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ザコでも歩き続ければいずれは着きます



「起きて。もう朝だよ。 起きないと…」

「ぎゃーー! 理乃姉! 助けて! 喰われる!」

「失礼ですね…私はそんな野蛮ではありません」

「はっ? 由乃姉…?」

「私はユリノです。あんな事をしておいて名前を間違えるなんて…」

よよよって泣いたふりをするユリノ。オレがお前に何をした。


「悪ぃ、目ぇ覚めたわ。 つーかよ、お前の見た目を今からでも変更とか出来ねぇのか?」

「何を空想みたいな事言ってるの?できるわけ無いにゃ」

「いや、ゲームだろこれ…」

ゲームだよな!?


唐突に不安になり、まずは自分を確認。

スレンダーだが…女だな?

テントから出ると、森と草原。


ステータスと、手持ちのアイテムにはアクセスできた。

後は……そうだ! オプション!

………。 

「オプション! 設定! コンソール!」

ないのかよ…。


「何をしてるのです?」

「…ほっといてくれ」

「食事は出来ていますので食べてください」

「は?由乃姉が料理?」

「本当に誰ですかそれ…」

そうか、ユリノだった。でもな?慣れねぇんだわ。


ユリノが渡してくれたのはパンとスープ。

「…これ、パン?」

「はい」

「石じゃなく?」

「うん」

釘が打てんじゃねぇかってくらい硬いんだが。


「スープでふやかしてください」

「…わかった」

言われた通り、木のボウルに入れられたスープらしきものにパンを突っ込む。


「あっ…そんな激しくかきまわされては困ります…」

「おい、やめろ」

「のりが悪いワン」

「それもいい加減落ち着かないのか?」

「あなたの話し方も落ち着きますか?」

ぐぅの音も出ねぇ…。



塩味しかない白湯みたいなスープと、石みたいなパンを食べて、テントや焚き火を片付ける。

「お腹は膨れましたか?」

「あぁ、一応な」

美味しかったか?と聞かれなくてよかった。



「チュートリアルもすっ飛ばしたみたいだし、どーすっかなー」

「近くの街へ行かれては?」

「場所がわかんねぇよ」

「世話の焼ける人ですね。すべての世話を私にさせる気ですか?」

「そんなつもりはねぇけどよ…」

「マップを見てください」

「”マップ”?そんなもの… あったわ」

オプションはないのにマップはあるんかよ!


現在地と、歩いた範囲。あとは名前を聞いた場所の位置は表示される仕様のようだ。それ以外は真っ黒。

ワンッダの国めちゃくちゃ遠いじゃねぇか。


「ここからですと、ニャンダーの街が近いと思います」

「なぁ、その街って猫ばっかりか?」

「いいえ? 名前だけで判断されるのは流石に浅はかかと」

イラッ…


マップにもニャンダーの街が表示された。

こっちもなかなかの距離だな…ワンッダよりは多少マシか?

「ユリノは、他の街の名前は知らないのか?」

「お答えしかねます」

チッ…。


「早く向かいますよ。また野宿は嫌です」

「そうだな、メシもまともな物を食いたいし」

「……せっかく用意したのに…まともじゃなかったって言いたいの?」

「やめろそれマジで…悪かったから」

「わかっていただけたのならいいです」

コイツ…ほんま…。いつか泣かす! 見た目さえ由乃姉じゃなければ…。





どれくらい草原を歩いたか。

ようやく獣道よりは広い街道へでた。

「この道を行けばニャンダーの街に夕方には着けるでしょう」

「そうか…。今昼くらいだよな? つーことはまだ相当歩くのか…マジかよ」

「軟弱な。 本当にざぁこなんですね?」

「よし、そのケンカ買ってやるよ! 泣いても知らねぇからな!」

「……」



…………

……



「ごめんなさいユリノさん。ホント勘弁して」

「前衛職に勝てるわけが無いでしょう?」

そうだけど! それ以上に見た目も相まって本能的に身が竦むんだよ! 


