ブラッドミストの中
風呂上がりでホクホクしてたらアリスにベッドへ誘われた。
夜はこれからなのに…。オレ…じゃなくて、私達の活動時間だよね?
そう言ったら、これも勉強だって言われた。
ちょっと意味がわかんないけど、アリスが言うなら…。
でもなんで服を脱ぐの?
ヴァンパイアだけに伝わる儀式でもあるのかな。
「アリサも」
恥ずかしいけど勉強なら仕方ないのかな。
服を脱いだら突然アリスが押し倒してきた。
は…? なんだこれ…。
前にもこんな事があったような?
っ…痛ってぇ…頭がズキズキする。
なんか忘れちゃいけない事がある筈なのに。
抵抗しようとしても力では勝てない。
しかも頭が痛すぎて…。
痛みに耐えてたら、ガシャーンっとガラスの割れるような大きな音。
頭に響くからやめてくれ…。シャレになんねぇから…。
…………
………
……
…
ふと目が覚めたら、視界は真っ赤な霧みたいなので周りが見えない。
頭痛も少し治まってる。
目を凝らすと、薄っすらと見えてきた。
アリスが攻撃されてる!?
なんでだよ! まさかドラゴンにバレたのか?
オレの家族に何しやがる!!
矢を躱した直後の無防備なアリスに向かって振り下ろされる攻撃。
無意識だった。
助けなきゃ…そう思って羽根を出してアリスの前に飛び出した直後に頭にものすごい衝撃。
殴られた勢いで床に叩きつけられて全身が痛い。
「…やめろ……アリスに手を出すな…」
なんとかそれだけ言うのが精一杯。
ものすごく寒い。
痛みももう感じない。
最初は死ぬかと思うくらい痛かったのに。
あぁ…もうそれも感じないくらいなのか。オレは死ぬんだな。
自分の事なのにまるで他人事のように思えて、ちょっとおかしかった。
周りで騒いでる人たちの声も遠くで聞こえて、何を言ってるのかもわかんない。
”アリサ、どうしてアタシを庇ったの?”
そんなの決まってるだろ。大切だからだよ。そんな事もわかんねぇのかよ。
“…じゃあ私に身を委ねなさい。抵抗しないのよ?”
もうそんな力も気力もねぇよ…。こちとら今際の際やぞ?
“死なせるわけ無いじゃない。アリサは私のなのよ?“
好きにしてくれ。どーせ死ぬんだからもうアリスの好きにしてくれ。
”…そう。じゃあ好きにさせてもらうわ“
ーーーー
ーーー
ーー
ー
”気がついた?“
アリス…無事だったんだな、良かった。
”大怪我して死にそうだったのはそっち! まったく、心配かけさせるんじゃないわよ!“
わりぃ…。
”言葉使い直しなさいって言ったわよね?“
ごめんなさい。
”…はぁ。イチから躾から必要ね“
不穏な事言わないでくれよ。
”アタシと契約したんだから。浮気は許さないわよ“
浮気ってなんだよ…。
”そのままの意味よ。アタシ達は心も身体も繋がったの“
……?一心同体だったんじゃ?
”あれは比喩よ! 深く気にしなくていいわ。いずれ時が来たらまた改めて教えてあげるから…ね?“
あ、あぁ。
赤い霧の中、揺蕩うようにふわふわとした感覚は抜けないし、身体の感覚もない。
ここどこ?
”アタシの中よ。この血霧はアタシそのものなの”
ヴァンパイアって何でもありなのな。
”別に万能な訳ではないわ。 そうね、ちょうどいいから、このままヴァンパイアのお勉強よ”
ここで?
”この中は時間の流れが外と違うの。あんな傷、私でも短時間で治せないわ”
…そういえば身を守るためにってネックレス着けてたのに意味なかったなぁ。
”あったのよ。だから生きてるの。つけてなかったら即死してそのままよ?ドラゴンでさえ屠る攻撃を、ヴァンパイアとしてまだ不完全だったアリサが耐えられるわけがないわ”
あの人達、何者?
”…知らないわ”
本当に?
”ええ”
…そのネックレスなんだけど、なんか形変わってない?
首から下げてたネックレスは一対の天使みたいな羽根と金の輪っかがついてた筈。
今は翼が三対になってる。
”……まさかそれ! まぁいいわ。役には立つからそのまま持ってなさい”
なにか知ってるなら教えてくれてもいいのに。
”まずはヴァンパイアについてよ! いい?”
…はーい。
”ヴァンパイアの始まりは始祖様。その始祖様と結ばれた人がいたの”
それがアリス?
”ちっがうわよ! アタシは娘みたいなものよ。始祖様直系のね”
それが真祖?
”理解が早いわね。アタシは四人いる兄妹の末っ子なのよ”
へぇ〜。
”ヴァンパイアは人の精気や血を吸って生きるのはわかるわね?”
そうなんだ…。
”でもそれは、一般のヴァンパイアの話。アタシ達みたいに力が強ければ普通に食事からエネルギーも得られるし、日光やらにも耐性があるの”
弱点なし?
”そうね…あるとすれば孤独くらいかしら”
寿命もないから?
”そういう事よ。一般のヴァンパイアってのは、稀に突然変異として人から生まれるの”
えー…。
”一人生まれれば、そいつに噛まれたやつが確率で復活してヴァンパイアになるの”
他は死んじゃうの?
”加減して吸えば死なせないし、増えたりもしないのに、加減しないバカなやつがいたのよ”
ひどいな…。
”そうね、そのせいでアタシ達は目をつけられた…”
ドラゴンに?
”ええ…無関係だと言っても聞いてもくれなくて、その間に雑魚なヴァンパイア共が眷属をどんどん増やしていったの”
それがドラゴン対ヴァンパイアの戦いの始まり?
”多分ね、ハッキリした原因をアタシは知らない。ちょっと力をつけた雑魚なヴァンパイアがドラゴンにケンカでも吹っ掛けたのかもしれないわね”
迷惑だなぁ…。
”本当よ…。それでアタシ達まで巻き込まれて…まぁ戦いを楽しんでた姉様もいたけど”
……怖い。
”もうみんな居ないけどね…”
それはごめん!
”いいのよ。予想はしてたし、もう諦めもついたわ”
そうなの?
”今はアリサ、貴女がいるもの”
そっか!
”ええ。だから傍にいなさい”
はーい。
こんな話を聞いたら一人になんて出来ないよ。
必要とされて悪い気はしないし。
その後は延々とアリスの個人的な話を聞かされた。
食べ物の好みとか、服の好みとか…。
頭がパンクする…。
”そろそろいいかしらね。痛みとか違和感はない?”
うーん…多分。
”曖昧ね、自分の事なのに”
そんなことを言われても…。身体があるのか無いのかもわかんない様な曖昧な感じだし。
”…長くアタシと一つになりすぎたかしら…。話し込みすぎたわね”
めっちゃ語ってたもんね?アリスクイズとかあったら満点取れそう。
”それは嬉しいわね。だったら怒らせるようなことしないでね…”
あ、あぁ…。すっごいプレッシャー。
ブラッドミストを解除するから。と、そう言われた直後に、ものすごい吐き気と頭痛でまた意識が飛んだ。
”影響が強すぎたかしら…激しかったものね。ふふっ、しばらくしたら落ち着くから。今は身体だけ起きていればいいわ。あいつらもそれで納得するでしょ”




