表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

03 ヒノモリアタルの憂鬱 The Melancholy of Ataru Hinomori

死に戻ってから、検査を受けたりして三日経った。

目玉AIことアンとLHC社副社長のラウルと話して

わかった事は3つ。


 俺とアンはどうやら二人(?)で一つのユニットだと言う事

俺の脳は完全に電脳化されているが所詮、元人間だからなのか

出来ることが限られているらしい、それを補うのがアンだと言うのだ。


 アンがいるおかげで遠隔の端末も電子機器触らずに動かせるし

通信もできる、その他天気の情報も…

と言う普段の話しは置いておいて

戦場で様々な電子的作業を一つの電脳で行うと

負荷がかかり作戦行動に支障が出る、それを防止する措置らしい。


 つまりハナから俺とアンが造られていた事を

考えると五ツ星は俺が蘇生できたら兵器か何かに転用する

予定があったようだ、いや、そうとしか思えない。

ちなみにアンは電脳化された俺の記憶を見て、

俺の趣味や色々な癖を言い当てたらしい、プライバシーの侵害も甚だしい。


 あとアンは通常のAIとは少し違い、製作者である人間の

思考パターンなどを完全に模倣するように造られている

それ故にウィットに富んだジョークも言えるとの事だった。

ラウルは素晴らしいと言っていたがまったくの無駄機能だと俺は思う。





 次に2つ目 現在の月の状況だ。

俺が死んでから20数年後に月面政府なるモノが出来たらしい

しかしその中身は地球の連合の下部組織みたいなもので

地球の大国の言いなりだったそうだ、


 それでも俺の時のような各企業が手荒な事が

しにくくなったおかげで治安が良くなると言う恩恵はあったようだ。


 それから何年か経つと月面政府内で派閥が出来た。

あくまで地球主体に考える連中と月の住民を一番に考える連中。

やがてそれは政治闘争に発展して軍配が上がった月派が

独立への道を歩みだして今に至る。


 現在、月にある企業はこの独立戦争を

支持しており、それによって

何とか月の治安は保たれているらしい。





 最後の3つ目 俺たち兵士の話しだ。

俺が死んでから150年も経ったのに今だに人間同士で

殺し合っているのが不思議だった。

俺の時代でも自立で動くアンドロイドやドローンは

かなりあった、当然三原則は設定されている物だったが


 しかし戦争ともなれば三原則を外して戦わせれば良く

あえて強化人間や人間の兵士など必要ないだろうと俺は考えた。

だが当時のお偉いさん方はそうしなかった。

自立型ではなく簡単な命令に従うタイプのアンドロイドや

ドローンのみを戦闘に投入した。


 何故か?、それはAIの学習を怖れたらしい。

戦争行動は人間同士の私利私欲のぶつかり合いだ

しかし人間全体に奉仕することを至上命令として与えられ

自分で考え、行動するAI。

それが人同士のクソみたいな部分を凝縮した戦場を

目の当たりにして学習する、果たして彼らが

自分達の陣営の為に命令通りに働くのか?


 結局、答えは出ず、従来通りの人を主体とした泥臭い

戦争が始まった、そこで人でありながらアンドロイドと

同等かそれ以上の兵士を求めて強化人間の開発に勤しむ事となった。


 そして今日、LHC社所属の

他の兵士達と顔を合わせる事となっていた。

軍属の連中と異物の新参者の初顔合わせ、

どうなるか結果が予想できそうなシチュエーションだった。








 


「はい皆さん注目!!」


 ラウルはそう言って回りの兵士の視線を集める

階下には20人くらいの兵士達が居る

各自トレーニングをしている様子だった。

てっきり全時代の映画で見たハー◯マン軍曹みたいのが

居るのかと思っていたが企業所属の私兵では

こんなモノなのかも知れない。


 ラウルの声を聞いた彼らが一気にこちらを見る。

その視線の中には奇異の目もチラホラ見受けられる


「こちらがこれから皆さんと苦楽をともにする仲間の

 アタル=ヒノモリ二等兵です!

 所属はそちらのクリス隊ですので

 皆さん宜しくお願いしますね!

