友達への一歩
姉達が突然、宿の庭園を見に行くと言って出ていってしまった。
ついていこうとしたら…
「話したかったんでしょ?チャンスだよ」ってユナ姉が。
そういう事か。わざわざ気を使わせてすまねぇ…。
部屋に残されたのはオレとミミだけ。
「「あの…」」
「「……」」
「先にどうぞ」
「あーえっとな…色々と傷付けて悪かった! 名前のこともだし、はっきり言わなかったのも…ごめん」
「はっきりってなにを…?」
「オレ、彼女とか初めてだし、もっと言ったら姉以外の女子とまともに会話すらも殆どしたことがねぇからさ、だからまずはお互いの事を知ろうって言ったんだ。それから友達になって…って段階を踏むべきだと思ったんだよ」
「そっかぁ…私も早とちりして、オッケー貰えたんだってすぐに走り去ったもんね」
「それを追いかけなかったオレも悪かったよ…」
「ふふっ…じゃあ、改めてやり直さない?」
「うん?」
「お互いの事を知る所から! まず、私はエ○ゲーマーじゃないからそこは訂正しといて! わかった!?」
「お、おう…」
そんな鬼気迫る言い方しなくても…。別にそういうのを好きでも気にしねぇよ?人それぞれだし。
まぁ、違うと言うならそれでいいけど。
「あと、私もごめんね…」
「ミミはなんかしたか?」
「ほら、この間…」
「あぁ…真っ黒に闇落ちしてたやつか」
「…言い方ひどいよ!」
「悪ぃ…」
「まずは友達になれるように頑張るから!」
「そうだな、こうやって腹を割って話せたらもう友達だろ。これからよろしくな?」
「うんっ! よかった…嫌われたかと思ってたから」
「それはお互い様だな」
「だね」
二人で笑い合う。うん、これはもう友達だろ。
「これでやっと少し私は前進かー」
「うん?なんの話だよ」
「レイアちゃん…というか零くんは知らないかもだけど、零くんって一定の女子にすごい人気なんだよ?」
「は…?」
「可愛くて弟にしたいとか、もう囲ってペットにしたいって言ってた先輩とか」
待て待て待て…知らねぇぞそんな話! しかもペットってなんや!
「同級生だと、ガッツいてくる男子と違って可愛いから付き合うなら零くんだよねーなんて、よく話に出るくらい人気だね」
「聞いた事ねぇよそんな話!」
「それはそうだよ。理乃先輩がいるのに、零くんの耳に入るような事しないって」
うちの姉は何処まで恐怖で学校を支配してんだよ…。
「その割に理乃姉に挑むバカは減らなくないか?」
「だって…あれだけの美人だよ?」
「美人とかの前に恐怖が勝たねぇのかよ…アホだな」
「男子なんてそんなもんだよ。美人に弱くてスケベなの! 零くんが特殊なだけ」
ミミの男子への評価も酷いけど、オレの事まで変人みたいに言いやがって…。
「そういえば…ミミは、よくそんなうちの姉と仲良くなったな?」
「あー…それは偶々だよ。零くんを理乃先輩の名前を使って呼び出した人達いたでしょ?」
「いたな…未だかつて無いくらいボッコボコにされてたから、止めるのに苦労したな」
「あれ、私がその計画をたまたま聞いちゃってね、零くんのことが心配で、先輩の所に行ったんだよ」
「てことは、ミミもオレを助けてくれた一人だったんだな。ありがとな!」
「私は伝えただけだし…」
「それでもだよ。助かった」
「ふふっ、そっか。 その事があってから理乃先輩とは仲良くなってね…零くんの事を好きなのもすぐにバレたんだよ」
あの歩く刃物みたいな理乃姉がねぇ…。
「告白してもいいって言われた時は本当にびっくりしたよ。噂では零くんに近寄った女子をシメてるなんて話も聞いてたから。 だから嬉しくてね、その日のうちに告白したんだー」
「行動力ヤバいな」
「それはそうだよ…入学式に一目惚れしたんだから」
