出来たり出来なかったり
オレのせいでこちらに縛られていたユナ姉が、ようやくログアウト出来るようになった。
ホッとしたよ…。
あんな印一つでこんな騒ぎになるとは思いもしなかった。
「レイアちゃん、食材の買い出しに行くわよ〜!」
ユナ姉が母親に報告するためにログアウトした途端、シノ姉がそう言い出した。
「オレ、この街の地理に詳しくねぇから場所わかんねぇよ?」
「それなら私が案内します」
「む〜せっかくのデートなのに〜…仕方ないわね…」
市場へはユリノ姉だけじゃなく、リオ姉もミミもついて来た。
「私もこの街はあまり歩いてないし、見て回りたいから」
「そうなのか?ミミならあちこち把握してるのかとおもったぞ」
「無理無理。地続きじゃない別の大陸さえあるんだよ?」
「リアルに地球みたいだな」
「それくらいの感覚でいたほうがいいよ」
ゲームと酷似してるって言う、オレのいる世界も似たようなものだと思ったほうがいいんだろうな…。
シノ姉は手慣れた様子で食材を買い集めていく。
見た目とか名前も同じだからな。迷いもしないんだろう。
「レイアのお姉様はみんな料理が得意なのですか?」
「いや、シノ姉だけは別格だな。ユナ姉も多少はするけど、殆ど作ってもらった記憶はないし、リオ姉は…」
「レイア…黙ろうね?」
「ひぃっ…」
「大凡わかりました。私も作れたほうがいいですか?」
「別に無理しなくていいぞ、オレも多少は出来るし」
「えっ!?レイアちゃん料理出来るの!?」
そんな驚かなくてもいいと思うんだミミよ。
「うちでお父さん、詩乃姉に続いて料理が上手いのは零だからね」
二人が壊滅的だからな?ユナ姉とオレは似たようなものだろうし。
「それは食べてみたいですね…」
「私も!」
「機会があったらな。絶対にシノ姉のが上手いし」
宿へ戻って厨房を借りれるか聞いたら、忙しい時間帯だから無理って…。
仕方ねぇよな。
結局どうしたかって言うと、宿の部屋にテントを広げた。
「室内にテント張るとか初めてだよ」
「普通はやりませんからね」
テントに入るとミミが一番驚いてた。
「これ…どんないいアイテム持ってるの!?こんなの聞いたことないよ!」
あちこち見て回って興奮してる。
理由はオレも知らねぇしなぁ。
「ユリノ姉、キッチンは?」
おもむろに壁にある取っ手みたいなのを引っ張るユリノ姉。
「ここです」
ライティングビューローのように開いた壁の一部が天板になり、そこからさらに左右へと広がって、アッと言う間に本格的なキッチンが現れた。
コンロみたいなのから、包丁や鍋などの道具類まで揃ってる。親切かよ…。
「おかしいだろこれ…どうやって収まってたんだよ!」
「テントのサイズと中の広さがそもそも合わないのに、なにを言ってるんです」
そらそうやけど…。解せねぇ…。
水とかどないなってん。
「いいわね〜使いやすそうだわ。すぐに用意するから待っててね〜」
「手伝うぞ?」
「ダメよ…私が一人で作るの〜」
お、おう…。包丁持って言わないでくれ。
ものすごい手際で調理していくシノ姉。
後ろ姿は見慣れた詩乃姉そのままで…嬉しくなる。
「私も料理はできるからね?」
「へぇーミミのもいつか食べてみたいな!」
「…いつかね?」
「おう」
「私だってラーメンくらい…」
リオ姉のソレは、お湯注ぐだけのやつな?
