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消えた弟



ゲームをようやく手に入れて、帰宅した私達を待ち構えていたのは鬼の形相のお母さんだった。

「お前らどこに行ってやがった! 零は何処にいる?」

「は? 零くんまだいないの!?」

「スマホも置いてってんだ…靴もある! あいつに何かあったら私は…」

お母さんも一人息子で、お父さんにそっくりな零くんを溺愛してるからな。

普段はおくびにも出さないけど…。

うちらにはこうしてたまに親バカっぷりを見せる時がある。


「零が夜遊びなんてするはずがないって言ったんだけど、当の本人がいないからね」

お父さんもお母さんを止めるのに必死だったのか疲れてるな。


「おい! 誰か何か知らねぇのか!」

「今日の行動を知ってたのは理乃だよな?」

「うぇぇ!? 確かにそうだけど…何処に行ったかまでは…」

「言え! 零は何処だ!!」

うわ…片手で理乃が持ち上がった…


「うっ…、えっと…今日零は、初デートで… あっしまった…」

「あぁぁん?デェトだと!? どこの女が私の零をたぶらかしやがった!!」

ヤバイヤバイ。理乃のバカっ!


お母さんがそろそろ昔の姿に戻る…。

そうなったら止められるのは、お父さんか、零くんだけ!


しかも今回は原因が零くんだから、お父さんでも止められるか…。

「おい、理乃」

「ひゃいっ!」

「その女に連絡しろ。今すぐに!」

「わかりましたっ!」

理乃はスマホを出してすぐに零くんの彼女になったとかいう女に連絡した。

初彼女の立場を奪ったそいつ、どうしてくれよう…。


通話変わってくんねーかな…。

そいつにはうちも言いたいことが山ほどある。

もし、どこかに連れ込んで、あんな事やこんな事をしてたら…赦さねぇ。絶対に。

「え? うん…うん…ホントなの? じゃあお昼すぎに別れたきりなんだね?」

「おい、代れ!」

「ちょっと待ってお母さん! うん、うん…は?ログインしてる? でも、ゲーム機は家にあるのに零は居ないんだよ?」

なんの話?


「由乃姉、零の部屋にゲーム機だけがあったんだよね?」

スマホを片手に聞いてくる理乃。

「うん。零くんはいなかった。 だから置いてあった機械を見て、なにか調べたから間違いない。そう話しただろ」

「確認したけど、やっぱりゲーム機しかなかったっていってるよ?」

何がどうなってる?


「私、もう一度部屋を見てくるわ〜」

「早く代れ! と言うか、呼べ。ここに今すぐ!」

「麻乃、流石にそれはひどいよ。相手は学生の女の子なんだよ?それをこんな時間に呼び出すのは…」

「零は行方不明なんだぞ?そんな悠長な…」

確かにお父さんの言う事もわかならなくは無いけど、零くんのが大事。

零くんを奪おうとしたやつなんかよりも!


「確認のために来てくれるって。私、迎えに行ってくる」

「理乃、うちついていこうか?」

「大丈夫。私を誰だと思ってるの?」

そうだった…こいつ学校のトップだ。しかも実力でのし上がった本物の。

うちでもなれたけどな? めんどくさいからやんなかっただけだし。


半ギレで危なっかしいから行くのを止めたけど、聞かなかったお母さんは理乃と家を出ていった。

念の為お父さんにも行ってもらったから多分大丈夫…。



「部屋にはいないわね〜。例のゲーム機はあるけど…。アレってずっとついたままなの?」

「詩乃姉、それどういうこと?」

「なんか、青色のライトがチカチカと付いてるから〜。あれって電源入ってますってやつじゃないの〜?」

そういえば詩乃姉って台所家電以外は疎かったっけ。


うちも零くんの部屋に行って確認。

確かに電源がオンになってる。気が付かなかった…。


さっき買ってきたうちのゲーム機本体も開封して、説明書を確認したから間違いない。

零くんの部屋にあった本体を試しに装着してみたけど、何も見えないし操作もできない。どうなってる?

「電源切ってみる〜?」

「それ、なんとなくやっちゃだめな気がする…」

「やっぱり〜?」

電源がついたままなのに何か理由があるのなら、消さないほうがいい。

なんとなくそんな気がする。



そうこうしてるうちに、理乃と両親が帰ってきた。

ぐったりした女の子を小脇に抱えたお母さんは何をしたんだ?

「ほら、早く確認しろ。その結果次第では生かしておいてやる」

「は、はいぃぃ…」

完全に怯えきった、零くんの彼女(仮) 仮でもムカつくな。

でも今はこいつしか情報がない。我慢だ、うち…



「この本体は私が貸してあげたものなんですが、アカウントを消し忘れたままだった事に気がついて…。慌てて連絡したのですが、連絡がつかず…。もしかして、と思ってアカウントのログインを確認したら、午後からずっとログインしたままなんです」

