由乃
もう一人の主人公、姉視点のお話になります。
「ふふーん♪」
零くんはちょっとコンビニへ行っただけだと理乃は言ってたし、その理乃は友達と遊びに行くと出かけた。
詩乃姉は忙しいお父さんたちの手伝いで店に出てる。
「今しかない! 零くんの初めてをもらうなら!」
そう思ってコンビニで買ってきました。
うちはなしのがいいかなーって思うんだけど、最近理乃がうるさいから、仕方なく。
初めては無しがいいとか言うのにね?
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「おっそい! 零くんどこのコンビニにいったの?」
あれ?うちもさっきコンビニ行ったな?でも会わなかった…。
モールまで行って勝負下着も買ってきてるから、うちのが帰りは遅いはずだよね?
この為にわざわざ色々な下着を見えるところへ置いて、反応を確認してきたんだから。
ちゃんと零くんの好きそうなのを選んできた! 零くんが唯一拾ったのはエッグい紐タイプだったけど…。
好みに合わせてあげる、優しいうちに、更に惚れるっしょ!
「あっ、もしかして部屋か! 零くん覚悟ー」
零くんの部屋に突撃したけど、誰もいない。どういう事?
まさか、理乃…うちを騙した?
すぐさま理乃のスマホを呼び出す。
「早く、早く出やがれ。うちをだましてただで済むと思うなよ…」
”由乃姉?なに…?今忙しいんだけど”
「お前、うちに嘘ついたな? 零くん居ないんだけど! コンビニ行っただけとか言ったよな?」
”あぁ…。私がプリンを頼んだから、それが見つかんなくて遠くまで行ったかもね”
「はぁ?プリン?」
零くんは買ってきたものはちゃんと冷やしておくいい子だ。
冷蔵庫を確認。
「プリンあるぞ? なんで零くんだけ居ないんだよ」
”知らないよ。帰った後の行動まで私が知るわけ無いじゃん。もう切るよ。友達またせてるし”
「お前、なにか隠してるな?覚えとけよ」
理乃、あいつ最後まで聞かずに切りやがった!
あっ、スマホ! 零くんにかければいいんじゃん!
………呼出音のまま出ない。
零くんがうちらからの連絡を無視するなんてあり得ない。
そう教え込んできたし。
「ん? 零くんのスマホの着信音が家の中から聞こえる?」
自分のスマホを呼び出しのままにして、音の聞こえる先を探す。
「部屋にいるんじゃん! まさか隠れてたの?」
まったく、焦らしてくれるじゃない。
…もう我慢の限界!
「零くん! 出てきて! 今ならまだ優しくしてあげるから…」
………
無視されるのは流石にイラッてするなぁ…。
小さい時から、”零くんが一番大切にするのは誰?”って聞いたら”お姉ちゃん!”って即答するように教えこんできた筈だよね。
反抗期にでもなった?
こっちはどれだけ零くんへの想いを我慢したと思ってるのかな?
部屋中の隠れられそうな場所を探すけど見つからず。
「おっかしいなぁ…。零くんがうち達の部屋に入ることなんてないし…」
一度、うちの部屋へ零くんを連れこもうとしたら抵抗されて、止めようとした理乃とケンカになったくらいだ。
それ以来、うちら姉の部屋には寄り付かなくなった。
「ん〜…。リビングには隠れるとこなんてないし。 ん?アレなんだろ?こんな物、零くん持ってなかったよね?」
零くんのベッドの上に無造作に置かれた電子機器。
うちは零くんの持ち物は全部把握してるから間違いない。しかもこれ…女の匂いがする!
知らないシャンプーとか化粧品の!!
でも、部屋にまでは匂いが無いってことは、家に連れて来たわけではないね。
借りたとか? そもそもこれは何?
