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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第3部・サレ公爵夫人の危険な日常〜お嬢様学園殺人事件〜

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極悪恋愛小説家編-2

 出版社ではろくな情報は得られなかった。モラーナについて聞き込んではみたが、編集者、清掃員、社員食堂の社員にもモラーナについては「よく知らない」と言われる事が多かった。


 仕方がない。フローラは出版社から出ると、王道都のシスター・マリーの店に向かった。マリーは修道院時代からの付き合いで、パティの事件も色々協力してもらった。今もフィリスの教育係として面倒も見てくれていた。


 マリーの店は出版社からさほど遠くない。五分ほどでついたが、店の外観からも甘い匂いがそていた。今日もクッキーでも焼いていると思い、店のドアを開けた瞬間だった。女が店から飛び出してきて、フローラにぶつかる。


「きゃ!」


 よろめくが、女は気にせず、外へ走っていく。


「フローラ! その女、万引犯! 捕まえて!」


 店からマリーの声もし、反射的に女を追った。今日はヒールのある靴を履いていたので、それを脱ぎ捨て、万引き犯の女を追ったが。


「待ちなさい!」


 女は若い。おそらく十代だが、長いドレスを着ながらも器用に逃げていた。顔は見えないが、ドレスの雰囲気からいってどこかの令嬢かもしれない。


「それにしても万引きって……」


 汗だくになり追いかけながらも、正直引く。庶民の商業地区ではよくある事だと思っていたが、王都にもこんな犯罪があったなんて。


「ま、待ちなさいよ!」

「待つもんか!」


 万引き犯は挑発までしてきたが、歳のは勝てない。若い犯人は羽を生やしたように走っていき、フローラは息を荒げて道端でしゃがみこむ。


 今まで殺人犯二人は何とか捕まえていた。それなのに万引き犯には、さくっと逃げられてしまい、余計に悔しい。息が上がり、汗もダクダク。ドレスの裾も土誇りで汚れてしまったが、フローラは悔しく、下唇を噛み締めていた。


「大丈夫ですか?」

「え?」


 声をかけられて顔を上げると、驚いた。夫がいた。


「あなた何でここに?」

「は? あなた?」


 夫と思われる男は怪訝な顔をしていた。その表情にフローラはハッとした。目の前にいる男は夫ではなかった。顔立ちはそっくりだったが、頬に小さな黒子もあり、別人だった。


 それにしても、世の中にはこんな似ている人がいるとは。目の色、堀の深さ、鼻筋、歯並びもそっくりだ。髪の色はやや夫の方が明るめだが、染めてしまえば同一人物に見られても不思議ではない。声も似ていたし、背丈や体型もほとんど差がない。


「私はアドルフという名前ですよ。どなたかと勘違いされていません?」


 アドルフは夫と違い、笑顔が柔らかだった。夫はまずこんな表情は見せない。特に不倫中は絶対に見せないような表情で、フローラの心臓は変な音を立てていた。


「では、行きますよ」


 アドルフはそう言い残すと、手を振って帰っていく。


「驚いたわ。世の中にはこんなにそっくりな人もいるのね」


 驚いたが、単なる偶然だろう。フローラは立ち上がり、マリーの店へ帰ったら。


 店に帰ると、もう閉店になっていた。空ももう暮れかけていたので予定通りだろうが、店の壁にも万引き防止のポスターが貼ってあった。


「もう最近、万引き犯が多くて、困っているのよね」


 店から厨房へ行くと、マリーは心底困った様子だった。手首にも包帯があり、先日万引き犯を捕まえようとして出来た傷らしかった。


「そんな万引き多いの?」


 フローラは信じられない。


「そうみたいですよ。困ったもんですね」


 厨房で明日の仕込みをしていたフィリスが代わりに答えた。


「何でこんな万引き多いの?」


 確かラナの地元でも万引き犯のポスターが貼ってあった事を思い出す。


「はは、それは白警団が無能だからでしょうよ」


 マリーは優しい顔立ちに似合わず毒を吐き、大笑いしていた。


「それは私も同意ね」

「ねー」


 三人で白警団とコンラッドの悪評で盛り上がってしまうが、ふと我に変える。


「そういえば、さっき外で夫とそっくりの人を見たのよ。顔だけでなく、背丈や声もそっくりだったのよね」


 それを話すと二人とも食いついてきた。


「奥さん、本当ですか? まさかその人と浮気なんてしたりしません?」

「フィリス、さすがに私だってそんな事しないわよ……」


 短略的な発想をするフィリスに頭痛がして来るが。


「まあ、世の中にはそっくりな人がいるって噂ね。フローラ、その人と浮気なんてするんじゃないわよ」


 マリーも笑いながらも釘を刺してきた。


「そ、そんな浮気なんて絶対しませんよ……」


 自分がされて嫌な事はしない。それでも、あのアドルフの顔を思い出すと、なぜか心臓が音を立てていた。


「しかし自分とそっくりさんが居るなんて面白いねぇ」


 フィリスは所詮他人事だ。そう言うと、呑気に明日の仕込みを始めていた。


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