本社
理乃side
はぁ…。なんで私が…。
ううん、理由はわかってる。ジャンケンに負けたからだよね。
「会うのはいつぶりかな」
「零が生まれた時だろ…」
嬉しそうなお父さんとは反対にお母さんは苦々しげな顔。
「そうだったね、こっそり会いに来たんだっけ」
「あぁ。私が出産直後で動けないのをいい事に、そのまま零と京を連れて帰ろうとしやがったからな」
そんな事があったの!?私知らないんだけど…。
でも零が生まれた時って言うと、私も精々二歳とかだから無理もないか。
そもそもお父さんの姉なんて存在すら知らなかったし。
お父さんはお母さんが怒るからと言ってたけど…。
まぁ、それに関してはよーくわかった。
本社へ向かう電車の中で、既にお母さんからの不機嫌な圧が凄い。
おかげで私達の乗ってる車両だけ空いてて楽なのは有り難いんだけどね。
稀に鈍い人が乗ってきて不思議そうにしてる。
危機感ないの?って心配になる。
偶に居るんだよね、パッと見てヤバいってわかる相手に気が付かない人。
今のうちのお母さんになんて正にそれなのに。
隣でニコニコしてるお父さんは鈍いのかキモが座ってるのか…違うか、アレは慣れだね。多分。
うちから都心は少し離れてるから電車で一時間ほど揺られた。
こっちへは私も休みに友達とくるくらい。
都会だから当然ショップは充実してるし。服もいいものが売ってる。
駅には迎えが来てるとお父さんが言うから、タクシーかな?って思ってたら甘かった…。
黒塗りの長ーい高級車が二台。リムジンだっけ? 前後には更に二台。
「京様、お迎えに上がりました」
「ありがとう。世話をかけちゃったね」
「いえ、杏奈会長と凛奈社長がお待ちです」
「お二人はこちらへ…」
「あぁ!?なんで同じ車じゃねぇんだよ?」
「お母さん、ここ駅だから! 騒ぐと目立つ」
盛大に舌打ちしたお母さんと、お父さんとは別の車へ乗り込む。
既に駅のロータリーでめちゃくちゃに目立ってるんだから!
前後の車はなに?まさか先導車とか…。
なんなのこれ、何処かの要人の車列!?
そうツッコみたくなるくらい意味がわからない。
車内にはテーブルがあり、飲み物から、お菓子やフルーツまで用意されてた。
「理乃。食べるなよ」
「え?」
「何を入れられてるかわからねぇからな」
伸ばしかけていた手を引っ込める。 怖っ…。
「お母さん、お父さんの姉って…」
「…クインティリオンってのはな、スマホやパソコンなどの電子機器と家電を扱う国内トップシェアのメーカーだ」
「知らないんだけど…」
「お前たちにはそのメーカーのものは与えてねぇからな。うちにもひとつもなかった。零があのゲーム機を持ち帰るまではな…」
「あぁ…」
お母さんにとっては避けたいメーカーって事ね。
それにしてもそんな有名なメーカーを私が知らないなんてある?
「スマホやパソコンはKyo、家電はKey…と言えばわかるか?」
「それは知ってる! え…ジャンルでメーカー名が違うの?」
「そういう事だ。まさかあのゲームが同じ会社だとは私も初めは気が付かなかったくらいだからな」
急にややこしくなったもんね、名前。
言われたら確かにまんまだ。気にしたことがなかったよ。全部お父さん由来なのはもう…。
お母さんもまさかと思って調べたらしい。
「零と詩乃まで私から奪いやがって…」
「まで…?」
「…なんでもない。気にするな」
めっちゃ気になるんだけど!
お母さんから会社の話を聞いていたら、大きなビルの地下に車は入っていった。
「さて…落とし前つけてもらおうか…」
お母さんヤル気満々じゃん!
地下駐車場に止まる四台の車。
外からドアを開けてもらえたから降り…
「お前ら…!!」
先に降りたお母さんの怒声にビクってする。ホント怖い…。
何事かと覗き込んだら、前の車に乗ってたお父さんが、色っぽいお姉さんに抱きかかえられてた。
誰…!?
いや、めっちゃテレビで見たことある!
セレブな美人姉妹…。まさかの親戚だったとは。
こんな有名人とあまり関わりたくはないけど。
「泥棒猫じゃない。よくここに足を踏み入れたわね」
「生きて帰れると思ってるのかしらぁ…」
「あぁ? ビルごと潰してやろうか?」
お母さんならできそうなのがなんとも…。
「麻乃、今はケンカしてる場合じゃない。姉さん達も頼むよ…」
「チッ」
「冗談よ」
「ええ、軽い挨拶よぉ」
嘘だ…あの目はマジだった。
お母さん相手に引かないあの二人がお父さんの…。 怖っ…。
お父さんの姉なのに、お姉さんにしか見えないのはもう家系なのか、お金の力か。
両方だろうなぁ…。
しっかりと私も挨拶したのだけど、鼻で笑われてイラッとした。
私はお母さんに似てるから?別にいいけどね。
媚を売るつもりなんてないし。零と詩乃姉のことがきけたらそれでいい。
案内されたのはビルの最上階。
会社というよりは一流ホテルのスイートルームと言われたほうが納得する、そんな豪華な部屋。
唯一違うのは執務テーブルがあるくらいかな。
「それで京くんは何を聞きたいのぉ?」
「お姉ちゃんにわかることなら何でも教えてあげるわよ?」
「メールでも書いた通りなんだけど…零に続き長女の詩乃まで消えたんだ」
お父さんは詳しい話をしていく。
私もゲーム内で見てきた事を話すようにお父さんに言われたから、一通り説明。
「零ちゃんの事は連絡をもらってすぐに調べたけどぉ、そもそもアカウントがなかったわよぉ?」
アカウントがない…? あっ!
