行き先
姉達が突然予定変更して、魔の国へ行くと言い出した。
理由を聞いたら、魔王になった母親に会いに行くためとか言うし。
何も言わずに何日も帰らないオレに、あの母親がブチギレないわけがない。
友達と遊んでて、少し帰りが遅くなっただけでもめちゃくちゃ叱られてぶたれたんだぞ?
何日も帰らなかったらどうなるか、なんて想像したくもない。
普段からまともに会話すらしないから、姉達以上に何を考えてるのかよくわかんねぇし…。
小さい頃からあの母親はそうだった。
面倒を見てくれたのは父親や、歳の離れた詩乃姉だったし。
ただ、遊んでるオレを遠くから見てる時だけは優しそうに笑ってて、だから近づかないように気をつけてた。
そばに行くとめちゃくちゃ怖い顔するんだよな。
幼い頃からオレだけは絶対に嫌われてるとそう思ってきた。
そんな母親がこっちに来るんだぞ?
どうなるかわかったものじゃない!
しかも船に乗るとか…間違いなく酔うだろ。
絶対いかねぇからな!
シノ姉とユナ姉は、ダンジョンに必要なものがあるとかいって出かけてしまった。
オレはユリノ姉とギルドに行くらしい。
「ギルドに行くくらいはいいでしょう?」
「あぁ、仕事か?」
「いえ。告知の確認です」
また、母親魔王がなんかやらかしたのか!?
それは確認しておかないとヤバいな…。
カピバラックのギルドは相変わらず雰囲気がのんびりしてて、温泉へ出入りする人も多い。
「レイア、こっちです。フラフラするならまた首輪つけますよ」
「わかってるよ!」
信用ねぇな…。
「すぐ迷子になるからです」
シノ姉よりはマシだぞ?
壁に貼られた新聞みたいな告知には、別に母親魔王がどうとかって話題はなくてホッとした。
「やはり…こちらにはありませんね」
「ん?なにか探してるのか?」
「ええ…」
言いにくそうにしてるから聞かねぇけど…。
「此処では話しにくいだけです」
そう言いつつも全てに目を通すかの様に読んでるユリノ姉。
早々に飽きたオレは、他にもいくつか貼られてるものを眺める。
こっちはパーティメンバー募集の張り紙か。
どこも回復役が不足してんだな…。
しかもどれもこれも船に乗るからって。
気になって一つ詳しく見てみた。
”ワンッダから魔の国への船旅に同行してくれる回復役メンバー募集。”
こっちも行き先は魔の国か。なんで揃いも揃って魔の国へいくんだ?
オレ達以外は母親魔王に会うとかそういう理由はないだろうに。
”魔の国から迷惑をかけたお詫びにと、招待された豪華客船のチケットに当選しました。魔の国最大のダンジョンが一般に開放されるという、またとないチャンスです。高難度ダンジョンなので、回復役は必須となりますから優遇いたします”
ほーん…。
こっちは魔の国が用意した大型客船での優雅な船旅なのな。
まぁ、オレはいかねぇから関係ないな。
「レイア、何を見てるんですか?」
「ん?パーティメンバー募集の張り紙」
「…なんですか!? 行きたくないからと他のパーティに鞍替えする気ですか!」
「ちげーよ! 内容よく見てみろ」
ユリノ姉は募集の張り紙を眺めると大きくため息をついた。
「こちらではこういう事になってたのですね」
「ん?」
一通りの張り紙を確認したユリノ姉は納得顔。
「しかもすでに客船に乗る枠が埋まってしまったようです。ですから告知の紙が撤去されてたと…そういう事ですか」
なんか一人で全部理解したみたいに頷いてる。
「レイア、イベントに興味ありますか?」
「ないな」
「…即答ですか」
「行かねぇからな!」
「……レイアはいいですね?お母様がいて」
「は?なんだよ急に」
「私は親も兄弟も誰もいません。いたとしても記憶にありませんから…」
「ユリノ姉…」
「会いたくても会えない私と違って、わざわざ会いに来てくださるのでしょう?お母様は…」
……。
「わかった! わかったよ…行けばいいんだろ。うちの母親にはユリノ姉でも勝てねぇから、オレにもしもがあったら諦めろよ」
ったく…。親に会いに行くのが命懸けっていうオレの気も知らずに。
「では旅の仕度をしますよ。先ずはニャンダーへ、それからワンッダまでは馬車か徒歩での旅になりますから」
「あぁ、魔の国へはワンッダから行くんだっけか」
「はい、大きな港がありますから」
「でも、客船はいっぱいなんだろ?」
「そこはレイアのお姉様方が何とかするでしょう」
あの姉達なら……するだろうな。
カピバラックの市場へ行って食品やらを買い、服屋へも入る。
「なぁ?」
「はい?」
「自分の服は選ばせてくれよ! それかせめて下着の柄くらい選ばせろ!!」
「じゃあ私の服と下着はレイアにお願いします」
ふざけんなよ…。とんでもないの選ぶぞコラ!
