ダンジョンの住人
テント内でシノ姉が軽食を用意してくれて、腹ごしらえと休憩をした。
シノ姉は軽食だって言うし、作るのも早いけど…食べたのは、野菜たっぷりのかき揚げの挟まったライスバーガー。
普通は短時間で作れるものとちゃうやろコレ。相変わらずうちの姉は色々と規格外だな。
セーラは一緒に食べた後、またふらっと居なくなったけどどうなってんだ?
「ここはセーラのテリトリーですよ?行き来は自由でしょう」
それはそうかもやけど…。ノーラ達と違ってちっこいから動きやすいのか?
まぁでも、言うて最強のドラゴンだし、オレが心配してもしゃあないか。
気が向いたらまたふらっと現れるやろ。
テントを片付けて、いざボスの待ってるっぽい部屋へ。
大きな扉なのに大した抵抗もなく簡単に開いた。
中は相変わらず暗くてオレの暗視では全体を見渡せない。
ただ、また例の唸り声がしてるから、アンデッドがいるんだろうってのはわかる。
シノ姉が放った炎の矢が敵を貫きながら部屋を照らす。
「うわぁ…すっごい量」
「それな…」
ミミの呆れた声に同意。見えた範囲だけでもこの先ににひしめいてるし。
オレも弓を構えて、回復魔法を乗っけた矢を扇状に何度も放った。
「レイア、魔力は大丈夫ですか?」
「ああ。一番消費の少ない魔法を乗っけてるからな」
矢に至っては無限なのか減らねぇし…。魔力の続く限り撃てる。
”アタシの眷属達をよくもやってくれたわね“
突然前方からそんな声が聞こえた気がした。
ボスか?
……声だけで見えねぇ。
目を凝らしても、見える範囲にはミイラや骨ばっか。
一瞬、何か変な揺らぎ?みたいなのが見えたくらい。
次の瞬間、首筋に鋭い痛みを感じて、咄嗟にそこへ触れたけど何もなく…。
「レイア?」
「いや、なんか首を刺されたみてぇな、すっげー痛みが…」
「見せなさい!!」
弓を構えようとしてたのに、ものすごい剣幕のユリノ姉に無理矢理後方へ引きずり戻された。
「シノさん、レイアの為に少し時間を稼いでください!」
「え?えぇ〜…レイアちゃんは平気なの…?」
「……」
なんで無言なんだよ?
「これ、どう思いますか?」
「ん? って…これ、レイア!?大丈夫なの?」
「ユリノさん、これって…」
「アンデッドに噛まれたってコト?」
みんなでオレを押さえつけて見るなよ…。
「レイア身体におかしな事はありませんか?」
「ん?別に…一瞬すっげー痛かったけどな」
なんかちょっとダルい気もするけど、大したことはないし。
「加護があるので余程大丈夫だとは思いますが…大事をとって早くここを抜けたほうがいいかもしれません」
「流石にそっちの薬まで用意してなかったよ、ごめんねレイアちゃん」
なんの話だよ?変な虫にでも刺されたのかオレは…。
「どうしたのよ〜! というか、そろそろ手伝って!」
「皆さん後方へ! 大きいの撃ちます。敵が減ったら駆け抜けて出口を探してください!」
ユリノ姉はそう言うと、みんなが退避するのを待って、巨大な火の玉をぶっ放した。
大量にいたアンデッドもあら方消し飛んだ。
無茶するなぁ。
てか、最初からそれ使えば良かったんじゃ…?
あのサイズをぶっ放してもダンジョンに被害がないくらい広い。
天井も高いし、大きなホールくらいの広さがある。
アレだけやったのにまた敵が増えてるのかよ!
あれ…?なんでこんなにハッキリ見えてんだ?
ユリノ姉の放った火の玉はとっくに消えて、真っ暗なはずなのに。
”こっちへ来なさい“
そんな声が聞こえた気がしてフラフラと立ち上がったオレは、声のした方へ自分の意識とは関係なく歩いていく。
「前より増えてます! あのサイズの魔法を直ぐにもう一度は撃てません! 規模は小さくてもいいので、皆さんも魔法を使って倒してください。どの属性でもある程度はダメージが入りますから!」
ユリノ姉がみんなへ戦闘の指示を出してる声が聞こえるのに、身体が思うように動かない。
オレも戦わなきゃいけないのに…。
「ユナ姉、私にも魔法教えて!」
「うちに聞くなよ。リオもなんか使えねーのか? ステータス確認しろ!」
「リオ先輩、魔法を使おうと強く思えば使えるものがわかるはずです!」
「…ほんとだ! 私も炎魔法使えるのね」
「じゃあ早く撃ってください! さすがに数が多すぎます!」
周囲を敵に囲まれて、応戦するために魔法を放つ姉達。
フラフラと歩くオレを何故か敵が避けてくれるし、庇うように囲まれて、さっきまでみたいな敵意を感じない。
まだ近いはずの姉達の戦う声や音はやたら遠くに聞こえて、オレを呼ぶ声だけは耳元で囁かれてるのかってくらいにはっきり聞こえる。
”アタシの眷属、こっちへ早く来なさい“
あぁ…。
声に呼ばれるままフラフラと歩いて行ったら、抱きとめられた。
真っ黒なドレスに、黒い羽根。銀色の髪に赤い瞳。やたらスタイルのいいお姉さん?
誰だよ…。
「アンタが一番の驚異だったからアタシのモノにしたの。アタシが直々に吸血しなきゃいけないほどってどんなステータスしてるのよ」
「知らねぇよ…」
ノーラ達、ドラゴンの加護だっけ?それがあるからか?
「ドラゴンの加護!? これはとんでもない拾い物したわ! ほら、正式な契約するからこっち向きなさい」
「ん?」
無理矢理顔を掴まれて…
「むぐっ…」
「っ…ふぅ…直接の眷属化なんて初めてしたけど…悪くないわね」
こいつ何しやがった?なんか口の中が鉄の味する…。
「契約成立よ。アンタがいるのなら代わりの効く眷属たちは放置でいいわね…。時間稼ぎだけしててもらいましょう」
何を言ってんだ…?
フワッと抱きかかえられたオレは、バサバサって羽ばたく様な音を最後に気を失った。
次に目を覚ました時には、真っ黒な豪華なベッドに寝かされてて、妙に頭もスッキリしてた。
「起きたかしら?」
「ん…?誰だよお前」
「アタシは吸血鬼の真祖の一人、アリストロキア・ペティオラレよ。アリスと呼ぶことを許してあげるわ」
名前なっが! しかもややこしい。
アリスでいいなら楽だわ。
「…あれ?姉達は?」
「もうアンタの家族はアタシだけよ。わかったら返事は?」
「あ、あぁ…」
なんだ…?記憶が………。
「ほら、もう寝るわよ。直に日が昇るわ」
アリスに呼ばれるままベッドに入る。
なんか前にもこうやって誰かに抱きかかえられて寝たような…?
っ…頭痛い…。
「夜までには馴染むから。今は目を閉じて眠りなさい」
「わかった…」
言われた通りに目を閉じる。
撫ぜてくれる手がやたら冷たく感じて、心地良い。
「これでアタシももう一人ぼっちじゃないのね…」
微睡みの中そんな呟きだけが聞こえた。