 ………アタルでは何か一言」


 ラウルはそう言ってこちらに視線を投げる。


「ご紹介に預かりましたアタル=ヒノモリです

 軍務経験はありませんが精一杯務めさせていただきます」


 俺は五ツ星の新人時代を思い出す。

あの時は緊張した、初めてマトモな仕事に就けると

期待に胸を膨らませたものだった。

そんな俺も今やロートル………



(あれ…資料で聞いてのと違くないか?)

(確か40ぐらいって聞いてたけど20代くらいじゃない?)

(いやアジア系だから若く見えるのかも……)




 分かってる、分かってるよ…お前らの言いたいこと

ロートルに見えないよな………だって俺が一番驚いてるもん…

そう…今の俺は見た目年齢が10代後半から20代前半に

なっていた。検査を受けてる時に気づき思わず声を上げた程だった。


 ラウルとアンに確認したところ、ナノマシンの影響で

肉体が全盛期の時の状態を維持しているのではないかと

言う事だった、若返ったのは嬉しい気もするが

また一歩人間から遠のいたと、その時は溜息が漏れたものだ。


 周りからヒソヒソと聞こえる声。

聞こえないようにしているつもりなのだろうが

身体能力や五感も強化されている今の俺には残念ながら

すべて聞こえている。


 そんな中、ラウルに先程示された

クリス隊とやらの方へ向かうとガタイの良い

アフリカ系の男が進み出てきて敬礼をする。


 俺も見よう見まねで敬礼を返すと

アフリカ系の男は微笑みながら話しかける


「自分はクリス=エドルバ、階級は軍曹だ

 この隊を預かっている者だ、しかし

 資料では私より少し年上と聞いていたが……」


 なるほど年下か…とは言え軍属となったからには

階級が大事だ、それに今の俺は20そこそこの

小僧の見た目だ、ここは敬語で通そう。


「強化の過程でこうなったようです…」


 クリス軍曹は「そうか、そうか」と

言いながら何やら憐憫の目で見てくる。


 正直、俺はもっと()()()()()を受けるものかと思っていた。

しかし案外普通のようだ…また弾丸の嵐に身を置くのは気乗りしないが

クリス隊ってのは悪いところではないのかも知れない。




………そう思っていた時期が、俺にもありました。




 クリス隊と思われる、近くに居た連中に声をかけるが、

全員に無視される。視線すら合わせようとしない。


 ()()()()は予想していたが、まさか無視とは……

俺の驚きを察したのか横でアンがモノアイを明滅させている。


(いや…言うことあるなら普通に言えよ、モールス信号は分からんよ…)


 しかし声は意外なところから掛かった。


「隊長…コイツが噂のヤツっすか? ベテランって聞いてたけど

 見た目はガキじゃないっすか…?」


 アジア系の男、黒髪短髪、中肉中背、年齢は20半ば〜30代ってところか…

いやこの雰囲気なら、いいとこ20代後半ってところだろうな。

歩き方から言って新兵じゃない、それなり訓練は受けているようだ


 若い時に門衛をやっていた頃の習慣で、人間観察をしてしまう。

当時の先輩の教え「怪しいヤツはよく観察すれば分かる」を実践してきた。


 残念ながら怪しいヤツがわかるようにならなかったが。

この習慣のおかげで何度か命を拾ったこともある。


 アジア系の男はさらに一歩進み出て話しを続ける。


「お前、あの噂の666なんだろ?

 どんだけやれるのか見せてくれよ…なぁ?」


 後ろでクリスが少し慌ててる、

それを見たアジア系の男はクリスに言う。


「隊長…これはあくまで訓練っす…隊長も見たいでしょ?

 新しい隊員の実力…」


 後ろでクリスの生唾を呑む音が聞こえる。


 やはりこうなったか…

まぁ、無視とかされるよりもよっぽど良い。

新参者に組織の序列を()()()()()()()()()()()()古参。

俺の時代ではよくある話しだった。


 だが、実にシンプルで悪くない、

むしろラッキーだと言ってもいい。

この歳になると相手との距離感を図って

人間関係を構築するのは面倒だ、

こういう相手には拳でお話しするのが一番だ。


 既に拳を構えているアジア系の男


「良いですよ、センパイ…やりましょうか…」


 俺は目の前のセンパイに言ってやる。


 いずれ人相手に訓練をするつもりだったのだ、それが今になっただけだ。

さて、それではセンパイの()()()()()を受ける事にしようじゃないか…


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