あり得ない
ギルドに戻ったら、人だかりができてて騒がしい。
なんやねん…揉め事か?
気になって人の隙間から覗いたら奥の部屋にシノ姉が見えたから声をかける。
「シノ姉?」
「レイアちゃん! ユナが!!」
シノ姉の焦り方から普通じゃないってのはわかる。
人だかりをかき分けて、奥の部屋に入ると、ユナ姉が脚や腹に怪我をして気を失い、治療を受けてた。
は…?
え…?
嘘だろ?
あの由乃姉だぞ?いくらこっちではユナ姉になってたって…。
母親相手以外にこんな…あり得ねぇよ!
しかも姉達にはゲームなんだろ? まさかオレのせい……巻き込んだんだ…
「由乃姉! 由乃姉!」
「レイア! 落ち着きなさい!」
ついてきてくれてたユリノ姉に叱られるけど、それどこじゃ!
「だって…由乃姉が!!」
頭が真っ白になってどうしていいかわからない。有り得ない…あの由乃姉だぞ?
わけがわからなくて、名前を呼ぶしかできないオレをユリノ姉がひっぱたいた。
「レイア、落ち着きなさい。貴女なら救えますよね?でも落ち着かないと魔法は使えません。意味はわかりますか?」
「…あぁ。ごめん…」
「落ち着いて、レイアがお姉さんを治してあげなさい。貴女ならそれができます」
そうだよな…。ありがとユリノ姉。
まず何があったか確認しないと。治療してくれてる人もいるから邪魔できない。
「シノ姉! 何があったの?」
「ダンジョンで罠にかかってしまったのよ…私がついていながら…」
そんな…。
「傷は何とか塞ぎました。 でも毒が…」
治癒してた人が焦ってる…。オレが。オレがやらなきゃ…。
「変わって! オレがやる!!」
真っ青な顔でぐったりしてるユナ姉…何度拭っても涙で視界が歪む。
「レイア、貴女ならできます。大丈夫ですから。ね?」
「うん…」
ユリノ姉の声で少し落ちついた。
意識を集中して、怪我の治癒と解毒を開始。
やり方は身体が知ってる。大丈夫。絶対に死なせない!
何度も魔法をかけて、ようやくユナ姉の顔色が良くなった。
「…大丈夫です。毒も抜けました。でもしばらくは安静にしてくださいね」
「よかった…よかったよユナ姉…」
「レイアちゃん、ユナを宿に運ぶわ。ついてきてくれる…?」
「うん。傍にいる」
ユナ姉を抱えて移動するシノ姉についてギルドをでる。
「よくやったよ。レイア」
「理乃姉も来てたんだな…」
「うん、私はリオだよ」
リオ姉は、オレの頭を撫ぜてくれた。
宿についても目を覚まさないから不安で仕方なくて…。
離れることなんてできない。
どれくらい時間が経ったかわからないけど、由乃姉が目を開けた。
「由乃姉! 由乃姉! 大丈夫?」
こっちが本気で心配してるのに…口調が違うとか言われた。
今はそれどこじゃないのに!
不安で離れられないオレを嫌がらずにいてくれて嬉しいけど、本当に大丈夫なんだよな?
無理しないでくれよ…。
もう絶対に無茶しないって約束してもらった。
それで思い出したのがユリノ姉が言ってた、大切な相手につける印。
気休めとか、おまじない程度かもかもしれないけど、そうしたら元気になってくれる、そんな気がして印をつけた。
直後、他の姉たちにユナ姉から引き剥がされて…。
同じ印をつけろって言われた。
みんなは元気じゃねぇか!
あまりしつこいからユナ姉に助けを求めたら、三人を止めてくれた。
ホッとしたのも束の間、ユナ姉がログアウトできないって…。
オレが変な印付けたせいか!?
謝ったのだけど怒らずに嬉しいって言ってくれた。
びっくりするくらい優しく抱きしめて、それがウソじゃないって伝えてくれたおかげで安心したけど…。
でも…やっぱりこのままでいいはずがないよな。
シノ姉達がログアウトして確認したらしいのだけど、オレみたいに向こうに身体がなくなったりはしてないって。
どういう事だ?半分だけ?
