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ねことくま



「なぁ、マジでこれで接客すんのかよ…」

「イヤなら脱ぎますか?」

「いいのか!?」

「痴女ですか貴女は。そんな妹に育てた覚えはないのですが…」

脱ぐってそういう意味かよ! しかもお前に育てられた覚えもねぇよ!


「素っ裸で接客したくないのなら諦めなさい」

なんでだよ…。 猫耳に尻尾、ミニスカートのメイド服。

ゲームの開発者出てこい。シメてやる! 理乃姉が…



「おーやっぱり元が可愛いと似合うねー。じゃあお仕事の説明するね。 まず、必ず語尾はにゃんをつける事」

「わかりましたにゃん」

「ふざけんなよ…」

「んー?」

「わかったにゃん…」

「よろしい。 耳と尻尾は感情に連動して可動するから気をつけてね」

「無駄に高性能! 気をつけるって何をだよ?」

「んー?」

「…何を気をつけるんだよにゃん」

「まぁいいでしょう。 怒ったり感情が高ぶるとそうやって尻尾がぴーんっと立ちます。そうすると、どうなるかわかりますよね?」

自分の背後を指さされて初めて気がついた。腰に装備した尻尾が立つ。それはイコール、ミニスカートがめくれ上がるという事。


なにか? これは怒りをコントロールする修行でもかねてんの?

これはオレよりむしろうちの姉たちがするべき修行だろう。

「可愛らしいですね? クマさんですか」

「見るな!! そんなんしか手持ちにないんだよ…」

「はいはい! 語尾忘れてますよ。あまりに酷いと報酬減らしますからね」

そういうあんたはどうなんだよ。


「おーい、早く接客にはいってほしいにゃー」

「わかったにゃー!」

プロだったわ。


「そういう事ですので、よろしくおねがいするにゃん?」

「了解ですにゃ」

「お、おう…にゃ」

気が重い…そのくせスカートだけは軽い。やたら軽い。



お客は、ヤローばっかりかと思いきや、むしろ女の人のが多いくらいだった。

やっぱり可愛いもの好きなのか?

うちの姉達も、性格に似つかわしくないくらい可愛いもの好きだし…


「3番テーブルあがったにゃー」

「わ、わかったにゃ!」

ちっとも慣れねぇ…。


「キャー可愛いっ! 今日の娘はサービス多めよね!」

「うんうん。クマさん可愛いよー」

うるせぇよ!!


「こっちにもサービス? ありがとー!」

緊張とイライラで、ビンビンに立ちっぱなしなんだよ! 

なんか語弊がありそうだが今はどーでもいい。


「お、お待たせしたにゃ…オムライスのお客様はどっちにゃ?」

「私、私! ありがとー。君、新人だよね? 初めて見るし。 折角だからアレもお願いしていい?」

「は、はいにゃ…」

そう。このカフェ、もう一つサービスがあって、追加料金を払えば一緒に写真を撮れる。


さっきから配膳する場所、配膳する場所で写真を撮らされて、笑顔が張り付いて顔が引きつってきた。

「ぎにゃぁぁぁ!!」

「ふふっ…ここのしっぽすごいわよね? 握ると感じるでしょ?」

「いいなー私も私も!」

めちゃくちゃしやがるなコイツら…。


女同士だからか遠慮がない。

ヤローの客のが大人しいくらいだ。

しどろもどろで会話して、遠慮がちに写真を撮るだけなんだから。



「店員への過度の接触はお控えください。出禁にしますよ?」

「えー、尻尾や耳は装備品だしいいじゃんー」

「それでもです」

「…はーい。ごめんね? 写真ありがとー」

「は、はいにゃ…」

助かったにゃユリノ姉…。



「無防備過ぎますよ? そんな丸出しにして…誘ってるのですか?クソビッチなんですか?」

「そんなつもりはねぇにゃ…静まらねぇんだにゃー」

「どこでも、いつでもおっ立てて、恥ずかしくないのですか」

「にゃー…」

「あ、鎮まりましたね」

「にゃ!?」

「立ちました」

もう嫌にゃ…。


……………

…………

………

……



お昼前から夕方まで働き続け、ようやく休憩。

「も、もうむりにゃ…」

「どうぞ、賄いらしいですよ」

ユリノ姉に渡されたのは猫の形になったアイスが乗っかった小さなパフェ。


「甘いものがしみるにゃ…」

「語尾直らなくなってますよ?」

「にゃ…?」

「…いっそそのままでも私はかまいませんが」

数時間、緊張状態で働いてたら直らにゃくても仕方ないと思うにゃよ…。


「お疲れー。いやー今日の売上げ、ヤッバイわ! 君、このままうちで働かない?正社員…いえ、幹部待遇で雇うわよ!」

「にゃー?」

「多分無理かと…うちの子は気が強い風を装ってますが、根は繊細でおとなしい子なので。多分緊張の糸が切れたらしばらく使い物にならないと思います」

「そうなの? ざーんねん。でもまた気が向いたら来てね? あと、写真で稼いだお金はボーナスとして加算になるから、後で追加で渡すわね」

「ありがとうございます。 良かったですねレイア。今日貴女は大儲けしましたよ」

なんの話にゃ…。



お昼以上の混雑になった夜の部を乗り切り、仕事の完遂証明と、報酬を受け取る。

「レイアの稼ぎですよ。私の何倍稼いだのですか貴女は…フリフリと可愛さ振りまいて尻軽ビッチなのですか?」

「…………」

「本当にダメそうね。お疲れ様でした。ホント、スカウトしたいくらいだけど…」

「一応本人にも話してはみますが、期待はしないでください」

「それが良さそうね。今日はうちの店、開店以来最高の売り上げよ! ありがとう。ギルドにも報告しておくわ」

「ありがとうございます。 ほらレイア帰りますよ」

「にゃー…」

「というか、いい加減着替えなさい」

「いいよー、似合ってるし制服くらいあげる。 着て宣伝してくれたらありがたいし」

「はぁ…では失礼します」


ユリノ姉に手を引かれて、宿に戻ってきたのはなんとなく覚えてる。

「うわっ…レイアちゃんだったの!? 噂のめちゃめちゃ可愛い猫店員って」

「ええ…節操なくおっ立ててたせいで大人気ですよ」

「私とも写真とろうか〜?」

「写真は有料です」

「それはお店でしょう」

「はっ…私も抜けてませんね」

「にゃー?」

「かわいいわ〜。ほらおいでーおねーちゃんが美味しいご飯作ってあげるわよ〜」

「にゃー! ご飯!」

尻尾をフリフリとしながら餌付けされてるレイアを見て大きくため息をつくユリノ。


「まったく…私がいないとだめですねレイアは」

セリフとは裏腹にどこか嬉しそうなユリノ。



レイアが正気に戻ったのはそれから数時間後だった。

耳と尻尾をつけたままシャワーを浴びて、ぽけーっとしていたら突然我に返った。

「オレは…オレは何を…」

「ビンビンにおっ立てながら、愛想を振りまいてお金を稼いでましたよ?ボロ儲けですよ」

「お前の言い方トゲがすっげーな? タテガミヤマアラシかよ」

「…ふんっ。あっちにもこっちにも…節操なしですか! まったく…」

「やらせたのお前だろうがよ…」

「あそこまでやれなんて言ってませんよ! 一日中クマさん丸出しで何をしているのですか?」

「おい、ほんとやめろ…」


それから数日オレは宿に引きこもった。

例のボーナスとやらで、宿代には困らなかったようだが…。







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