「レイアが選んでくれたのなら私は着ますが」
…真面目に選ぶか。
船だと風も強いだろうし、寒いかもしれねぇから上着もいるだろ…。
「そういや、ユリノ姉は普段からスカートだけど、こだわりがあんのか?」
「動きやすいですから。武器も仕込めますし」
あぁうん…なれてる服のがいいだろうな。
でもなぁ、下着はわかんねぇぞ…。
「でしたら色や柄だけ決めてください」
「当たり前に心の声に返事するのなんなの?」
「相棒ですから」
一方通行なんだよなぁ。そっちからは進入禁止の看板でも立ってんの?
まぁいいや。イメージ的に髪と同じ赤とか、黒とか大人っぽい色か?
「わかりました。レイアはコチラを」
「だからさぁ…」
「なんですか?」
なんですか?じゃねぇんだわ。なんで全部動物の絵柄付きなんだよ。
うさぎ、トラ、ネコ、これなんだよ…。
「ヤマアラシです」
「需要と供給って言葉知ってる?」
「どちらも今、満たしましたね」
…もういい。下着は諦める。
問題は服や。
「なんでセーラー服なんだよ?」
「海ですから」
「あぁね。…って納得すると思ったか! 水兵さんですってか?あいにくオレは民間人なんだよ!」
「可愛いですよ」
……。どーせオレに拒否権も選択権もねぇんだろ?
「その通りです」
しかも色違いで白、黒、紺って…バリエーション豊富かよ!
「カラバリは基本です。日替わりです」
ランチかよ。お得感あるみたいに言いやがって。
会計をしようとしたら止められてユリノ姉が出してくれた。
「いいのか?」
「着て見せてもらえればそれで」
「ありがと…」
ホント意地悪なのか優しいのかわかんねぇ…。
宿に帰ったらリオ姉とミミもログインしてて、なんかガチャガチャで遊んでた。
何してんのかと思ったら、船のパーツらしい。
ちょっと何言ってっかわかんねぇ。
コンプリートしようとでもしたのか?ってくらい並べられてるし。
「被ったものはオークションに出したほうがいい〜?」
「はい。イベント前の今が一番需要があり高騰してるんじゃないでしょうか」
「そうね〜ならこっちのは全部処分ね」
「シノ姉、小出しのがいいんじゃねーか?一気に出すと価値が下がる」
「勿論そのつもりよ〜」
姉達はなんの会話をしてるのか…。
「足らないものはないの?」
「ラインナップを見た限り大丈夫よ〜。載ってないパーツもいくつかあったけど…」
ラインナップに無い…?
「それって、シークレットとかレアアイテムじゃねぇか?何を集めてんだよ?」
「だから、船のパーツだよ」
「…おもちゃのか?」
「ちゃんと船になるから。拾いやすいようにこの形みたい」
ユナ姉に渡されたのは本当にガチャガチャのカプセル。
”帆・弐”って書いてあるのが見える。
姉達はこれを敵のドロップとして拾い集めてきたらしい。
ぱっと見だけでも数十個。乱獲したんやなぁと想像できる。
「レイアちゃんが好きなように組み立てていいわよ〜」
そう言って一通りのパーツを渡された。
やべぇ…ちょっとワクワクする。
説明書には、船体、動力源、キャビン等必要なものを好きに組み合わせて良いと書いてある。
ファンタジー世界なのにエンジンとかあるんやけど…。しかもラインナップには載ってないってことはレアアイテムか。
いっそレアアイテムだけで組んでみるとか?
いや、デザインとか見てから決めたほうがいいな。
カプセルを開けると船のミニチュアみたいなのが出てきて、ブロックのように組み合わせられる。
全部開けて、気に入る組み合わせを選んでみた。
動力源は速さが一番出そうなエンジン。
船体は見た目は普通だけど秘密のあるやつにしたし、キャビンも広くて豪華なのを選んだ。
オプションパーツも充実させた、渾身の一隻。
ぱっと見はファンタジーだけど、中身はそれとは程遠いモノになった。
でもこれなら速いだろうし、予想通りなら酔いにくいんじゃねぇか?
試しに一番しょっぱいパーツでも組んでみたら、足こぎボートができた。
絶対に海を渡る船じゃねぇよこれ。
池で遊ぶ用のだろ。いっそ白鳥の形とかしてた方が雰囲気ある。
船はこれでいいんだな。完成したのをカプセルに入れて、水面に向かって投げれば使えるサイズになるとか…そこはゲームみたいなんだよなぁ。
これで出発する準備が出来ちまった…。願わくば再会した母親にシメられずに済むといいな…。
無理だろうけど。




