こっちにもいたやべー姉
「レイア、起きてください。今日も仕事ですよ」
「んー…そうだな。宿代稼がないと、詩乃姉のご飯食べられなくなるしな」
「詩乃姉って誰ですか…」
「あー…いや。シノンさんのご飯だな」
「私がどうかした?」
「「………」」
なんでシノンさんが、オレのベッドから出てきた?
「レイア…まさか貴女」
「違う違う! 何も知らん。オレもびっくりしてんのは見たらわかるやろ!」
「…確かに。 シノン、何をしていたのか吐きなさい、今すぐ!」
「お前に私の名前を呼ぶことを許可した覚えはないんだけど?」
朝からヤバいぞこれ…。
前に由乃姉と詩乃姉がケンカした時は部屋が廃墟同然になった。
オレの部屋がだ。
あの時と同じ空気。
止めないと宿屋が…。
「シノンさん。今朝の朝食はなんですか?」
「え? 今日は焼き魚と卵焼きだよ〜!」
「美味しそうです! 早く食べたいなー」
「そう? 待っててねすぐに仕度するから!」
そう言うと上機嫌で部屋を出ていった。
「なんで止めたんですか…」
「二人がケンカしたら宿がなくなるだろうが! 泊まる場所がなくなったら困るだろ」
「それはそうですが…つけるべきケジメというものがですね?」
「なんのケジメだ。そもそもユリノ姉が怒ってる理由はなんだよ?」
「……もういいです。その代わり撫ぜてください。それで忘れます」
めんどくせぇが、宿が無くなるよかましか…。
ユリノ姉の気が済むまで撫ぜてたら禿げそうだけど大丈夫か?
本人は満足そうだからいいけどよ…。
朝食を食べたオレたちは今日もハンターズギルドへ顔を出した。
街の中で済みそうな依頼をユリノ姉が見繕ってくれて、受付をするために並んでたら、いつも受付をしてくれるお姉さんよりちょっと豪華な上着を着た女の人に声をかけられた。
「レイア様ですよね? 少々確認したい事がありますので、別室へお願い致します。依頼の受け付けもそちらで承ります」
なんだ? オレなんかやっちまったか?
ユリノ姉に目配せするも、わからないと訴えてくる。
ついていくしかないか…。
また面倒事じゃねぇよな?
案内されたのは明らかに大切な客でももてなす様な豪華な部屋。
そこで待つように言われてソファーに座る。
なんやこれ…。誰か説明してくれよ!
「レイア、何処かで権力者にケンカでも売りました?」
「なんでオレが原因だと言い切るんだよ」
「私には身に覚えがないからです」
「オレだって無ぇわ!」
そもそも常に一緒にいるだろうが…。風呂やトイレ以外はだけど。
仮にそのスキに出かけたとして、そんな短時間で何が出来るつーのか。
待つこと数分。
さっきの人より更に豪華な上着を着た女の人が部屋にやってきた。
服でランク付けでもしてンのかこのゲームは…。
それとも何か? 貴族とかそういうやつ?
「ご挨拶が遅れました。ハンターズギルド、ギルドマスターのクレイシスと申します」
ギルドマスターってアレだよな? ここの、トップ…
「ユリノ姉、何したんだ?」
「私ではありません! レイアこそ…」
「何やら誤解があるようなので、ご説明させていただきますね」
聞こえてたか…。
「まずはお礼を…。いつもギルドに多額のお預け入れをして頂き、感謝しております。お陰で投資などに回すお金が増えたので、堅実な運営ができております」
は? ギルドに金なんて預けた覚えもないし、そもそも投資とかの話を初めて聞いたぞ?
ユリノ姉も首を傾げてるから知らないんだろうな。
「人違いでは?」
「またまたご冗談を…」
「いや、なんの話か全くわからんのだけど!?」
「…でしたら、コチラにギルドタグを載せていただけますか? もし本当に人違いでしたら大変なことですから」
人違いだろ。 その日暮しの金しかないオレ達の訳がねぇ。
見慣れない変な板みたいな物に、首から外したタグを乗せる。
「間違いありませんね。からかわれるとはお人が悪いですよ」
からかわれてる気分なのはこっちなんだが?
「あの、それの詳細か何かを見せて頂く事はできますか?」
「勿論です。すぐに明細を持ってまいります。 利子もすごい事になっていますから、一度ご確認してください。そのためにお呼びしましたから」
ユリノ姉が上手く誘導してくれて助かったけど、本当に身に覚えがない…。
誰かがオレの名前を勝手に使ったかとも思ったが、そもそもこっちに知り合いなんて…いたわ。
最近知り合った、名前も知らない女の子。
だけど、オレはオンラインにいるのかもわからんし、お互いキャラの名前も知らない。
「不可能だな…」
「言いなさい。何処で稼いだのですか? まさか私に内緒でパパ活でもしてるのですか?」
「してねぇよ! なんでそっち方向なんだよ!」
「レイアが持ってるのなんてその可愛さくらいのものでしょう!」
「他にもあるだろうが!」
「何があります? 言ってみてください」
「…えっと…弓の腕とか?」
「一度使っただけですよね、それ」
「それだ!」
「あぁ、例の姫様ですか…お礼にって事ですかね? 律儀な方もいたものです。名も名乗らない無礼者に…」
「うるせぇよ…」
あん時は名前もわかってなかったんだから仕方ねぇだろうが。
ん?そうなると無理じゃねぇか?
