城を出たい
魔王城での一泊は、思った以上に落ち着かなかった。
だって、行方しれずだった魔王の末娘が帰ってきた、みたいになってて、城の人から完全に姫とかお嬢様扱いされるんだよ…。
着替えさえ自分ではさせてもらえなくて、メイドさんがやってくれるから気まずいし。
トドメとばかりに、あてがわれた部屋はバカ広いし、真ん中に大きなベッドがポツンと…。
いつか夢で見た、絶対使えないトイレみてぇ…。草原の真ん中にトイレだけあったんだよな。
まぁおかげであの時は漏らさずに済んだんだけど。
ベッドに入っても落ち着かないし、眠れない。
悩んだ末、部屋の隅っこへテントを設置して、その中でようやく落ち着いて眠れた。
一人であの広さはおかしいって。
翌朝、起こしに来たメイドさんにどちゃくそ叱られたけど…。
姫なのにお行儀が悪いとか、言葉遣いが悪いとか。そこは母親も同じじゃね?って言ったら、更に叱られて。
メイドさんってめっちゃ怖いのな?変な理想持ってる人には現実を見てもらいたい。
猫メイドカフェと違って、スカートは長いし、耳じゃなく角があるし、めちゃくちゃ怖いんだぞと。
寝起き早々から始まったお説教は、朝食もあるからと一時間程で終わり、朝食が済んだらとっとと城を出ようと城門へ行ったら門番に止められた。
なんで出たらダメなんだ?って揉めてたら城中が大騒ぎになった。
「お嬢様! どちらへ行かれるのですか!」
「だからお嬢様と違うって!」
「魔王様はお母様なのでは…?」
「うん、それはそうなんやけどな」
そこは否定したらあかんやろ。
ただ、そう答えたものだから余計に出られなくなって…。
なまじ髪や目の色までお母さん魔王と同じだから、抜け出したとしてもすぐにオレだと認識されるし、どうにもなんねぇのな。
已む無く、一緒に城門へ行ってたユリノ姉、シノ姉と部屋に戻ってきた。
「どうしましょうねぇ〜…」
「出かけるなら護衛をつけると言われましたからね」
「あの言い方は護衛というか、何処かへ行かないようにっていう監視やろ」
「でしょうね」
「いっそアクセサリーで別の街へ飛んじゃう〜?」
その手があった!
「無理です。城内はセキュリティの関係で転移系のマジックアイテムも魔法も使えません」
「なんでそんなとこだけしっかりしてんねん!」
「王族の住まう城ですよ?当然の処置かと」
そらそうやけど。 なら、どこも建物内からは飛べない、とかにしとけよ…。
無理にワープしたら天井に頭ぶつけたりするんやったら納得するわ。
「取り敢えず起きてから着せられたドレスだけでも脱いでいいか?」
「それはダメです」
「だめよ〜かわいいのに…」
なんっでやねん!
「このままじゃ外にも出られんやろ…」
目立ちすぎるだろこれ。
「おはよー。よかった、まだ城にいたね」
「ユナ姉おはよ! というか助けてくれ…」
「レイア可愛いね! お姉ちゃんによく見せて?」
いや、服はええねん。
「城から出られなくなったぞ」
「なんで?」
「魔王様のご息女が戻られた、しかもレイアは魔王様から全権を委ねられてますから…」
「お母さんはここまで見越してたのかしら〜…」
「マジかよ…」
「それはないと思うよ?お母さんは単にレイアに今までの分も何かしてあげたかっただけだからね」
悪意がないのがなお悪い。責められねぇじゃんそんなの…。
「あっ! あれは?レイアが船で見せてくれた姿隠すやつ」
「それだ!」
「…恐らく無駄かと。魔王城ですよ?それらも対策されているはずです」
そっちもかよ…。
いや、待てよ?
「なぁユリノ姉、それってこっちの仕様か?」
「はい?」
「だからさ、そういう城へのセキュリティはゲームとは違うのなら、姉達が持ってるゲーム側のアイテムですり抜けらんねぇかな?と」
「…レイア、貴女時々鋭いですね」
それ褒めてるか?
「じゃあうちらが持ってるアイテムで、ユリノが知らないものから使えそうなものを選ぶ?」
「そうですね」
「じゃあ私の出番ね〜」
そう言ったシノ姉は、意味のわからない量のアイテムを部屋に並べだした。
「シノ姉…うちが知らないものもたくさんあるんだけど?」
「私も多すぎてわけわかんないのよ〜…」
「この中から私が知ってるものを除外していけばいいのですね」
それで使えそうなものがあれば儲けものだけどな。
姉達が山のようなアクセサリーやらと格闘してる間、オレは何も手伝えなくて…。
窓を開けて城からの景色を眺めてた。
そういや、フォーラの姉のドラゴンもこの国にいるんだっけ?
