04 イキったクソ野郎はKO勝ちの夢を見るか-Do Asshole dream of KO win?
優しいセンパイから個人レッスンを受けるため
スパーリング用のスペースに入る俺。
するとセンパイは話し掛けてくる
「ルドルフ=ヤンだ…」
名乗るセンパイことルドルフ。
なるほど戦う相手にに名乗るとは意外と礼儀正しいのかも知れない
相手に合わせて俺も名乗ろう。
「アタ……」
「いや666だろ?」
俺の言葉に被せてくるルドルフ。
……前言撤回だ、コイツは礼儀知らずのようだ。
そして礼儀知らずは続ける。
「その横に浮かんでいるサポートAIも使ってかまわんぜ?
でなきゃ、お前の実力が分からねぇからな…」
そう言ってルドルフは俺の横に浮かんでいるアンを見ながら嗤う。
どうやら俺達の仕様は資料か何かで知っているのだろう。
確かに俺の性能を100%引き出すにはアンの支援が必要になる。
特に知覚関連はアンの支援があるか無いかでかなり変わる。
アンとリンクした場合の俺の視覚には通常に見えている物に対して
AR補足が記載される、ソレは距離や大きさ、温度など様々だ。
周辺情報があればナビゲート、仲間の位置と自分の位置、
敵をマーカーするなどなど、他にもいくつか有るが
軽く思い出せるだけでも戦闘ではかなり有利に働くだろう。
すると秘匿開戦でアンが俺に声をかけてくる
《アタル………………力が欲しい…か?》
アンんは全時代の娯楽映像の1シーンを引用し聞いてきた。
だが所詮AIだからか、それとも羞恥心なのか再現度は低い。
《………アン、俺の趣味合わせてくれるのは嬉しいが
やるならソレっぽくやってくれ…あとリンクはこのままで良い 》
《………ハイ》
やはりやってて恥ずかしかったのか言葉少なげに答えるアン
っていうかAIって恥ずかしいとかあるんだろうか?
「さて相談は終わったか666?」
「あぁ…このままで良いよセンパイ」
確認してくるルドルフに返す俺。
ルドルフは「吠え面かくなよ…」と呟くと拳を構えると
こちらへ向かって駆けた。
「っらぁぁ!!」
勢いよく右ストレートを放ち、そこから左のボディを狙うワン・ツー。
そこから再度右のストレートを放つルドルフ。
一瞬で畳み掛けるような3コンボを俺は躱す。
「まだまだ行くぜ…次でノックアウトだ!」
そう言ってステップを踏むルドルフ、
どうやらボクシング主体の戦い方のようだ。
だが俺はボクシングは知らない、だから無理して付き合う気もない
次の瞬間、再度ルドルフが仕掛けてくる。
大ぶりの右フック……はフェイントで左のボディが本命。
おそらくルドルフの拳は疾いのだろう、でも今の俺には見えるのだ…
この体になった事で動体視力、反射神経は以前の何倍にもなった気がする
そして極めつけはゾーンの発動だ。
一流のアスリート達が試合の最中に起きるというアレだ。
それが今の俺には任意で発動できる、ゾーン状態では
ルドルフの拳などは止まっているようなものだった。
ルドルフのボディを払うと、予想していた右ストレートが飛んでくる。
それを払いつつ、腕を握りルドルフの体を引き寄せる、
そして反対の手で襟元を掴みつつ、懐に体をねじこんで
―――― 投げた
背中から受け身もとらず音をたて落ちるルドルフ。
落ちた瞬間、小さく呻き、そして失神した。
額に手を当てながら何事か呟いているクリス。
周りの隊員達も口を開けてこちらを見ていた。
(あのドルフ…負けちまったぞ…)
(アイツほとんど動いてなかったよ…)
(ルディ…動いてないぞ…死んだか?)