それすら酷いと失敗するからな。
湯じゃなく水を入れたり…スープの小袋がまんま湯に浸ってて味のない物が出来上がったり。
一周回って逆に器用だとオレは思う。
「レイアのお姉様はみんなその…個性的ですね?」
「姉妹なのに性格とかも似てるようで似てないしな。あ、でも母親とリオ姉は一番似てるぞ」
「噂の魔王様ですか…」
「うん」
「レイア、それ褒めてる?褒めてないよね?」
「なんでだよ…背が高くてスタイルのいい美人母娘って近所で有名じゃねぇか…」
性格はどっちも獰猛だけど…。
オレにとって一番怖かったユナ姉が落ち着いた今、警戒すべきは間違いなくこの二人だからな。
「レイアちゃんって実はお姉さん達のこと大好き?」
「ん?好きか嫌いかで言われたら好きだぞ。怒ったりしてなきゃ優しいとこもあるし、頼りになるからな」
頼りすぎないよう、これからは頑張るつもりだけどな。
「出来たわよ〜!」
「やった! ありがとシノ姉」
「いいのよ〜約束守ってね〜…?」
「う…知らねぇからな?」
「いいの! ほら早く〜」
食べる前にかよ…でもわざわざオレの頼みを聞いてくれたんだしな。
「ありがと、シノ姉」
首を出してくるからそこに印をつける。
「はわぁ…ほんとにした!!」
「チッ!」
「………」
二人ほどなんか圧が怖いけど気にしたらダメだ…。
「ありがとう〜…ふふっ」
鏡を出して確認するシノ姉。
「なぁ…ログアウトとか大丈夫か?」
「えっと…あら〜?」
まさか…!
「出来ないわね…でもいいわ! 消えるまでだけになるけどずっと一緒ね〜?」
なんで嬉しそうなんだよ…。困らねえのか?
「シノ姉、ゲームの設定いじったりした?なんかシノ姉だけ声の音量バランスおかしくない?」
「えっ…触ってないわよ…? 初期値のままよ〜?」
「…シノ姉嘘つくのやめなよ」
「な、なんのことかしら〜…?」
「オプション開いたよね?今」
「……」
どういう事だよ…。わかるように説明してくれ。
「レイアの印でログアウトが出来ない状態になるとオプションすら開けなかったとユナさんは言っていました。でも今、オプションをひらいて確認したっていう事です」
「……じゃあログアウト出来るのに出来ないって言ったのか?」
「そうだよ、レイア! シノ姉に騙されないで!」
「いや、でもなぁ…そもそも不確定要素や常識で測れない状態なのに、ユナ姉と全く同じ状態になるとも限らねぇだろ。オレはシノ姉を信じる!」
「レイア! シノ姉に甘すぎ!」
「……ごめんなさい…」
なんでシノ姉が謝るんだよ?オレのせいだろ…。
「ログアウトできるの…ユナと同じじゃないのが悔しくて…」
「ほら! やっぱり!」
「じゃあシノ姉は大丈夫なのか?」
「うん…ごめんねレイアちゃん」
「平気ならそれでいいじゃねぇか。せっかく作ってもらったのに冷める前に食べようぜ」
びっくりしたけど大丈夫ならよかった…。
「レイアちゃん!」
「やめっ…苦しいってシノ姉! 飯食わせてくれよ…」
リオ姉とユリノ姉はなんか怒ってるけど、それより飯!
せっかく作ってもらったのに!
「なんていうか…レイアちゃん大変だね?」
「憐れむような目でオレを見るなよ…」
「でもちょっと羨ましいかも、私一人っ子だから」
「そうなのか? んー確かに一人だと寂しいかもな」
オレはいつも騒がしい中に居たからな。想像すら難しいけど。
その日の夜、実際にログアウトしようとしたシノ姉が、本当にログアウト出来なかったのは事件だった。
リオ姉とユリノ姉は疑って信じねぇし、シノ姉はオプションも開けるし、ログアウトの項目もあるのに反応しないって大騒ぎだった。
「信じてよ〜…! さっきは実際にログアウトしようとまではしなかったからわからなかったの〜」
「そうやって! レイアといたいだけでしょ? 見苦しいよ!」
「本当なのに〜…レイアちゃんは信じてくれるわよね…?」
「うん、やっぱり必ず同じ状況になるって訳じゃねぇんだな…ごめんシノ姉」
「うぁーん…レイアちゃん大好きよ〜!」
「はいはい。泣くなって…」
それが本当なら検証が必要だとかユリノ姉が言い出して、それに乗っかったリオ姉に追いかけ回されたりと、散々だった。
「そもそもログアウトしねぇユリノ姉はかんけーねぇじゃん!」
「私は逆に出来るようになるかもです!」
「どういう理屈だよ!」
「ただの嫉妬です!」
それのがまだわかりやすいわ…。
「じゃあ…私で試す…?」
「ミミまでやめろよ! ログアウトしなかったら親が心配するだろ!!」
「あぅ…」
しかも真っ赤になって言うな!