「零は、彼女…坂城美緒っていう子のサブアカウントのままゲームを始めてます」
「…彼女ぉ?」
「零ちゃんに…」
あれ、私なんか踏み抜いた!?
零に彼女ができたとバレた時の由乃姉と、詩乃姉みたいな雰囲気…。
「すぐに調べてぇ?坂城美緒。経歴、家族構成、アカウントも全てよぉ」
電話で指示を出してる…。
ごめん、美緒…とんでもない人達に売ってしまったかも。
「杏奈姉さん、あまり無茶をしないでよ?零の友達なんだから」
「わかってるわよぉ。でも調べないとわからないでしょぉ?」
美緒の個人情報はいらなくない?
5分もせずに二人の端末に情報が来たらしく、お父さんに説明してる。
「確かにサブアカウントはあるけど、ログインはしてないわね」
「昨日の夜まではログインしてたみたいよぉ…詩乃も全く同じ時間までログインしてたわねぇ」
え…?
「私の記録もわかりますか?」
「貴女は二人の数分後まで。由乃は二時間くらい前までね」
どういう事?
由乃姉はたしかに先に落ちてたし、私も由乃姉に呼ばれるまでログインしてた。
零と詩乃姉は、停電のタイミングでログアウトしたって事!?
でも由乃姉の話ではゲームの電源は入ったままだったって…。
「そもそも、レイアっていう名前のプレイヤーがいないのよ」
「美緒って娘のサブアカウントでログインしたのは確認できたけどぉ、少し後にゲーム内のデータがぷっつり途切れてるのよねぇ。なのにログインだけは昨夜まで維持されてたわぁ」
もう何がなんだか…。
私も知りうる限りを伝えたけど、二人とも悩んでる。
ゲームに内蔵バッテリーはあるけど、精々設定の維持のためのもので、ゲームそのものを起動したままに出来る程の電力はないそう。
ならなんで…?
「確かに雷による停電のタイミングとログアウトの時間は同じね」
「何故か貴女はログアウトしてないわねぇ…」
この二人に集まる情報早すぎない?どうなってるのこの会社。
と言うか、うちの家の情報は筒抜けだったんだろうなぁ…。
「使えねぇ…結局何もわかんねぇんじゃねぇか! わざわざ京を呼びつけてこれか?」
「…魔王のマノ、ゲーム内に混乱をもたらした張本人。アカウントを永久停止しましょうか?」
「そうなったら会えないわよねぇ…レイアちゃんに」
「…テメェ!」
汚い! 大人のやり方汚い!!
「姉さん、それはあんまりだよ。麻乃がどれだけ心配してると思ってるんだい?そんな酷い事をする姉さん達は嫌いだよ」
「ち、違うのよぉ?私達だって全力で調べてるの! それでもわからないのにあんな言い方されたからぁ」
「そうよ。どれだけ時間をかけてると思うのよ。可愛い零ちゃんの為だから私達だって全力だわ」
まさかこの二人にも零は狙われてたの?流石にないよね?甥っ子だよ?
…弟にマジになってる私達が言えることじゃないか…。
お父さんをお母さんに取られたから零を…?嘘だよね?
甥っ子として心配してると思いたい。
結局わかったのは、零はログイン後、しばらくしたら既にゲームにはいなかったって事と、そのログインも詩乃姉共々、雷と同時にログアウトしてしまっている。
全員、停電したにも関わらず、ゲームの電源が落ちなかったのに…。
これは誰にも原因はわからない。
レイアのいる世界の影響を受けているのでは?っていうお父さんの説くらいしか有力なものはない。
ここまで来たのにほぼ新しい情報はないまま…。
姉二人が、お父さんに会いたかっただけでは?って思えてくる。
お母さんも同じようで、今にもキレそう。
それでも耐えてるのはゲームのアカウントを握られてるからかな。
「またゲーム内に混乱を持ち込んだら対処するから」
「そうよぉ?楽しく遊んでる子達に迷惑かけないでねぇ?」
「…そもそもお前たちのゲームが原因だろう?京の”初めて“まで奪ったくせに、零と詩乃まで!」
今なにか聞き捨てならないセリフが…。
「なんの事かしらぁ?」
「しらばっくれる気か?」
「…ゲームに関してはこっちの責任だから、継続して調べていくわ。何かわかれば京に連絡します」
「助かるよ凛奈姉さん」
「いいのよ。同じ事が起きないとも限らないのだから…調べるのは当然よ」
今はまだ被害は身内だけだもんね、私はこんなセレブが身内にいたなんて知らなかったけども…。
ゲームによる不測の事故扱いで、保証として多額の小切手を渡されたお母さんは受け取らなかった。
お父さんにはそれも含めて無理矢理渡してたし、私ももらった。詩乃姉、由乃姉、零と美緒の分も預かった。
金額がおかしいのはもう気にしない…。だってこんなでかい会社だもんね。
たださ、零のだけさらに桁がおかしいのは何なの?
この二人にも気をつけないと…。
由乃姉と詩乃姉にも教えておこう。




