しばし別れの挨拶に
理乃姉が酷い…。
確かにオレが返り討ちにできてれば迷惑かけないのかもしれねぇけど、元々こっちは巻き込まれてるだけの被害者やぞ?
しかも大体不意打ちされて連れ去られるから対処できるわけがない。
落とし物を拾ってあげようとしゃがんだら、後ろから突き飛ばされてコケてる間に縛られたり、曲がり角で待ち伏せされて転ばされたり…。
一番ひどかったのはギャルっぽい先輩が絡んだ時か?
廊下を歩いてたら話しかけられて、先輩だから無視もできず応対してたら、突然開いた横のドアの中に引きずり込まれて縛りあげられた。
「協力したんだからこの子はアタシ達がもらっていいよね?」
「好きにしろよ。どうなっても俺たちは知らねぇけどな」
「ふふっ。いいわ〜この子。ずっと狙ってたのよ。ねぇ?邪魔な理乃が片付いたらおねえさんとイイコトしよう?」
「次私ね!」
そう言って空き教室の隅っこで抱きかかえられて動けなかった。
縛られてる上に相手は女の人だから下手なこともできなくて…。
しばらくして駆けつけた理乃姉は、主犯よりも先にオレを捕まえてたギャル先輩達をボッコボコにした。
あまりの容赦のなさにオレが引いたほど。
それを見てた主犯の男子達は泣きながら土下座してたっけ。
当然それで理乃姉が許すはずもなく…。
教室に転がる死屍累々の中、理乃姉に問い詰められた。
「零、アイツらに何されたの!? というか抱かれてヘラヘラしてるんじゃないわよ!」
「してねぇよ! 動けねぇの見たらわかんだろ…」
「煩いバカ!」
そしてオレも殴られるっていういつもの展開。
ただあの時は、理乃姉の名を騙って呼び出された時より、オレ個人へのあたりが酷かったんだよな…。
はぁ…。リオ姉だけ一番しょっぱい船にしてやろうかな。
…あとが怖いからやめよ。
そんなくだらない仕返しみたいなことしても何も嬉しくねぇ…。
姉達は魔の国へ向かう旅に備えて色々話し合ってる。
「先ずはニャンダーに戻るのよね〜?」
「はい。そこから馬車でワンッダへ向かいます。イベントの開始までもう数日猶予がありますから、その間に準備したりすればいいと思います」
「レイアもそれでいい?」
「いいぞー。行くって決めたからな。覚悟もした。ユナ姉達に迷惑かけねぇよ」
穏便に済むといいなってのはオレの希望でしかないし。
「大丈夫ですよレイア。私達がついてます」
「巻き込めねぇよ…」
「相棒なのにですか?」
その言い方はズルいだろ…。
「後は港で船の確認はしときたいね。レイアが組み立てたんでしょ?」
「なんだよ、リオ姉はオレが作ったのじゃ不安なのか? なら自分で作ればいいだろ!」
「そんな事言ってないでしょ!」
何なんだよ…。
母親と同じで実はリオ姉もオレの事嫌いなんじゃないかと思えてくる。
嫌われる事をした覚えはないのに…。でもそれは、あくまでもオレの主観だからな。
人質にされてるからとか、理乃姉からしたら迷惑なんだろう。
まぁもうオレは学校に行けねぇし、理乃姉も多少は平和になるだろ。
次の日の朝には、ログインしたシノ姉、ユナ姉とカピバラックの宿からニャンダーへ飛び、姉達はゲーム側のイベントを確認しに行った。
オレは一度フォーラに会いたくて、ユリノ姉と海へ行くから別行動。
海辺についたら、水に手を入れて声をかける。
「フォーラ、ノーラに会えたぞー」
”今こっちに呼ぶから大人しくしてなさい”
「わかった」
前回送ってもらった時と同じように、海の水がシャボン玉みたいになって包まれ、次の瞬間にはフォーラの目の前に立ってた。
「あたしの事伝えてくれた?」
「あぁ。二股とか言って怒られたぞ?」
「仕方ないじゃない。ここへ普通には来れないんだから。それに友達なら護るものでしょ!」
「ありがとなフォーラ」
「別にレイアのためじゃないんだから!」
ツンデレなセリフのせいで矛盾がひっどいけど聞き流しておくか。
「今日会いに来たのにはもう一つ理由があってな」
「なによ?」
「船で魔の国へ旅するから暫く会いに来れなくなるんだよ」
「…そう。戻っては来るのよね?」
「勿論そのつもりだぞ。一度行った街へならすぐに飛んで来れるから帰りは早いしな」
母親から無事に逃れられたらっていう条件はつくけど、心配かけたくはないから黙っておく。
「あの大陸にはセーラねえ様がいるから、気をつけなさい」
「四人いる姉妹の?」
「そう、一番上のねえ様。無口であまり誰かと話すってこともないけどね」
「せっかくなら会ってみたいけどなー」
「…ドラゴンをなんだと思ってるのよ?守り神なのよ?しかもセーラねえ様はあたし達の中で一番強いのよ!」
「怒ると怖いとか?」
「そういえば怒ってるのなんて見たことないわね…」
逆に考えたら、もし怒らせたらとんでもねぇ事態になるやつやな。
普段大人しい人ほどキレたらヤバい。
シノ姉がいい例だろう。
「やっぱりダンジョンにいるのか?」
「魔の国に居るのよ。というか…魔の国がセーラねえ様と言ったほうがいいかしら」
「ちょっと意味わかんねぇんだけど」
「行けばわかるわ。私やノーラねえ様との繋がりを感じたら話しかけてくれるかもしれないから失礼の無いようにしなさいよ」
「わかった。なんか土産でも見つけたら買ってくるからな」
「期待しないで待ってるわ。そろそろレイアの姉が心配の限界みたいだから送るわ」
そういやオレだけこっちに来てるのか。
一人置いてきちまったんだな。すまねぇ…ユリノ姉。
行きと同じように送ってもらったオレは、海辺で慌てふためいてるユリノ姉という珍しいものを見た。
「レイア!? どうして一人で行ってしまうのですか!」
「悪ぃ…オレも一人だと思わなかったんだよ」
どうやらフォーラに呼びかける時に隣にいないとダメらしい。
離れてたから、ついてくる気がないんだと思ったらしいし。
拗たユリノ姉には、次回は手をつないでおく約束をさせられた…。
「一人にしないと約束しましたからね」
「でもよーユリノ姉も一人になりたい時とかないのか?」
「ありませんね」
変わってんなぁ…。
ニャンダーへはのんびり話しながら帰る。
「あっ…」
「なんですか?また女の知り合いでも出来たのですか?」
「ちゃうわ! まるでオレがあちこちでナンパでもしてるような言い方はやめろよ」
「じゃあなんですか?」
「魔の国にフォーラの姉のセーラってドラゴンがいるらしくてな。失礼の無いように気をつけろってさ」
「またドラゴンですか…」
会えたらいいけどな。ドラゴンってみんなおもしれぇし。




