アリスとアリサ
「ほら起きなさい。もう夜よ」
「夜に起きるのかよ…」
ほっぺをペチペチすんな。
「まだ馴染んでないのかしら…」
「ん?」
「こっちの話よ。ほら食事にするわよアリサ」
アリサ…? あぁオレの名前か。
「言葉遣いも直しなさい。女の子なのよ?」
「…わかった」
アリスに手を引かれて、連れて行かれたのは食堂らしき部屋。
黒と赤を基調とした部屋と家具はどこかホッとする。
あれ…オレってこんな趣味だったか…?
「アリサも普通の食事からエネルギーを得られるから食べなさい。血を吸うのに抵抗が無くても私が許さないから」
血を吸う? …あぁヴァンパイアだもんなオレら。
ドラゴンとの戦いに破れて、力を取り戻すために長い眠りについてたけど、最近ようやく力を取り戻して目覚めた。
アリスはオレの唯一の家族…? あれ…?
「座りなさいアリサ」
「は、はい」
少し広めのテーブルを挟んで向かい合って座る。
「ほら、早く並べなさい」
アリスにそう言われて、虚ろな目をしたメイド姿の人が並べてくれたのはステーキ。
美味そう!
「空腹なのはわかるけどはしたないわよ? マナーも忘れてしまったの?」
「…ごめん」
フォークをぶっ刺してがっつこうとしたら怒られた…。
仕方なく、ステーキをナイフで細かく切って、口に入れる。
…テーブルマナーとか知ってたっけ?まぁいいか。
「美味しい!」
「そう。よかったわ」
そう言って笑うアリスは優しい表情でオレを見てる。
「”オレ“じゃないでしょう?」
「はい…」
なんで心の声にまで叱られるんだ?
「一心同体だからよ?忘れたの?アタシ達は恋人でしょう?」
「そう…だったね…」
っ……頭が痛い…。何だ、この違和感は…。
「仕方ないわね…」
アリスは向かいの席を立つと、傍に来て後ろから抱きしめてきた。
「まだ起きたばかりだから仕方ないのよ。何日かしたら落ち着くわ」
「うん」
首にチクッとした痛みを感じた後は頭痛も治まって、食事もしっかり食べられてお腹いっぱい。
「食後の運動に少し出掛けるわよ」
「どこへ?」
「忘れているかもしれないから、力の使い方を教えてあげる」
「うん?」
アリスに手を引かれて、食堂の大きな窓からバルコニーへ出た。
夜風が涼しくて心地良い。
バサッと音がして振り向くとアリスの背中に黒い羽根が。
「アリサも」
「わ、わかった」
返事と同時にバサッと羽根が出たのがわかる。
無意識で出来るんだな。
「大丈夫そうね。ほら、いくわよ」
手を引かれて夜空へ。
思うように空を飛べる。
なんだこれ…楽しい!
「久しぶりなのよ?当然でしょう」
…久しぶり…?前にも飛んでたのか?
