疲れる。自分のは平凡で穏やかな日常は遠い。いつも夫の事で悩まされいて、肩の荷が重い。


 確かに今はだいぶマシになったが、過去の数々の裏切りを想像するだけで、心が苦い。今飲んでいる紅茶は砂糖もミルクも入れていないが、さらに苦く感じてしまう。


「まあ、奥さん。話を聞く限りそのモラーナって女はかなりの地雷っぽいな。気をつけてね」


 エリサは言葉とは裏腹に半笑いしながら帰っていった。おそらくこの件もあちこちで言いふらされるだろう。


「エリサは悪い人では無いんだけどね」

「まあまあ奥さん、マムの事件の時もかなり協力してくれたじゃないですか。敵にすると面倒ですが、味方にすると良い人物ですよ!」

「そうね……」


 フローラは再びため息をつき、紅茶を飲み干した時だった。今度はメイド頭のアンジェラがたってきた。その顔はいつもの冷静なアンジェラっではなかった。汗をかき、眉間荷皺も寄っていた。


「アンジェラ、どうしたのよ」

「奥さん、客が来ましたよ。例のモラーナです。どうです、追い払います?」


 フィリスもフローラも顔を見合わせてきた。


「あの極悪恋愛小説家が何の用?」


 頭が痛い。胃も痛いが、ここで逃げるわけにもいかないだろう。


「アンジェラ、客間に案内して差し上げて。フィリスは紅茶とお菓子の準備を。お菓子は私が今朝作ったチョコレートマフィンでいいから」


 指示を受けたメイド達は素早く業務に当たっていた。


「まあ、逃げられそうにないわね。いいでしょう、受けてたつわよ、泥棒猫ちゃん」


 フローラはそう呟くと、すっと立ち上がり、客間へ向かった。

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