「お待たせいたしました。コチラです」
部屋に戻ってきたマスターから受け取った明細書を、ユリノ姉と見てみるも、全くわからん。
ゼロがいっぱいあるって事くらいだな。
「レイア、詩乃とは誰ですか? その方が貴女に送金しているようですが…」
「は? 詩乃姉が!?」
詩乃姉なら確かに”私達の将来のためにお金を稼いで貯金してるから〜”とか言ってたから、それが本当なら貯金してたんだろうけど、なんでよりにもよってゲームの世界に貯金してんだよ。
意味がわかんねぇよ。
「毎月、必ず送金されてきていたのは、お姉様からだったのですね」
「詩乃は確かに姉だけど…」
何が何やら理解がおっつかねぇ。
ユリノ姉は”パパ活じゃなくて姉活ですか…”とか意味のわからんことを言ってるし。
「どうされますか? 利子だけでも普通口座に移されます? そちらからなら、どこのギルドでも引き出す事ができますが…」
「お願いします。利子以外はそのまま預けておきますから、利子は毎月普通口座へお願いします」
おい、何を勝手に…。
どうすんだよ、もし人違いだったら。
オレのそんな心配をよそに書類は作られ…ユリノ姉からの無言の圧力でサインをさせられた。
…由乃姉の見た目は卑怯だろ。
「これで書類は完成です。これからもギルド貯金をご贔屓に。これは粗品です」
渡されたのは金魚みたいな大きなぬいぐるみ。
なんやこれ…。
書類手続きをしてくるとマスターは部屋を出ていった。
代わりに依頼の手続きをする人を呼んでくれるらしい。
「抱えてると可愛らしいですね。これで言葉遣いが直れば…」
うるせぇ!!
思わずぬいぐるみを床に叩きつける。
「ひどい…可哀想に」
「何のつもりだよ?」
「なにがです?」
「さっきの貯金や利子の話だ! 身に覚えがないのに、勝手な事していいのかよ!」
「お姉様からの送金なのでしょう。何が問題なのです?」
そうだけど、そうじゃねぇんだ…。なんて説明したらいい?
リアルにいる詩乃姉がゲーム内のオレのために送金してくれたって?
頭おかしいと思われるな。確実に。
あぁもう、どうしろっていうんだよ!
「どうしてもという緊急の場合しか手を付けません。ですからこれからも毎日仕事ですよ」
「…そういう事ならわかった」
「レイアは私をどう思ってるんです?」
「クソやべぇ姉その四」
「いいでしょう。少し話しましょうか。そもそもなんですかその四って!」
話し(肉体言語)ってやつだよな?
「いや、オレはもう話すことは無いっていうか…」
「では私の話を聞いてください」
一方的な話し(物理)は間に合って…
「ぎゃぁぁぁ…やめっ…たすけ…」
ーーーーー
ーーーー
ーーー
「…キライ。ユリノ姉なんて大っキライ…」
「すみません。やり過ぎました。ちょっと楽しくなってしまって」
「………」
うちのリアル姉みたいに暴力じゃないだけマシだけど、擽られまくった挙げ句、服の袖を縛られて手が出せねぇ…。
しかも金魚のぬいぐるみは取り上げられた…。触り心地は良かったのに。
「あのー依頼の手続き致しましょうか…?」
ユリノ姉にオモチャにされてた間にギルドの人が来てたらしい。
「ではこちらの依頼をお願いします」
コイツ何事もなかったかのように話しを進めやがった!
「カフェの手伝いですね。制服等は貸し出しが有るそうなのでそのまま向かってください」
「わかりました」
手続きを済ませてギルドを出る。
「なぁ、そのカフェってどんな店だ? 何が美味い?」
「行ってからのお楽しみです」
あ? まぁいいけど。
到着したのは、絶対オレが入らないような店。
「従業員は裏手から入るようにとの事ですから、裏に行きますよ」
「おい、待てよ! このカフェ、マトモじゃねぇよな!?」
「なんの話ですか。仕事に貴賤はありませんよ」
「オレが言いたいのはそういう事じゃねぇってわかんだろうが!」
「引きずられて入るか自分で入るか選びなさい」
「……入るけどさ」
もうこの姉ホント怖い。
「ギルドから派遣されてきました」
「おー? また可愛い子が二人も! これはありがたいよ。今日、体調崩して一人休みになって困ってたのよー」
「仕事ですから。ですよね? レイア」
「お、おう…」
「じゃあ、これ制服ね! 着替えたら説明するから」
手渡されたのは…だよな? 表にデカデカと看板出てたし。
どこのバカヤローだよ、こういうの思いつくのは!
「早く着替えますよ。それとも着せてあげましょうか?」
「やめっ…引っ張るな! 着替えるから!」
はぁ…