「少し休みましょうか。お茶くらい淹れて差し上げます」

「はい…」

優しいのか意地悪なのかわかんねぇ…

一つわかったのはオレは多分、一生ユリノにも勝てねぇだろうって事。



ユリノが淹れてくれたお茶は、詩乃姉の淹れてくれる紅茶みたいに美味しかった。

美味しかった…?

「なぁ、最近のゲームって味覚も再現してんのか? すげーな」

「なんの話をされているのかわかりかねますが、味覚がなくなったら早めに治療してくださいね。毒の可能性がありますから」

「毒!?」

「道端に生えてる草やキノコは食べないようにとあれ程…」

「言ってないぞ! というか、んなもん食ってねぇ!」

「街へついたら、不要なものを売って食材を買いますから拾い食いはやめてください」

「不要なもの?」

「先程、手に入れた戦利品です。それとも私を売りますか?」

「おい、やめろ。いくら金に困っても由乃姉にそっくりなユリノを売るとか無理だからな」

「それはようございました」

こいつどこまで本気なんだ…。そもそもここまで一緒に来てくれてるユリノを売るとかしてたまるか!



休憩をはさみつつ、街の門が見えてきたのはユリノの言ったように、日の暮れかけた夕方だった。

何度か休憩もしてるのに、そこまで計算してたのな。 有能かよ…。

街へは止められることもなくあっさりと入る事ができた。

てっきり、身分証は?とか、街へ入るには幾らか掛かるとか、そんなのを予想していたから拍子抜けを食らった。


そして街の中には、二足歩行のニャンコがいっぱい。

「おい、ユリノ。猫ばっかじゃねぇか」

「人族も、エルフも色々いますよ?」

「パッと見半分以上猫じゃねぇか!」

「なんですか?またやり合いますか?」

「それはもういいです」

「では、市場で不用品を売って、宿代の確保と食材を買いますよ」

「はい…」

もうユリノは姉と変わんねぇな。いっそユリノ姉とでも呼ぶか?

オレより頭一個分くらい背も高いし…。由乃姉もそれくらいだっけか。


買い物とか全くわかんねぇからユリノに任せたら、店の人が泣くくらいに値切る。

「高く売って、安く買うのが基本です」

「お、おう…」

うちの姉とはまた別の怖さがあるな。


宿も安くいい場所を聞き出したとかで、大通りから少し入った小ぢんまりとした落ち着いた宿に入った。

「いらっしゃい。食事?泊まり?」

「どちらもお願いします」

「わかったわ。ここにサインして〜。部屋は二部屋?」

「一部屋で大丈夫です」

「はーい」

…………。 


「詩乃姉、なにしてんの?」

「うん?」

「すみません、この子ちょっとここがアレでして」

おい。頭がおかしいっていいたいのか?


「ほら、おかしなこと言ってないで部屋に行きますよ」

「…はい」

なんで詩乃姉が宿の女将さんしてるんだよ。

いや、わかってる。そっくりなだけって。それにしてもだ。

似すぎってレベルじゃねぇぞ。 

違うのなんて髪色くらいじゃねぇか?


