異常事態 後編
「あのお父さんがねー…」
「理乃。そっちはどうだった?」
「こっちは特に何もなし。レイアはミミとゲームしてたし、シノ姉もユリノとのんびりしてた」
「そうか…シノ姉には言ったのか?」
「まさか。言うにしても実際に見たユナ姉も一緒の時がいいと思って。取り敢えず確認だけして戻ってきたよ」
「ミミも無事だったんだな」
「うん。停電した地域にミミの家は含まれてなかったしね」
そこまで調べてたのか。有能かよ…。
「それより二人は?まさかこの雨の中外に?」
「お母さんが追いかけたならすぐ捕まえるだろうけどな」
方向音痴なのに、お父さんとか、うちら子供だけは的確に見つけるんだよなお母さんって。
理乃と、両親を探しに行こうかどうしようかと相談してたら、玄関の方からお母さんの大きな声がきこえてホッとした。
帰ってきたんだ。良かった…。
「疑ったのは悪かった! 謝るから! 何も言わずに出ていかないでくれ…頼むから…」
え?お父さんが出ていく!?
うちは理乃と顔を見合わせると慌てて玄関へ向かった。
「別に出ていこうとしてた訳じゃない。疑われたのはショックだったけどね…。僕にできる事をしようと思っただけだよ」
「どこへ行くのか教えてくれ…頼むから置いて行かないでくれ!」
「言うと麻乃は怒るだろう? 姉の所だよ」
「…なんでアイツらのところに!」
「ほら、そうなるだろう?」
何?どういう事…?
と言うかお父さんに姉がいたなんて初耳!
理乃を見ると首を振ってるから、うちと同じで知らなかったらしい。
「お父さん、姉って…何で今?」
「麻乃が嫌がるからね、黙ってたんだ。 みんなが遊んでるゲームあるだろう?」
「VRの?」
「そう、その本体とゲームの販売元、名前を知ってるかな?」
なんだっけ…?
「えっと…確か、クインティリオンだっけ?」
「そう。姉の経営する会社なんだ」
「…自分の会社に、弟の名前を入れる頭のおかしい姉だ! くそっ…」
ちょっと待って。
え?まさか、うちらが遊んでるゲームの販売元がお父さんのお姉さんの会社!?
「京の姉はな?弟が好き過ぎなんだ。それでな、私に奪われた腹いせに会社に弟の名前を入れたんだ」
うっ…なんか他人事に思えない。
お父さんには姉が二人いて、その二人が経営してるのがクインティリオン。
大好きな弟をうちのお母さんに奪われたから、会社に京どころか百京なんて名前をつけたと…。
「零が消えてしまってから連絡したのだけどね、直接会いに来なければ情報は渡さないって言われていたんだ」
「行かせるかよ! あんな奴らのところへ! 何されるかわからんのに!」
「でも、零や詩乃を助け出せる情報がもらえるかもしれないんだよ?」
「…くっ! そもそも連絡はしない約束だっただろう! それを私に内緒で!」
「状況が状況だから仕方ないじゃないか」
うちも理乃も他人事と思えないし、口も挟めない。
お母さんには悪いけど、どちらかと言ったらお父さんのお姉さんに感情移入してしまう…。
「と、取り敢えず二人はお風呂に入ったら?いくら季節的に寒くなくても、雨で濡れたままは風邪ひくよ」
「あぁ…そうだな。 京いくぞ」
お父さんは拒否権もなく連れて行かれた。
「由乃姉…」
「何も言うな」
血は争えないってやつか、これ…。
それなのにお母さんは、よくうちらの零くんへの想いを止めなかったな。
違うか、身近にいて慣れてたから?わからねー…。
お風呂から出た二人はしばらく揉めてたけど、零くんと詩乃姉の為だからってお母さんが諦めた。
本当に渋々だったけど。
「行く時はついて行くからな?」
「ケンカしないでくれよ?また大騒ぎになるのはごめんだからね」
「……」
無理だろうなぁ…。
言うなればあれだろ?