そう言って、スマホからログインの記録を見せてくれた。


確かに今もログイン中になっている。

「それって、零くんはゲームをしているって事か?」

「はい。そのはずなんですが…ゲーム機も電源が入ってますし」

「何も見えなかったけど? テメェ…適当いって、零くんを何処かに監禁してるんじゃねーだろうな!?」

「しませんよそんな事! 惚れた人にそんな酷い事しません!」

「由乃姉ならやるよね…」

できるならしたいけどな?お母さんにばれたらって考えたらとてもじゃないけど実行できない。

うちらの気持ちに気づいてるお母さんからは、付き合うにしても合意でしか認めないってハッキリ言われたし。

合意ならいいんだ!?ってびっくりしたからよく覚えてる。



「それで? 結局どういう事だ? 説明できるんだろうな?」

「今、間違いなく言えるのは、零くんはゲームにログインしている、って事だけです…」

「そのゲームってなんだ?」

「これだよ〜お母さん」

詩乃姉がさっき買ってきたゲームのパッケージを見せる。


「これは、あれか?ゲームの中に身体も入っちまうのか?」

「いえ、そう感じるくらいにリアルですが、身体はこちらにあるので…」

「じゃあなんで零はいないんだ!!」

「…わかりません」

ブチギレそうなお母さんを姉妹三人がかりで抑えても尚止められず、お父さんが情報を整理しよう。それが零を見つける一番の近道だ、と言ってくれて。

ようやくお母さんがおとなしくなった。



みんなで情報の整理と、ネットも使って色々と調べたけど、めぼしい情報はない。

ゲームをプレイ中は、意識がゲームの方に集中するだけで、身体は当然リアルに存在するし、そちらで触れられれば感覚もある。

それが当たり前の情報。身体が消えたなんて話はどこにもない。


電源を長押しして切れば、強制的にシャットダウンされるとも書いてあるけど、それはあくまでも身体があった場合だ。

「これ、どう考えても、零はゲームの中に行っちゃったって事だよね?」

「私もそんな気がするわ〜。原因も理由もわかんないけど…」

「うちもその結論…。 待って、それならうちらもゲームの中に行けばいいんじゃない?」

「そっか! それで零を見つけて連れ戻せば…」

「それ、難しいと思います…。みなさんは零くんのキャラの名前をご存知ですか?外見はわかりますか?このゲームの世界めちゃくちゃ広いんですよ」

確かにわかんねー…。


零くんの事だ、めんどくさがって全部ランダムにした可能性が高い…。

「あっ…」

「なんだ?何かあるのなら聞いてやるぞ?最期のチャンスだ」

「え、えっと…。このゲーム、プレイヤーの身長等を調べるため、最初にボディスキャンっていうのをするんですが、もし、零くんがスキャンしたままの姿ならリアルとさほど変わらない姿になっていると思います。 ただ…」

「ただ…?」

「キャラメイクも自由にできるのでそれをして、変更してしまっていたら外見は…」

「零くんがそんなめんどくさい事するかしら〜?」

「やんないね。零なら名前すらランダムにしてると思う」

うちもそう思う。


「それでしたら、零くんと背は同じで、顔がそっくりな女の子を探してください!」

「「「女の子!?」」」

「はい…リアルの姿をスキャンして、キャラメイクも一切触れないでゲームを始めた場合、プライバシーの配慮で性別が変わるんです。現実と全く同じになると色々と不味いですから。普通はキャラメイクをして始めるので、理由を知る人がいない裏情報ですが…」

「おい。それだとバーチャル世界で零くんと結婚してゆくゆくはリアルでもっていう、うちの野望はどうなる!?」

「そ…それは私に言われても…」

ふざけるなよ?やっと零くんと結ばれると思ったらこれか!!


いや、待てよ?うちが男になって、女の子になった零くんを…。

それだ!!

詩乃姉も、理乃も同じ結論に達したようで、ニヤッと笑った。

これはうかうかとしてられねー!!


「それ、私のは?」

「ないよ! 探し回ってようやく見つけたんだから」

「理乃、よこせ」

「いくらお母さんでもダメ!」

「由乃?」

「絶対にヤダ!」

「詩乃…」

「こればっかりは譲れないかな〜」

さすがのお母さんも、娘から無理やり奪おうとはしないだけの良心が残っててよかった。



「必ず見つけて連れ戻せ。いいな?失敗は許さん…わかってるな?」

「わかってるよ。私達だって零は大切なんだから」

「うちらに任せて。お母さん達は、こっちのことよろしく」

「あぁ、それはいいが…くそっ! 息子の一大事に私は…」

「麻乃。娘たちに任せよう。僕らはみんなが帰ってくる場所を守らないと」

「そう…だな…最悪の場合、私もなんとかしてそっちに行くからな?そうなったら終わりだと思え」

ガチなやつじゃん。世界滅ぶっしょそれ…


「私達三人がいるのよ〜?大丈夫」

正直、うちらの身体もどうなるかわならないから両親がいてくれないと困るんだよな。


「あの…私もサポートします。みなさんこのゲームは初めてですよね?地理やルールなどわからないと困ると思うんです」

「それはそうだけど…邪魔になりそうだなぁ」

「正直、うちも邪魔だと思うな。足手まといになりそうだし」

「二人ともひどいよ〜?助けてくれるって言うなら頼ればいいのよ〜。使えないようなら捨てていけばいいんだし〜」

一番ひどいのは詩乃姉な気がするんだけど、言ったら怖いから言わない。


「私は、このゲームをすでにやり込んでます! キャラも育ってますから足手まといにはなりません! ですから…」

あれ…待てよ? こいつアカウントをそのままに零くんに本体を渡したんだよな?

同じアカウントで二台同時接続したらやばくないか?


そう聞いたら、零くんに渡した本体はサブアカウントにうつしてあったから問題ないと。

ゲーマーはこれやから…。なんやサブアカウントて…。

やばい、久しぶりになまったわ。最近抑えてたのに。



一度家族への説明と、本体を取りに戻った零くんの彼女(仮)…くっ…を待ってる間に、詩乃姉が珍しく説明書を熟読してた。

本気じゃん詩乃姉…。うちも気合入れないと!


しばらくしたらお母さんが、また小脇に抱えて帰ってきた。もう荷物だなソレ。


うち達は、なんとなく零くんの部屋に集まって、スマホからアカウントの作成。そのままゲームを起動した。

あの女まで零くんの部屋に入ったのには思うところがあるけど、今は休戦だ。

全部終わったら覚悟しろよ…。

うちから零くんを寝取ろうとか、絶対に許さねーから。













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