「こっちに片足突っ込んでるのか?」
そう言ったら姉達がまた難しい話を始めた。
ユリノ姉の言う、ノーラに話を聞いたほうがいいってのはわかった。
オレもフォーラの話をしにいきたいからそれは賛成だな。
ただ…。
「ユナ姉が元気になるまではダメだからな! それまでオレも行かない」
みんなもそれに同意してくれたのに、当の本人が行くって聞かない。
「うちは大丈夫。ほら、キズもないから」
「服をめくるな! 無茶すんなっていったよな?約束破るのかよ!」
「そうだったね…ごめん」
「ずっとそばにいて見張るからな」
そういったらめっちゃ喜ばれた。
おかしいな?普通嫌がらねぇか?
………
……
…
数日、ずっとユナ姉と一緒にいたら、ユリノ姉が拗ねてしまった。
「私という相棒がいるのに!」
「だって…ユナ姉が無茶しそうだし」
「だからって常に一緒にいる必要はないでしょう!」
風呂やトイレは一緒じゃないって言ったら…当たり前です! って怒られた。
オレを風呂に連れ込んたユリノ姉に言われてもなぁ…。
首にオレがつけた印も薄くなってきた頃、ようやくみんなでノーラに会いに行く事になった。
また馬車かぁ…と思ってたら、シノ姉がみんなにワープできるアクセサリーを配った。
相変わらずだなシノ姉は。
それ、もっと早く出してくれてたらユナ姉を湯治に連れて行ってあげられたのでは?
まぁ今更か。
今日からリオ姉に連れられて、ようやくミミも復帰したんだけど、まだ会話は出来てない。
避けられてて話をさせてもらえないんだよな。
リオ姉に、もう少し待つように言われたから仕方ないけど待つ。
ノーラに会うためにはまずカピバラックへ行かないと。
前に泊まった温泉に飛ぶって話なんだけど…。
初めて使うから、ちょっと不安だな。
装備してから使用だっけ?
……何も起こらねぇな?
「レイア、手に持って使えば大丈夫です」
「そうなのか?」
ユリノ姉に言われた通り、手に握って使おうって思ったら選択肢が出てきた…。
……ゲームみてぇ。
カピバラックを選んだら目の前が真っ白に。
だからなんで毎回毎回! 眩しくて目を開けてらんねぇ…
仕様に文句を言ってたら、いつの間にか見慣れた宿の入り口に立ってた。
隣にはユリノ姉とユナ姉だけ。
「他のみんなは?」
「多分宿の中かと…私たちとこのアイテムの使い方が違いましたから」
「ユナ姉もか?」
「うん。この方法でしか使えなかったよ」
よくわかんねぇな…。
「皆さんも食事等はこちらの影響を受けて変化しているのに…不思議です」
「だよな。個人の細かい仕様には直接影響がないのか?」
「そうかもしれません…」
「じゃあ、うちはレイアと一緒だね」
「そうだな。身体は平気?」
「うん、心配なら見ていいよ?」
「外でおかしな事言うな!」
公衆の面前で姉の服を捲くってたら頭おかしいだろ! ユナ姉も人に見られるかもしれねぇのに!
ここ何日か、ユナ姉がおっとりしてて、シノ姉みたいになってる。
言葉使いも雰囲気につられたように荒々しさがなくなった。
ケガして落ち着いたのか?それともまだ毒が!?
「レイア、大丈夫ですから…それ本人に言わないでくださいよ」
だから心読むなや…。セクハラヘンタイ姉!
「……」
無言でつねられた…。隣にユナ姉がいるからか。
しばらくしたらみんなが宿から出てきて、ユリノ姉の予想が当たってたのが証明された。
「部屋をとっておいたわ〜またここを拠点にしましょう」
「ありがとシノ姉」
「いいのよ〜またお風呂のあるいい部屋を選んだわ〜」
大浴場もいいけど、部屋のなら他人は来ないからな。
「じゃあ早速だけど行こうぜ。ノーラも起きてるって言ってたし」
入り口はどうせ街の中だから、すぐに行けるしな。
それに…早くハッキリさせたい。
ここにいるのは由乃姉なのかユナ姉なのかを…。




