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初仕事にゃー



「ここがハンターズギルドです」

「へぇー。なるほどな。雰囲気あるわ」


入口付近には、いかにもって格好の男女が数人(たむろ)してる。

無骨な建物にでかい看板。

建物は三階建くらいか?


「見上げてないで行きますよ、レイア」

「あ? …おう」

建物の中も凡そ予想を裏切らない。

外に居たのと同じ様な格好の人が沢山居るし、併設された酒場では昼間から盛り上がってる奴らも。


「あまりキョロキョロしていると、田舎者だと思われて舐められますよ」

「うるせぇな…初めて見るんだからしょうがねぇだろうが」

「取り敢えず受け付けで登録を済ませます」

いつも来ているかのように慣れた足取りで進むユリノについて行く。


受け付けは、名前と得意な事を書くだけというシンプルなもの。

「オレは弓と、回復魔法か」

「そうですね、レイアは後衛職ですから」

攻撃手段が弓しかないしな? こんな事ならキッチリ選ぶんだった。


何事も適当に…なぁなぁにしてきた報いか。

かと言って今更この生き方を変えられるとも思えねぇ…。

やれる範囲でやれる事をやるしかないな。

今日は今日しか出来ないことをして、明日の事は明日考える。

今までもそうして来た。


メモした紙を受け付けで渡すと、会員証だと言ってドックタグの様な物を渡された。

常に身につけておかなくてはいけないらしい。

もし不慮の事故とかで死んでも、身元が分かるようになっているんだとか。

本当にドックタグじゃねぇか…。


「姉ちゃんたちは二人か?」

なんだ?新人に絡んでくるチンピラか?


「そんな睨むなって。困ってるなら手をかそうと思っただけだ。女だけで不安なら俺達が手を貸してもいいし、男が不安ってんなら女だけのチームもいるから紹介するぜ」

なんや…めっちゃいい人やん!


「お気持ちは有り難いのですが、今日登録したばかりなので、慣れるまでは二人で安全な仕事をこなします。狩り等の仕事を受ける事になりましたら改めてお願いしてもよろしいですか?」

「そうか? まぁ、街から出ない仕事もあるからな。それなら危険もないし…わかったぜ。何かあったらいつでも声かけてくれ」

「ありがとうございます」

怖そうに見えた、優しいおっさんはそう言うと仲間たちの元へ戻っていった。


「ユリノ姉、すごいな…」

「そうでしょう。コレからも姉を頼るといいのですよ」

ドヤ顔がムカつく…が、由乃姉を思い出して文句も言えん。



「先ずはさっきも言った通り、仕事に慣れるよう簡単な物をこなします」

「仕事に簡単とかあんのか?」

「痛いとこを突きますね。確かに失言でした」

そういう意味で言ったわけじゃないんだが、まぁいいか。


「コレとかいかがでしょう?」

「んー? ”飼い猫の散歩 運動不足が心配なので散歩させてくれる人を探しているザマス”か…。 いかにも金持ちって感じだな」

「それで私達は仕事がもらえるのですから」

「まぁな」

猫の散歩なら大丈夫だろ。


………

……



そう思っていた。ここに来るまでは…。

「なんぼおんねん…多すぎやろ」

「訛ってますにゃ」

「お前もな?」

大きな屋敷の庭を駆け回る、猫、ねこ、ネコ…。

運動不足とか嘘やん。


「この子達を全員散歩させてあげてほしいザマス」

そう言って屋敷へすっこんでしまった。

イメージとは裏腹に、スラッとした美人な人にそう言われて戸惑う。

せめて三角のメガネはつけててくれよ!


というか、説明そんだけ!?


「詳しいお話は私から致します」

いかにも執事! って雰囲気のお爺さん。助かったぜ。


内容を聞くと、どーも庭を駆け回る猫たちを眺めていればいいだけらしい。

「わりぃ、ユリノ姉。簡単な仕事あったわ」

「ですね…。これだから金持ちは…」

さっきはそれで仕事がもらえるとか言ってなかったか?