電子機器に書かれてたメーカー名と、側に置いてあったゲームか何かのパッケージから検索したらすぐに出てきた。
「人気のオンラインゲームね…。”自分の分身を作ってパーチャル世界で生きてみよう! 結婚もできるし、家を買えば子育てさえも可能。どう生きるかは君たち次第!”ねぇ…」
ちょっと待って。
女の匂いのするゲーム機。分身を作って結婚もできるゲーム…。
「おいおい…嘘だよな? 零くん、うち以外と結婚も子作りも許した覚えはねーぞ!! 理乃。あいつは絶対に何か知ってる筈だ。帰ってきたら覚悟しろよ…」
再度理乃に連絡するも出ないから、今すぐに帰らないとお前の部屋を荒らすぞってメッセージを送ったら、5分もせずに帰ってきた。
「由乃姉、冗談キツイよ?部屋を盾にするとかやめてよ。服とか高いんだから」
「おい。今すぐに言え。 零くんは今日、誰とどこに行った? 嘘はつくなよ?部屋がどうなるかわかるよな?」
「……はぁ…。昨日女の子に告白されたんだよ零。 それでオッケーしたらしくて、今日はデートに行ったはず。その後までは知らないよ」
「………うち、言ったよな!?学校で零くんに女を近づけさせるなって。それなのに!!」
「落ち着きなって、由乃姉。 おかしいよ?いくら零が好きだからって姉と弟なんだよ?」
「お前だって大好きだろうが! だからずっと女を近づけさせなかっただろう!」
「……昔の話だよ。今はだめだってわかってるから…」
「理乃は諦めたかもしれないけどな! うちは諦めない! 詩乃姉だってそうだ」
「詩乃姉はお母さんみたいなものじゃない」
話にならねー。
幼い頃、うち達姉妹の間でこっそりと結ばれた約束。
それをこいつは…。
「じゃあいいんだな?うちが零くんを独り占めしても」
「……好きにしたら」
「そうかよ。 今のゲームって凄いよな? バーチャル世界で結婚もできるらしいぞ。 今頃、お前がくっつけた相手とよろしくやってるかもなぁ?」
「はぁっ?何ソレ詳しく!!」
理乃にも見せてやる。零くんの部屋にあったゲームの情報を。
「…ゲームの中なら倫理的な問題なんて…」
「関係ねーな?」
「結婚…零と?幸せな家庭…かわいい子供…」
「諦めるんだろ」
「前言撤回! これ私も買ってくる!」
「待てよ。うちも行く。どこで買えるかわかんねーし…」
「わかったよ。案内する。詩乃姉は…」
「誘わなかったらどうなるか想像できねーか?」
「…生きていたいから誘うね」
「それがいいな。うちも零くんを抱くまで死にたくない」
「私だって…」
やっぱり理乃もか。諦めたとか嘘つきやがって。
常識?倫理観?知った事か!
そんなものでうちの想いが止められてたまるか。
それからうちらは三人でゲームを探し回った。
どこも売り切れてて、本体しか買えず…。
「ダメ、どこも売り切れてるって」
理乃が近場の店に片っ端から確認するも、空振り。
「ちょうど駅前だし、隣町まで行く〜?」
「流石にそれは…今からじゃかなり遅くなるし、お母さんに何も言わずに行くのは自殺行為かな」
「そうよねぇ…。 あら…?あれってゲーム屋さんかしら〜」
詩乃姉が指差す先には、小さな個人経営っぽい店。
「期待薄そうだけど、ワンチャンかけてみるか」
「そうね〜。意外と掘り出し物とかあるのよきっと」
「うちらが探してるのは最新のゲームで、掘り出し物じゃないから」
「あらあら…」
相変わらずぽやーっとしてる詩乃姉。
ただし、一度キレたらうちと理乃でも止められない。
最近キレたのは、零くんと買い物にでかけた時だっけ。
一時停止を無視して、飛び出してきた車に横断歩道を歩いてた零くんが轢かれた。
実際には轢かれかけた、だったのは零くんの証言でわかっている。
それが轢かれた事になっているのには理由がある。
先ず轢かれそうになった零くんを詩乃姉が庇って突き飛ばした。
ぶっ飛ばされた零くんは、近くのお店の商品棚に突っ込んで気絶。
お店の人は当然轢かれて飛ばされたと思い、慌てて救急車を呼ぶ。
その間にブチギレた詩乃姉は、相手の車を破壊。原型を留めないほどの廃車になった。
ぶつかったかの判断なんて出来やしない。
相手はどこぞの御曹司だったらしく、壊れた車は数千万はするものだったらしい。
怯えまくった相手からはさんざん謝られて、慰謝料ですってかなりの大金を小切手でもらった。
それこそ壊れた車が何台か買えるくらいに。
勝手に渡してきたんだからもらってもいいよな。
詩乃姉はそのお金を元手に、株だったかで大儲けしてる。
「零くんが貰ったお金だから増やしておくの〜」とか言ってた。
うちらにも儲けの中から定期的にお小遣いよ〜って渡してくれるんだけど、額がおかしい。
零くんにも渡そうとするから流石に止めた。
あまり若いうちから大金を持つと金銭感覚が狂って良くないし、金に釣られるような女を引っ掛けてきたらたまらない。
代わりに零くん名義で貯金してあげたら?といったら早速実行してた。
幾ら貯まってるのかうちは見たくない。
零くんに甘々な詩乃姉がうちらに渡すより少額にするはずがないから。
そういう訳だから、轢かれた事になってる。お店の弁償も例の御曹司がしてくれたし。
零くんにも轢かれたんだと言い聞かせてある。
頑なに突き飛ばされたとか言うから、ちょっとお仕置きした。
それより今はゲームだ。
「すみません、ゲームを探してて」
「もしかしてアレか?量販店をあちこち探し回って売り切れてたんだろ?」
「そうなのよ〜」
「あるのか!?ファンタジークエスト・オンラインライフVRってやつ」
「ファンクエライフなら残ってるぜ。後数本しかねぇが…」
「三つ買います!」
「うちは定価で、他所より高いんだが…」
「問題ないわ〜」
「そ、そうか」
やった! 買えた!!
ゲーム機本体が一台十万弱、ゲームが一本ニ万。
うち達には端金だ。零くんとのファンタジーで甘々なライフの為なら!!
うちらは全員浮かれていた。
それぞれ妄想に夢を膨らませて。
その後、家で何が待ち受けているか、なんてことも知らずに…。