(さすが悪魔の数字…俺一緒に任務とか大丈夫かな…)
周りの隊員が囁くように会話している。
…いや全部聞こえてっから
…それも最後のヤツ結構失礼な事言ってるからね
先程まで注目するようのこちらを見ていた隊員達
今は俺と視線を合わせまいとしている
さらに少しづつこちらから離れていく始末だった。
おかしい…
俺は優しいセンパイの個人レッスンを受けただけだ。
確かに対話というコミュニケーションを面倒と思い
拳で語ると言う少々野蛮な方法を選択した事は認める。
それにボクシングで戦わなくてはいけないと
言われた訳ではない、だから俺が投げ技を使っても
問題は無いはずだ…だから…そう
これは不幸なすれ違いなのだ。
そんな事を俺が考えている中、
クリスとラウルが衛生兵を叫ぶように呼んでいる声が周りに響いた。
「いや〜 まさかジュージュツ使いだったとは…」
意識を失ったルドルフを処置したクリスは
周りから完全に避けられている俺の所へ来て声を掛けた。
「柔術は珍しいんですか? 俺の時代では
軍人はだいたい習得してましたが……」
この時代では接近戦がなくなっているのだろうか?
それにしてはルドルフはステゴロ勝負を挑んできた
何か俺の時代とは決定的に違うのかも知れない。
「昔と違って今はシールドが発達してるからな
基本的にはシールドを考慮した訓練を優先してるんだよ」
そう言ってクリスはシールドと
今の戦場においての対人戦闘について話しはじめた。
要約するとこうだった。
まず今の兵士は全身鎧のようなパワードスーツを着て戦う。
今はこれを単に”アーマー”と呼んでいるようだ
このアーマー自体にも防御性能はあるが作戦行動中は
さらにシールドで全身を覆うそうだ。
このシールドとアーマーが高性能だった
メーカーにもよるが基本的にアーマーは衝撃吸収機能、
装着者の筋力のアシスト、電子的なサポート機能が標準装備。
そして次にシールド、シールドを展開している相手には
基本的にシールドを割らないとダメージを与えられない
それどころかアーマーに傷すら付けられない。
さらに物体を弾くような性質があり小さな瓦礫などからも
身を護る事ができるらしい。
それによって相手と組み合う柔術系の戦闘術は廃れたらしい
しかしシールドは許容値以上の強い衝撃や
レーザーの照射を受けるとダウンして次に発動するまで
インターバルが必要になる、そこでまずは相手のシールドを
割る事を優先した打撃格闘術が現在の主流となったそうだ。
さらにこのシールドとアーマーの発達により
俺の時代とは決定的に違う事があった。
戦闘においての接近戦の重要性だ。
シールドとアーマーの性能が上がるにつれ
対する銃火器の性能も上がっていった。
しかしあるところから銃ではシールドを割れなくなったのだ。
もちろん大口径射撃武器による狙撃、速射性の高い銃などはその限りではない
しかしそれらは個人兵装としては少しかさ張る。
そこで開発されたのがシールドの
技術を応用した近接武器だった。
形としては様々あるがブレードが一般的だった
そしてその使い方は単純だった、
アーマーの膂力で相手を殴る、ただこれだけ。
小口径の弾を100発浴びせても割れないシールドを
5回程度の攻撃でそのブレードは割ったのだ。
現在では小規模な戦闘においては火器でシールドを削りつつ
間合いを詰めてブレードで仕留めると言う戦い方が主流らしい。
ひとしきりクリスの話しを聞いた俺は目眩すら覚えた、
軍属ではないとは言え、弾丸吹きすさぶ月で警備業をしていた俺は
戦闘のセオリー、特に近接戦闘に関してはそこそこ学んでいた。
何故なら生き残る為に必要な知識だったからだ。
例え強靭な体になってようが、人外の力を持ってようが
弾には当りたくないし、斬られもしたくない。
ここで兵士としてやっていくには
今までの知識や考えを一新しなくてはならないのかも知れない――――俺はそう思った