零くんを美緒に取られて、美緒が零くんの子供を…
「由乃姉、想像するのやめなよ。心が死ぬよ」
「だな…」
理乃も同じこと考えたんだろうってのは顔を見たらわかる。
お父さん達は、明日店を休みにしてクインティリオン本社に行くって。
うちらもどっちか来いってお母さんに言われて、ジャンケン。
負けた理乃が同行する。
すでに臨戦態勢でヤル気満々のお母さんが怖すぎて、うちは理乃に心の中で手を合わせておいた。
うちはその間にシノ姉に話をしないと。
ただ、そっちに関しては心配してない。
だってうちがシノ姉の立場なら大喜びしてるもん。
むしろ変わってくれって思ってるくらいだ。
朝イチで都心にある本社へ行く三人は、移動距離も長くなるからもう休んだ。
うちはシノ姉に話をするためにログイン。
停電で起きた事や、お父さんの姉の話をしたのだけど、身体か消えてログアウトできなくなったって話については予想通りの反応だった。
「これで私はずっとレイアちゃんといられるのね〜やったわ〜!」
「レイアには話すのか?」
「…心配かけちゃうし今は止めておくわ。 理由もわからないし〜…」
「それは、印のせいでは? 薄くなったとはいえまだありますよね?」
ユリノに言われて確認すると、確かに薄っすらとだが残ってる。
「でもリオは?あいつもつけてもらってたよな?」
「シノさんについては、食事のお礼っていう想いが強くかかっていたからではないでしょうか」
「確かにリオは、半ば強引につけさせてた…」
「ええ。しかもログアウト出来ないかの確認もしてませんでしたし」
実際にうちが呼び戻した時に理乃は普通にログアウトしてきてるからな…。
「じゃあ何か?レイアが進んで何かしら強い想いを込めて印を付けてくれて、ログアウトできない状態で停電すればいいのか?」
「そちらの事情はわかりませんから…」
「でもユナ〜?ゲームはついてたのよね?」
そう言われたらそうだ…。もうわかんねー…。
一瞬切れてたのかもしれないけど、確認もできない。
「難しく考えると頭痛がおきるかもしれませんから、今はわからないままで仕方ないかと」
ユリノはそれで倒れたんだっけか。レイアもストレスと頭痛で気を失ってたし。
結局、何もわからないまま…。
シノ姉の身体が消え、レイアのいる世界へ行ってしまったのではないかという事実だけ。
後は、理乃が情報を持ち帰るのを待つしかない。
お父さんの姉の会社から無事にもどったら…だけど。
当然シノ姉も、お父さんの姉の存在は初耳らしい。
「お父さんのお姉様がね〜…他人事に思えないわね…」
だよな…。
「私はそろそろレイアちゃんに眠るよう言ってくるわ〜流石にずっとゲームはやり過ぎよ〜…」
それ、うちらにもブーメラン…。
シノ姉にはもう当てはまらないかもだけど。
オプションも開けず、ログアウトもできなくなり、フレンド機能も使えなくなったそうだし。
見失わないよう気をつけないと…。
ほんと悔しい! 代わってよ!
レイアを寝かせに行っただけの筈なのに、なんかドタバタとしてると思ったら…。
ちっともゲームを止めないレイアにシノ姉がキレそうになって、逃げ出したレイアは部屋へ駆け込んだらしい。
そこまでは良かったんだ。
翌朝、レイアの寝顔を堪能した後、起こそうかと部屋に行ったら…
「なんでミミは見た目が美緒になってて、レイアと一夜を共にしてんだよ!! 何したんだ!!」
「別に何もしてねぇよ…シノ姉に怒られそうになって慌ててたから」
「私をベッドへ連れ込んですぐに寝ちゃったレイアちゃんの寝顔、凄く可愛かったです」
騒ぎを聞きつけたシノ姉とユリノも合流。
「「「ーーーーー!!!!!」」」
照れたように勝ち誇る、美緒の姿になったミミにうちらは我慢の限界。
そもそもなんで姿かえたんだよ!
「それは、レイアがそっちのが可愛かったといったからですね」
「レイア!?」
「なんだよ…本当の事を言っただけだろ? 美人なうちの姉達と違って美緒は可愛い系だな、って」
…うん。なんか怒りも収まったからもういいや。
シノ姉もユリノも満足そうだし、多分うちと同じ思いだろう。