国そのものが〜とかわけわかんねぇ事言ってたけど…。
「何してるの…?」
「景色見てる」
「気に入った…?」
「それはな〜。自然豊かだし、活気もあってみんな楽しそうにしてたからな」
「良かった。 貴女は何か困り事…?」
「オレの母親が魔王でな、城から出してもらえなくなっちまったんだよ…」
「王女なら当然…?」
「でもなぁ…ノーラとフォーラの姉に会いに行かなきゃなんねぇのに」
「うん…? ここにいるけど…?」
ん?
「……誰!?」
「会話してて今更…?」
あまりにもナチュラルに話しかけられたもんだから、普通に返事してた…。
窓枠に、真っ黒なちっこいドラゴンがちょこんと座ってた。
「もしかしてセーラ?」
「よく知ってるね…?ノーラかフォーラからきいた…?」
「あぁ。フォーラだな。魔の国に行くって言ったら会うかもしれないから失礼の無いようにって」
「へぇ…そうなんだ…?」
まさか本当に会いに来てくれるとは思わなくてびっくりしたけどな。
「フォーラに魔の国その物がセーラだって聞いたんだけど…」
「あってる…?」
いやオレに聞かれても…。
「これ、仮の姿…?」
あ、そういう語尾なのな?
「じゃあ本体は、危険のない場所にいるとかか?」
「貴女も私の上にいるよ…?」
踏んでるのかと思って思わず足元を見た。
普通に城の床だよな?
「そこじゃない…?」
「まさか国そのものって…この大陸?」
「あたり…?」
規模でかすぎやろ。
セーラが言うには、寝てる間に背中に国ができてしまったから動けなくなったらしい。
どんだけ寝てんねん! と思ったけど、ノーラも眠いから二百年寝るとか昼寝感覚で言ってたもんな。
それだけあれば国もできるわ。
どう考えてもノーラよりおっとりしてるセーラがそれより短い睡眠だとは思えない。
「動いたら国がなくなる…?」
「それはそうやろなぁ。天変地異だろ、それはもう」
「だから動きたい時はこの身体…?」
「なるほどなぁ。やっぱりドラゴンすげー! 壊さないようにって考えてくれてるセーラは優しいしな」
「ふふ…初めて言われた…?」
セーラにも世界の渡り方を聞いたんだけど、知らないって言われた。
仮の身体で動けるのもこの魔の国に限られるから、外のことはわからないって。
「代わりに私からもプレゼント…?」
そう言って突然顔に飛びついてきたものだから、後ろへ派手にコケた。
「なにすんだよ…」
また頭の中になにか通知が出たけど聞き取れなかった。
「レイア!? って、またドラゴンですか…」
「ちっちゃいわね〜」
「こら、レイアから離れろ」
「断る…?」
ほっといたらユナ姉が攻撃しかねないから、詳しい話をしておく。
「流石に規模が大きすぎて意味わかんない」
「じゃあ魔の国は浮島なのかしら〜」
「脚ついてるから違う…?」
この大陸の広さが背中なら海底に脚くらいつくよなぁ。
「そういや、使えそうなアイテムってあったのか?」
「いいえ…殆どが私の知っているものでした。知らなかったのは今回の船のアイテムくらいです」
あぁ、イベントのな。
「どうしても城から出たいのなら運んであげる…?」
「いいのか?」
「いいよ…?すぐにいく…?」
「レイア待って! リオ置いていけないから、来るまで待たないと」
確かにユナ姉の言う通りだな。
お母さんは魔王だからいいだろうけど、姫と間違われてたリオ姉は置いていったら…。
うん、出られねぇわ。
姉達にセーラもとられて、話し相手がいなくなっちまった…。
この国の成り立ちや、ダンジョンについてだったり、難しい話ばっかりしてるし。
お昼はオレが和食好きだと知ったからか、豪華な懐石料理を出してもらった。
昼食だからと呼びに来た角のおっさんはこの国の執政らしく、うちのお母さん魔王が留守の間を預かってるって。
角のおっさんには昨日の国庫でのオレの機転をものすごい感謝された。
お母さんが契約書類で魔の国をオレに委ねたから、魔王が留守の間はオレに全権があると言われてもやな?
「国の事はわかんねぇし、今まで通り任せていいか?」
「はっ、お任せください」
すまねぇな…お母さんといいオレといい、丸投げしちまって。
でも何もわかんねぇオレが何かやらかすよりいいだろ。
このおっさん、悪い人には見えねえし。
何度も人質にされたりしたからな、腹に一物抱えてて、なんかくだらねぇ事を企んでるようなやつはわかんだよ。
このおっさんはどっちかって言うと、心労で腹が痛いとかそっち。
治癒かけたら泣いて喜ばれた。
なんか本当すまねぇ…。
無理に城を抜け出したらまたこの人にダメージが。そう考えたら無理矢理城を脱出するのは辞めよう、そう思った。
「レイアがそう思うのなら私はそれに従います」
「ありがとな」
頼もしい相棒だよほんと。 そう言うと、そうでしょう?っていうんだぜ。
「………」
先手打ったから黙るユリノ姉とかちょっとウケる。
いってぇな! 無言で抓るな!




