05 当たらなければどうということはない If it can't hit us with it, it doesn't matter.
優しいセンパイ方と顔合わせて一週間と少し。
なんとか俺は隊に馴染めてきたと思う。
初めは危険物扱いされていたが、
俺が”悪い強化人間ではない”と言う事をアピールした事で
訓練二日目からは隊の仲間と距離を少し詰めることができ
改めてクリス隊の面々に自己紹介をした。
アズサ=バトン一等兵
年齢20代たぶん後半(女性に年齢を聞くのはどうかと思って聞けなかった)
月面サウスポート14番街出身
志願兵/レベル1 月面防衛軍から転籍
父親は月面防衛軍の高官らしい
印象としては小柄だが男勝りの気の強い女性だ。
アルバート=フォスター二等兵
年齢23歳
月面サウスポート10番街出身
志願兵/レベル2 月面防衛軍から転籍
月では有名な総合商社の子息。
大人しそうな優男、軍人向きではないが
幼い時の事故で両足を義体化。
曰く、おかげで鬼ごっこでは負けなしらしい。
優しいセンパイこと
ルドルフ=ヤン一等兵
年齢27歳
月面セントラル3番街出身
懲役兵/レベル1
12件詐欺と4傷害罪でブタ箱に入っていたところを
兵役による減刑の話しを聞いて志願したらしい。
センパイは礼儀知らずどころか
中々なクソ野郎のようだ。
この3人に俺とクリス=エドルバ軍曹を足した
5人でクリス隊らしい。
ちなみにレベルというのは人体改造度合いのことだ
投薬によるブーステッドマンはレベル1
身体一部義体化は度合いによってだがレベル2〜3
脳だけ残し全身義体はレベル4
区分けとしてはわかりやすいが
難病患者のようで俺としてはあまりいい気分ではない
そして俺はレベル5………
今までなかった区分を俺の為に作ったらしい。
つまりは人外と言うことだ…
だが同じ隊だからかルドルフ以外は
思いの外気さくに接してくれていた
いや…むしろ気さく過ぎるのかも知れない
そんな状況が今まさに起ころうとしていた。
「ヒノモリ!! 次の射撃訓練はアタシと競争よ!」
ベンチプレスを終えたアズサ=バトンが
キャンキャンと喚くように俺に声をかけてくる
「バトンさん…やってもいいですけど
賭けは無しでお願いしますよ?
自分、金持ってないんで…」
この小型犬の如く吠えるアズサ=バトン
黙っていれば美人なのであろうが負けん気が強く
大の賭け事好きの残念美人なのだ。
「いいわよ〜 あっ! でもヒノモリは支援ユニット使っちゃだめよ!!
それ使ったらイカサマだからね!?」
アズサに釘を刺された事で
活躍の場を奪われたアンは心なしか残念そうだ
本来、感情表現など感じられない金属の目玉の気持ちが
判るようになるとはついに俺もそっち側に行ったのかも知れない。
そんな事を考えながら意気揚々と
射撃訓練場に向かうアズサに俺はついて行った。
射撃訓練場に着くとアズサは自前のアーマーを着込み
一挺のカービンを渡してきた、
今ひとつ理解できない俺は尋ねる
「実弾訓練っすか? てっきり光学判定の競争かと…」
訓練が必要とは言え実弾はそれなりに金がかかる
特に指示が無い限り個人で行う訓練は光学判定の
射撃訓練のはずだ
しかしアズサは満面の笑みを浮かべながら答える
「違うわ! 対人訓練よ!
前回は光学判定で負けちゃったけど
今回はペイント弾だから負けないわよ!!」
何を根拠に負けないと言っているのかわからないが
何故かドヤ顔のアズサ、どうやら一昨日やった
射撃訓練の勝負に負けたのが相当悔しいらしい。
「さぁ!! 準備しなさい! ペイントだらけにしてやるんだからっ!」
正直ペイント弾でも当たれば多少痛いし
何より汚れが面倒だ、ここは穏便に断る方法を考えるか…
そう考えていると横からアンが割り込んでくる。
「良イでしょウ…バトン一等兵…
貴女如き私の支援なド要りまセン…
ウチのアタルガ返り討チにして差し上げマス…」
「─っ!? たかが支援AIの癖になんて生意気なヤツ!!」
売り言葉に買い言葉、
アンが余計な事を言ったおかげで穏便に断る道が絶たれた。
相手をするのは俺なのに何故コイツは余計な事を言うのか
そんな事を考えているとアンが耳元で言う
「アタル…安心しテくださイ
当たラなけレばどうという事はないのデス」
この状況を作り出しておいて
何言っているのかこの目玉は……
俺はコイツが本当に支援AIなのか疑わしくなってきた。