「ほら、アレが魔の国よ」
「夜景がすっごい!」
「でしょう?この景色があるから此処に住むことにしたのよ」
「アリスは先に起きてたのか?」
「…ええ。貴女より強いのよ?当たり前でしょう」
確かに…。数人しか居ない真祖だもんな。
「そうよ?アリサはそんなアタシの恋人なんだから胸を張りなさい」
「…うん」
全然恋人の実感なんて無いけど、一緒にいるのは嫌じゃないし、手を繋いで空を飛ぶのも心地良い。
「…今日はもう少し飛んだら帰りましょう。他の訓練は明日でいいわ」
夜間飛行を楽しんで、空が白み始める頃には飛び立ったバルコニーへ帰ってきた。
「魔の国の上空へは入ったらだめよ」
「そうなの?」
「天敵のドラゴンのテリトリーなの。私くらいの強さがないと偽装もできないからすぐにバレるわ」
それはダメだな。アリスならともかく、オレでは間違いなくヤられる。
オレじゃなくて私、私…違和感が…
「…そうよ?まぁ、一人で外出なんてさせないけどね」
特に行きたいところもないし、記憶も眠る前の大昔の物しかないしな。
「わかったよ」
「いい子ね。アリサはまだ日光への耐性がないから、昼間は外へ出ないようにしないと…」
「アリスは平気だもんね、羨ましい…」
「大丈夫よ、そのうちそっちも馴染むわ」
よくわからないけどアリスが言うのならそうなんだろう。
少し出かけてくるって言ったアリスに、棺型のベッドに入れられた。
妙に落ち着く…。
「大人しくしてなさいね」
「うん」
既に眠いし。
ーーー
ーー
ー
夢を見た。
ドラゴンとヴァンパイアの壮絶な戦い。
ヴァンパイアが人間を眷属にして、手駒として戦わせていたのだけど、一匹のドラゴンが大洪水を起こして地上の人達を全滅させた。
その結果、血の補給すらままならなくなったヴァンパイアは、一人、また一人と力尽きていった。
長い戦いの末、ドラゴンも残ったのは二体。まだ何処かにいるかもしれないけど、そこまでは始祖様もわからないそう。
こちらも残りの戦力は始祖様と、アタシを含む真祖の四人のみ。
「アリスは隠れて時を待て」
「でも始祖様!」
「こんな戦いで全滅したら意味がない! それにその怪我ではもう戦えんだろう」
「…はい…」
最終決戦を前に、アタシは眠りについた。
ヴァンパイアを途絶えさせないため、長い長い眠りに…。
ーーー
ーー
ー
「アリサ、帰ったわよ。起きなさい」
「…ん…?」
あれ?あの夢はなんだ?オレはアリサでアリスではないのに…夢の中ではアリスだった?
「…言ったでしょう?一心同体なの」
「でも、それじゃあ、あの時オレはどこにいたんだ?」
「言葉使いを直しなさいと何度言えばわかるの!」
「ごめんなさい…」
そんな怒らなくてもいいのに…。
「ごめんね、可愛いのにそんな言葉使いしてたらダメなのよ」
「はい…」
「貴女はアタシが早めに眠らせてたの。危なかったからね。起きた時に記憶の共有をしてあげたから自分の記憶とアタシの記憶が混ざっちゃったのよ」
そういう事ね。
「アリスはどこに行ってたの?」
「情報収集よ。今の世界情勢とかドラゴンの事とかね」
ドラゴン……?
「みんな引きこもってて動きが無いから安心していいわ」
「そっか…。 そういえばドラゴンとの戦いの原因って何だったの?」
「…アタシも詳しくは知らないわ。気がついた時には巻き込まれて戦乱の中にいたから…」
だから記憶の共有をしててもわかんないのか。
「…もう戦う気もないからいいのよ」
「そうなの?」
「雑魚は知らないけど、純血のヴァンパイアはもうアタシと貴女の二人しかいないのよ?ドラゴン達ものんびりしてるのならアタシたちだってのんびり過ごしても良いじゃない」
「そうだね」
原因もわからずに戦ってたのなら、またわざわざ戦う必要もない。
それに、またアリスが夢の中みたいなケガをしたらイヤだ。 ケガ…?ひどいケガ………。
「アリサ、こっち向きなさい」
「えっ…?」
「大丈夫。前より強くなったアタシはもうケガなんてしない。ね?」
「うん…」
「……それ、どこで手に入れたの?」
アリスが指差すのは首からかけているネックレス。
…どこだっけ?
「常につけておきなさい。いいわね?」
「う、うん…。でもなんで?」
「いいから!」
「わかったよ…」
時々アリスが怖い。
「ごめん、それはアリサの身を守ってくれるからよ。だから外したらだめよ」
「それならアリスが持ってて」
「嬉しいけど、アタシより弱いアリサがつけてる方がいいのよ。わかった?それに、その状態のならレアでもないのよ」
「…うん」
アリスの事も心配なのに。
「ふふっ、ありがとう。ほら、一緒にお風呂に入りましょう?」
「お風呂!!」
「ええ。行くわよ」
やった…!