「会ってたか?すまねぇ…記憶にない」
「私が見かけただけだからね。最初は女の子かと思ったもん」
「うるせぇよ…」
「そしたら制服は男子だし! びっくりしたね、こんな可愛い男子いるの!?って」
これ、オレは褒められてるのか貶されてるのかわかんねぇ…。
「それからだね」
「ずっとか?」
「うん、ずっと…」
照れくさいような複雑な気分だな。
「今は本当に女になっちまったけどな…」
「だね…。 でも、戻ってこれるよう私も力になるから!」
「ありがとな、でもミミも無理すんなよ。ユナ姉みたいにケガとかしたらやだからな?」
「…そうなったら心配してくれる?」
「心配だから、そうならねぇでくれって言ってんのに!」
「そっか、わかった。気をつける!」
「ああ、そうしてくれ」
もう身近な人のあんな姿は見たくねぇからな…。
その後もしばらくお互いの話をしてたら、外が暗くなってきてた。
「そろそろ飯にしようぜ。姉達は庭園に行くって言ってたけど、流石にもういねぇよな」
「温泉とか、先に食堂で待ってるかもね」
「探しに行くか」
「そうだね!」
宿のロビー、大浴場、食堂…。
「いねぇんだけど…」
「まさかまだ庭にいるのかな?」
「こんな何時間もか?」
ミミと話してた間に軽く二、三時間は経過してるはず。
あの庭ってゆっくり歩いても三十分もかかんねぇのに。
ミミと庭へ行ってぐるっと歩いてみたけど見つからず…
「あ…マップ…」
「ん?」
「ゲームだとマップに仲間が表示されるの忘れてた…」
「…おい、頼むぜミミ…」
「…こっち!」
ミミに案内されていったのは、ちょうど冬景色のエリア、その端っこの方にあった東屋だった。
まさかずっとここにいたのか?
「何やってんだよ…もう真っ暗なのに。夕食、一緒に食べようと思ったのにいねぇから随分探したんだぞ」
「ごめんね、ちょっと盛り上がってて」
何にだよ…。ユリノ姉とも仲良さそうにしてるからいいけど。
合流した姉達と食堂で夕食。
うん、やっぱり上手い。でもなぁ…
「オレはシノ姉の作るご飯が食いたい…」
「レイアちゃん…。 そうね〜私も食べさせてあげたいけど…こっちでなんとかして作れないかしら〜」
「食材を買えば作れると思いますよ。宿の厨房を借りられるかもしれませんし」
「ユリノ、それ本当ね?嘘だったら鼻からうどん食べてもらうわよ〜?」
「作れるのは間違いないです。厨房がダメでも、レイアのテントなら簡易の調理器具くらいありますし」
「そんなのあったか?」
「ええ。使わない時は収納されてますから」
それはわかんねぇよ…。
でも鼻からうどんを食べるユリノ姉はちょっと見てみたかった。
「代償に何をくれますか?印くれます?」
「それでやろうとするユリノ姉がオレは怖いよ!」
そこまでしてほしいのか?あんなもの…
「ええ!」
わかんねぇ…うちの姉がわかんねぇ…。
「レイア、それならうちも追加でお願いするよ?」
「ユナ姉はもういいじゃない! 私だよ次は!」
「レイア、美味しい料理つくってあげたら〜私に印くれる〜?」
くっ…シノ姉の料理…それは揺れる! でもそれでシノ姉がログアウトできなくなったりしたら…
「大丈夫よ〜消えるまでくらい! ね?」
せいぜい数日くらいか?んー…
「…そういう事なら」
「やったわ〜! 約束よ!!」
「ちょっとレイア!」
バンッとテーブルを叩くリオ姉。頼むから壊すなよ…?
「リオ先輩、落ち着いてください。食器が倒れますから!!」
「…ごめん。 レイア、私は諦めないからね!」
「私も諦めませんよ。うどん買ってきます」
「おい、やめろ。食べ物で遊ぶな」
ミミと仲直りして友達になったと思ったら今度は姉たちかよ…。
いや、そういえば最近みんなおかしかったな? 今更か。




