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毒妻探偵〜サレ公爵夫人、愛人調査能力で殺人事件を解く〜  作者: 地野千塩
第3部・サレ公爵夫人の危険な日常〜お嬢様学園殺人事件〜

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サレ公爵夫人編-2

「確かに暇よね……」


 フローラはため息をついた。今は公爵家の書斎にいた。書物の整理をしていたが、あっと言う間に終わってしまい、暇だった。


「あぁ、暇」


 欠伸も出てきた。先程キッチンでパンケーキを作った。バカンス先で買ったお土産のミックス粉を作って焼いた。確かに楽しかったバカンスも思い出してしまい、この公爵家のキッチンも書斎も色褪せて見えてきた。


 今は都では舞台俳優の不倫が一大スキャンにもなり、フローラ達の事は全く話題にならな。ゴシップ記者のトマスからも「貴族ネタはオワコンかもしれない」と言われていた。貴族のゴシップネタを乗せてもあまり部数が伸びないらしい。


 ゴシップネタにされた時は嫌で仕方なかったが、スルーされるのも微妙というか……。フローラは書斎の椅子に腰かけ、足を組むと、欠伸をもう一度した。メイドも最近は短期助っ人も多く来てくれるので、フィリスやアンジェラ達も暇そう。何も起きない平和な日常がこんな飽きるとは思わなかった。


「まあ、夫が浮気していないだけマシだけどね……」


 確かにパティの事件から夫の不倫は止まった。今は愛人ノートもパティの事件の証拠品として押収されていたが、全く困っていなかった。


 あまりにも暇で、探偵マニュアルも読み返していた。これはフィリスの父が作ったものだ。彼は探偵の副業もしていて、マムの事件前にわざわざ作ってくれたものだった。


「ふうん。事件の火種は早めの潰しておきましょうって書いてある。特に嫌がらせの手紙、根も葉もない噂を立てられた時は早めに対処しましょうだって」


 ずっと欠伸をしていたフローラだったが、探偵マニュアルを読んでいたら、頭がすっきりしてきた。確かに良い今は平和過ぎたが、事件が起きないとも断言できない。


 フローラは椅子から立ち上がると、書斎の引き出しから手紙の束を取り出す。これは夫の読者からのファンレターだ。担当編集者のネイトから貰ったものだが、あまり中身はチェックせず、フローラに丸ごと渡されていた。編集の仕事も多忙だ。時に夫と二人で各地に取材して回っていた。手紙のチェックも妻のフローラがやれという事だろう。


「ふむふむ、手紙は概ねファンからのものばかりだけど……」


 ファンからの熱がこもった手紙が多い。「愛人探偵」で離れた古参も多いらしいが、逆にオカルトマニアやミステリーファンからの読者も増えたらしい。手紙を送って切るような濃いファンの総か数はいつも同じくらいだったが。


「しかしこのラナって読者は、面倒っぽいわ」


 その中でも一通だけアンチのような手紙も混ざっていた。ラナという若い女性読者からだったが、夫が作品の路線を変更した事が許せないらしい。また恋愛小説書いて、妻のフローラの意見など全く聞くなと強い筆圧で綴られていた。


 一応封筒には住所も書いてあったが、嫌な予感もそた。同時に胸がワクワクもする。これは何か事件の火種かもしれない。


 ラナは庶民が住むキリー地方に住んでいるようだ。馬車を使えば王都から一時間少しで行ける距離だ。


 もしラナが害悪ファンと化し、夫に危害を加えられてからでは遅い。数年前に作家志望者が逆恨みし、事件を起こした事も思い出し、フローラの頬が引き攣る。もっとも今はその緊張感も心地よかったりするが。


「フィリス! 来て。事件の匂いがするわ。調査に協力してちょうだい!」


 フローラが呼ぶと、キッチンからフィリスがすっ飛んできた。その目は限りなくキラキラとし、ケーキを目の前にした子供のよう。


「やった! 事件ですね!」


 フィリスは大喜びでくるくると踊っているぐらいだ。少し前なら田舎娘らしいフィリスを咎めたいものだが、今は違う。フローラも一緒になって笑ってしまうぐらいだ。


「ええ、事件ですよ。さっそく庶民風の変装をしましょう。いえ、するぜとか言った方がいい?」

「それは言葉崩し過ぎですよ。でも、さっそく庶民風のメイクしましょう! どこへ行くんです? 楽しみで仕方ないです!」


 今はまだフィリスと二人で調査を楽しみにする余裕があった。


「私も楽しみよ」


 未来に起きる事件など全く想像もできず、フローラも笑顔だった。

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