ワンッダの夜
ワンッダまでかなりの距離があるけど、今のオレなら走れるだろ。
だいたい夜行馬車ってやつも夕方の時点ですごい人で乗れる気がしないし。
どうやらオレたちは今はゲーム側に足を突っ込んでるっぽいからな。
ゲームなら尚更疲れたりしねぇんじゃ?
そう思って、オレが疲れたら抱いて走るって言うリオ姉の提案も受け入れたんだけど…。
ミミが疲れて走れなくなった時に嫌な予感はしたんだ。
先にワープさせてよかったぜ…。姉に抱かれるとかいう恥ずかしい姿を見せずに済んだ。
しかも!
運んでくれてるリオ姉に、他の姉三人がちょっかい掛けてくる。
意味がわかんねぇ…。
遊んでんのか? 姉達にはゲームだもんな?ユリノ姉は違うだろう! ノリなの?楽しんでんの?
だけどな、今は移動中な上に、オレは母親に会いに行くっていう気の重い状態なんだわ。
そんなノリに付き合ってる余裕なんかねぇよ…。
後ろが見えないリオ姉に、姉たちの攻撃を避けてもらう為、指示を出すので精一杯。
そのおかげなのかなんなのか…気がついたらワンッダについてた。
リオ姉は約束通り、街に入る前には降ろしてくれた。
今夜はテントで休むしかなくなるだろうけど、リオ姉以外は自前のテントで寝てくれ。
まぁ…嘘だけどな。
姉達を外で野宿なんてさせられるかよ。どんな危険があるかもわかんねぇのに。
ちょっと言ってみただけなのに、そんな落ち込むか?
どうやって誤魔化そうか悩んでたら、迎えに来てくれたミミが宿を取れたって。
良かった…。
でもなぁ、一部屋は不味いだろ。
姉達はまだいい。身内だし、ユナ姉ももう襲ってきたりしねぇから。
でも、ミミは…さすがにダメだろ。
”寝込みを襲う様な事をするの?“とか言いやがるし…。
そんなどこぞの姉みたいな事しねぇよ…。
オレのそのセリフに姉達がひどく落ち込んでしまった。
ごめん…。 いや、オレが謝る必要あるのかこれ?
「取り敢えず宿に行こう?案内するよ」
「頼む」
ミミは慣れてるのかワンッダの街をスイスイと進む。
ユリノ姉以外に案内されて街を歩くのは初めてかもしんねぇな。
「ここだよ!」
かなりでかい街なのか、宿まで結構歩いた。
そんで到着したのは、とても宿とは思えないボロボロの建物。看板すらねぇとか…。
…マジかよ。
これならテントのがマシやぞ?
そうツッコミたかったが、この混雑の中で見つけてくれたミミに文句も言えねぇ…。
扉を開けて入るミミについて屋内に入ると、外観からは想像できないくらいキレイだった。
…新手の詐欺か?
いや、それなら外観の方を取り繕うか。
宿の主とは知り合いなのか、手を振るとミミは階段を上がっていく。
「なぁ、なんでこんな外観なんだ?客こねぇだろ…」
「それが狙いなんだって」
意味わかんねぇ。
「知る人ぞ知る穴場な宿にしたかったって言ってたよ」
「そういうもんか?」
「私も最初はびっくりしたけどね。まぁでもほら、おかげで空いてたし」
それはそうやな…。商売として正しいのかは知んねぇけど。
部屋も広いし、ちゃんと風呂とかもついてる。
良かった。走ってきて汗かいてるしな…。
「レイア、洗ってあげますから行きますよ」
「一人で入れるぞ」
毎回世話にならねぇよ…。
「あっ、じゃあ私と入ろうか」
「…ミミはビッチなの?羞恥心とかねぇの?」
「ひどっ!! 今は女の子同士なんだからいいかなーって」
やめろよマジで。中身は変わってねぇんだから。
あれ…?
でもユリノ姉と入ったときはそこまで抵抗もなかったし、もう慣れてきてる気もするな。
大丈夫かオレ…。
そしてユリノ姉、心を読んで落ち込むなよ。なんなんだよ…。
一人で入ろうとするオレに姉達がしつこく着いてくるとか言ってうるせぇ…。
ユリノ姉がなにか言ってくれて止めてくれたから、ようやく落ち着いて風呂に入れた。
みんなが先にいけって言うし、有り難く入らせてもらう。
オレが風呂を出たら姉達も交代で入っていった。
「なぁミミ、港はどうなってた?」
「すっごい数の船が出港準備万端って感じに並んでたよ。大きな豪華客船もあったから見に行ったけど、入れなかった」
大きな豪華客船…?
「それってもしかしてオレがいる世界の方の船じゃねぇか?」
「レイア鋭いですね。おそらくその通りかと思いますよ」
珍しく風呂上がりにしっかりと服を着てるユリノ姉。
「ミミが入れなかったのもそのせいかと」
「なのかなぁ…確かに見張りみたいに立ってた人もNPCだったし」
じゃあ何か?今、港は二つの世界が混ざり合ってんのか?
それ…不味くねぇか。またユリノ姉が…
「大丈夫です」
「でも!」
「私はそんなにヤワじゃありません」
真っ青になって倒れてたやつが何言ってんだよ…。
それでも頑なに大丈夫だと言うから、仕方なくオレが引いた。
「そういえばレイアちゃんが作った船ってどんなの?」
「ん? 姉達が集めてくれたパーツを組み合わせたからすっげーのができたぞ」
「それ〜港に出しておかなくていいのかしら…」
「今は無理かと思います。既に船で埋め尽くされてましたから」
「そうよね〜…明日にはイベント始まるんだもの〜当たり前よね…」
「はい。10時にスタートですから、他の船が出発してからの方が安全かもしれません」
あまり急いで行きたい訳でもねぇしな…。
姉達もゲーム側の景品でもある土地にはさして興味もないようで、焦らず安全に行くって。
「レイアちゃんのお姉さん達なら、既に一等地が買えるくらいのお金稼いでますものね」
うちの姉たちはこっちでも金持ちなのな?
ほんと姉達には何も敵わねぇよ…。
「レイア…。 私はそこまで持ってませんから」
ユリノ姉のその張り合い方は意味わかんねぇけどな?
「明日からは船旅になるからレイアは早く寝たほうがいいわよ」
「そうだな…」
寝不足だと乗り物酔いとか酷くなるって言うし。
願わくばあの船が思った通りの性能であってほしい…。
……早く寝たほうがいいとか言うなら寝かせてくれよ!
隣が誰かで争うな!
もういい…オレはテントで寝る。ミミもいるし。
室内にテントも二回目だからな。
取り出したテントに入って、鍵かけてやった。
テントにガチャッて鍵…。やっぱゲームやろこれ…




