母
「おい、由乃! いい加減出てこい。もう二日だぞ」
部屋に引きこもって二日目の夕方。
確かに空腹もトイレも限界。
だけど…。
「あぁもう、めんどくせぇ…。三秒待ってやる。出てこねぇならぶち破るぞ」
待って! 今衝撃はキツイ!!
「いーち!」
すっごい音と共にドアがぶち破られた。
三秒なかった!
「…由乃、来い」
「待って! 待って! 本当にやばいから!」
「あぁ?二日も待ってやっただろ」
そっちじゃなくて!
引っ張ろうとするお母さんをなんとか振り払ってトイレに駆け込んだ。
ふぅ…マジでヤバかった。
「トイレならトイレって言えよ」
言いにくい事ってあるじゃん!?
トイレから出るなりお母さんに捕まって、零くんの部屋に連れて行かれた。
「由乃姉…」
「理乃も準備しろ」
「はい…」
どういう事?
理乃がお母さんに話したんだろうとは思うけど…。どこまで話した?
…全部だろうな。お母さんの雰囲気から予想はつく。
当然逆らえる雰囲気ではなく、お母さんに言われるがままヘッドセットをつけてゲームにログイン。
「ユナさん…」
「ユリノだったな、お前も来い。詩乃もだ」
「は、はい…」
「わかったわ…」
お母さんに連れて来られたのは魔王城の広場。
以前ユリノがお母さんに力を試してやると言われて戦った場所。
…まさか…。
「私はお前たちを信じて零を任せたんだ。それがどうだ? あっさり吸血鬼に奪われて、瀕死にさせて。 挙げ句、助けるのにその吸血鬼の力を借りただと?」
「違う! レイアを…零くんを傷つけたのはうちで…!」
「…バカがっ! 記憶を弄くられてる零が飛び出してきたのは由乃、お前の責任じゃねぇ。私が言ってるのはそうなる前に守れなかったのか?ってお前たち全員を責めてるんだよ」
うっ…それは…。
「構えろ。全員でこい。鍛え直してやる。泣き言ほざいたら殺すぞ。気絶しても殺す。死んでも殺す」
ひっ…マジだよお母さん。言ってる事が理不尽すぎる!
「でも! お母さん、あの吸血鬼は!?」
「あ? そこにぶら下がってるだろ」
お母さんが指差す先には、ボロボロになって魔王城のバルコニーから吊るされた吸血鬼。
…なんかちょっとスッキリした。
「零と繋がってるとかほざきやがったから、加減はしたけどな。お前たちには普段のように加減はできねぇからな?恨むなら不甲斐ない自分を恨みやがれ」
「あ、あの!!」
「なんだ? お前は見逃してやったんだ、大人しく見てろ」
「…嫌です! 私も、私も鍛えてください! 戦える強さがほしいんです! もう足手まといは嫌なんです!」
「…言ったな? よしっ、来い!」
ミミ、自分から混ざってくるとか…。
でも、そっか…。足手まといを気にしてたもんな。
うちも負けてられない!
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ー
「雑魚共が…いつまで地面とイチャついてやがる! 早く立て! 立たねぇならそのままトドメさすぞ!」
ううっ…。
ユリノもいて四人なら少しは…なんて甘かった。
ミミはお母さんが加減して鍛えてるから別!
うちらには加減も容赦もない。
今までどれだけ加減されてたか、身を持って体験してる…。
シノ姉の放つ矢は素手で掴まれるし、ユリノの巨大な火魔法もお母さんには温かい風程度なのかってくらい無傷。
うちとリオの攻撃も躱され、殴り飛ばされて…何度も何度も魔王城の壁に叩きつけられた。
武器なんてとっくの昔に弾け飛んでる。
魔王城の壁にはうちらのぶち当たった穴が無数に空いてて、もう廃墟みたい。
「おい、早く回復してやれ」
「…もう魔力が…」
「あ? これが済んだら休暇をやるから頑張れ」
「や、やります! やらせてください! 誰か魔力回復薬ありったけ持ってきて!」
回復役に呼ばれた人達が大騒ぎしてる。
回復のおかげでなんとか立ち上がったうちらはまた殴り飛ばされる。
動けなくなると回復されて、そんなことを何度繰り返しても、お母さんには指一本触れられない。
本当に魔王だ…。伝説になるはずだよ。なんだよこの人。
いや、うちらのお母さんなんだけど。強すぎる…。
「…多少はステータスも上がったか?」
お母さんにそう言われてステータスを確認したらレベルが跳ね上がってた。
「レベルは上がったわ〜…でもメンタルはボロボロよ…」
「甘ったれんなよ? 零は文字通り死にかけたんだろうが! お前達はピンピンと生きてるだろう!」
…そう言われちゃうとな…。やったのはうちだし。
「由乃、確かに直接やったのはお前かもしれねぇ。だけどな?その状況を前もって防げなかったのはお前達全員の責任だ。違うか?」
「はい…仰る通りです。敵に気を取られて周りを見ていませんでしたから」
「…そうね〜…もっと私達が強ければ余裕を持って状況把握ができてたわ…」
「だね…。私なんて魔法もギリギリまで使い方わかんなくて、レイアとシノ姉に守ってもらってたし」
「…うちもだな…」
物理が効かない相手への決め手に欠けてたのは間違いない。
レイアに守ってくれると言われて浮かれてた…。
その結果がアレだ。言い返す言葉もない。
「…私がな?一番許せないのは、零が私の事を覚えてねぇって事なんだよ! おかしいだろ…ようやく再会して、お母さんって呼んでくれたんだぞ?それがついこの間だ! それなのに…」
お母さん…。
「…命を助けた代償なんだとよ。記憶は運が良ければ戻るかもしれねぇとは言ってたが、戻らなかったら? 私はどうしたらいい?」
「でもお母さん、零に厳しかったんだし、今からやり直せば…」
リオお前!
見えない速さで殴られたリオは魔王城の壁にぶっ刺さった。
言っていいことと悪いことがあるだろうが…。
「…お前たちもリオの言う通りだと思うか?」
「流石にそんな事言わないよ! 思い出や記憶は大切だし、うちのこと覚えてないなんて言われたら耐えられない!」
いくら傷つけた過去があると言っても、それを零くんが忘れてくれればいいの?
それは違う。その記憶を零くんが持ってるからこそ、うちは変わろうと思えたんだから。
「…私はレイアとの記憶だけがすべてですから。レイアにもすべてを覚えていてほしいです」
「そうよね…。些細なことでも忘れたくないし、忘れてほしくないわ〜…」
うちらは気合を入れ直してお母さんに立ち向かった。
何度も何度も…。魔法だって使った。今できるすべてをぶつけた。
リオもお母さんに謝ったけどまた殴り飛ばされた。
こんな事でうちの傷つけた零くんと、お母さんへの償いになるとは言わない。
それでも…。
今はお母さんに立ち向かう。
後悔ばかりしてるよりこっちのがよっぽどいい。