数時間、猫達と遊び、走り回るのを見守り…。

膝の上や頭の上を寝床にされたり。

平和やな…。



「お疲れ様でした。随分懐かれましたね。この子達はあまり他人には懐かないので…こんなことは珍しいです」

「ええ…またあなた達にお願いするザマス。ギルドには報告しておくザマスね。セス、報酬を」

「はっ。 ではこちらを…またよろしくお願い致します」

ユリノ姉が受け取ったのは、ずっしりと重そうな革袋。


お金の単位は円だけど、硬貨のデザインは違うし、紙幣はないから仕方ないか。


帰りの道すがら、どれくらいもらえたのか聞いてみた。

「重さから判断するに、数万円かと…」

「一日猫と遊んで!?」

「はい…」

このゲームちょろいな…。

だって猫カフェに行ったら逆に金もらった、みたいなもんだぞ?



猫とマダムのおかげで、今日も安心して宿に泊まることができる。

詩乃姉にそっくりな女将さんには戸惑うけど、宿はキレイだし、食事も食べ慣れた味で美味しい。

宿を変える選択肢はないな!


「今日の日替わりよ〜。ゆっくりしていってね」

「ありがとうございます」

今日も和食。うん、やっぱり詩乃姉の味だ…。


みんな元気にしてるのかな…。そしてオレはいつになったらゲームを終われるのか。

そんな事を考えながら食べていたら、突然すごい音がして振り返る。

「てめぇ、今何しやがった!!」

「女将さん、ストップ! もう意識無いから、答えられないって!」

「うるせぇ!! こいつは私の身体に触れたんだ! いつか大切な人のためにって大事にしてる私の身体に!」

詩乃姉だわ。 キレ方までそっくり。


「おい誰か止めろよ」

「無理だって…ああなったら気が済むまで誰も近寄れねえのは知ってるだろ」

「あいつ初めての客か?」

「だろうな…じゃなきゃあんな迂闊な事しねぇって…」

「普段は優しいし、料理も上手いけど…」

「「「「キレたらやばい!」」」」

うん、詩乃姉だ。


止める方法は一つ。

「おい、嬢ちゃん! 危ねえから!」

「大丈夫。慣れてるし」

「「「…???」」」

未だ暴れる詩乃姉。


「てめぇが! てめぇが!! クソボケ! 死に晒せ!!」

「もう大丈夫。ほら、大丈夫だから」

「…え?」

「ユリノ姉、ソレ外に捨ててきて。ここは任せて」

「は、はい!」

オレがしたのはなんてことは無い。頭を撫ぜただけ。

詩乃姉はうちで一番背が低い。オレでも撫ぜられるくらいに。


「ふわぁ…」

「嘘だろ…マジで止めやがった!」

「触れたらブチ切れる女将さんを撫ぜた…!?」

あ…。そうだった! 

あまりに詩乃姉にそっくりだったから同じ感覚だったけど、この人赤の他人だった。


「すみません、触れてしまって…」

「…もっと」

「え?」

「もっと撫ぜて」

「は、はぁ…」

有無を言わせないのもそっくりだな。


それから撫ぜ続けること十分程。

満足したのか、笑顔でまた接客を始めた。


「いやーどうなるかと思ったが、嬢ちゃんすげーな!」

「助かったぜ。あのままだと、朝まで暴れてあいつズタボロだっただろうからな」

「いえ…」

詩乃姉感覚で、無意識だったなんて今更言えねぇ…。


「これお詫び。食べてね? 私の事はシノンって呼んで」

そう言って渡されたのはおにぎりだった。

詩乃姉もおにぎり作るの上手いんだよな…。

「ありがと」

「いいのよ〜ずっとこの宿にいてね?他に行ったらダメだから〜」

「それは約束できかねます。仕事の都合もありますし…」

「貴女はどこへ行ってもいいわよー。でもレイアちゃんはだめ!」

「私は相棒ですから。離れませんよ」

ユリノ姉は性格こそ由乃姉とかけ離れてるけど、こういう根本的な所は似てる気がする…。



ケンカになりそうな二人を止めて、部屋に戻る。

「レイア、何だったのですかアレは…私だってしてもらった事ないのに…」

「ん?撫ぜるくらい別にしてやるけど」

ユリノ姉も撫ぜてやったら嬉しそうにしてた。

ただ、やめようとしたら、私のが短いのは許せません! とか言われて、撫ぜ続けさせられた。

もう二度とやらねぇ…。

負けず嫌いなのも由乃姉にそっくりだ。








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