どーなってんだよこのゲーム…。



「お食事は部屋でされますか?」

「んー、いや。折角だしホールに行こう」

「その心は?」

「情報収集」

「合格です」

オレは何を試されたんだ。


宿の個室はニ階。一階は食堂になってて、何組かのお客が来てた。

メニューは日替わりしかないそうなのでそれを頼む。


食事が届くまでに、周りの会話に聞き耳をたてるも、大した情報は…

「そういや聞いたか?ワンッダに嫁いできた姫さんが、森で襲われたらしいぜ」

「あぁ。 大方身代金か姫の身体目当てだろ。美人だって話だし」

「だろうな。政略結婚だから、これでワンッダの国と、魔の国は同盟関係になったんだよな?」

「それはそうだろう。バックにあの魔王様がついたんじゃ、どの国もワンッダには手を出せなくなるだろうからな。平和になるだろうさ」

「だといいがな。魔王様相手には、さすがにドラゴネスのやつらもおとなしくなるだろうし」

なに?この世界魔王いるのかよ。


「そこそこ有用な情報が得られましたね」

「そうなのか? なぁ、魔王がいるなら勇者とかもいるのか?」

「聞いたことがありませんね」

そうか。魔王が悪い王とも限らねぇから、勇者が倒しに行く、とかにもならないか。

魔の国の王ってだけかもだし。

ただ魔王って聞くとうちの母親を思い出すからな。

絶対に会いたくねぇ…。


「お待たせしました〜。ごゆっくりー」

詩乃姉そっくりな女将さんが持ってきてくれたのは、見慣れた和食。

なんでやねん。てきとーかよこのゲーム。


味は詩乃姉の料理に負けないくらい美味しかった。

やっぱりあれって詩乃姉なんじゃ?そう疑いたくなるくらい、味付けも似てた。

おかげでホッとしたけど…。



部屋へ戻り、シャワーも浴びてさっぱり。

ゲームの中でも、宿の各部屋にシャワーや風呂があるのは日本のゲームならではなんだろうか。

風呂大好きだもんな、日本人。 

じゃぶじゃぶと水を使えるのはありがたいけど。



ユリノがシャワーを浴びてる間に、持ち物をチェックしておく。

武器は和弓と矢。あとは小型のナイフ…刀か?が一本あった。

これは武器というよりは道具だろう。


服は、ログインした時に着ていた軽い革の鎧の他に、下着が何着か。もちろん女物。

後はラフな部屋着というか、宿の女将さんも着ていたようなワンピース。それが三着。


所持金は五百円。

通貨の単位、円なのかよ。わかりやすくて助かるけどよ。

見たことのない硬貨だな…。

それにしても全財産が五百円て…遠足のおやつ程度しかねぇな。

まぁ今日手に入れたお金はユリノに任せたから仕方ない。


後は雑貨。

テントとかのキャンプ道具と、各種薬っぽい瓶が数個ずつ。

それと、拾った覚えのないヤバい色をしたキノコや、草。あとはなんかキレイな石。

変な形の枝もあった。


「やっぱり拾ってたんだ…。 お口に入れたらだめだよ〜?」

シャワーから出てきて、濡れた髪を拭きながら絡んでくる由乃姉…じゃなくユリノ。

「拾った覚えねぇんだけど。後ちゃんと服を着ろ!」

「アイテムを見て、拾いたいなーと思ったら拾ってしまいますから」

何それこわっ。

つーことはなにか?オレはこれらの物を拾いたいなーって思ったのか?

…なんだろー?って気にはなって見てたかも。



「因みに他人のものは拾えませんからね?」

「そんな事考えてもなかったわ!」

でも、思うだけで拾えたら、気にするのは当たり前か。


「明日はハンターズギルドへ行って仕事を探しますから、早く寝ますよ」

「なんだそのハンターズなんちゃらって」

「はぁ…。貧相な体型のクセにムチ無知ですね。 今現在、私達は無職です。お金も残り数日の宿代しかありません」

「うん?」

「ですからハンターズギルドへいき、ハンターとして登録。仕事を受けてお金を稼ぎます」

「なるほど?」

「それとも、その可愛い見た目で稼ぎますか?」

「やめろよそういうの…。と言うかオレは自分の見た目を知らん」

めちゃくちゃ呆れた顔をされたんだが?


ユリノに手渡されたのは手鏡。

恐る恐る確認すると、リアルと変わらない顔に、肩くらいまで長くなった髪。

そういや、シャンプーする時に長くてめんどくせぇとか思ったな。

ただ、髪も目の色も大きく変わっていた。

髪は薄い赤色で、目は琥珀のような金色。



「誰だよこれ…」

「レイア、私達は姉妹ということにしますからね。私が姉です。レイアは常識がなさすぎますから」

「もういいよそれで。任せる」

「世話の焼ける妹ですね…」

うるせぇよ…。何もわからず始めたゲームなんだからしょうがねぇだろ。


しかもログアウトもできねぇし。

いや、待てよ?

このゲームはオフラインで始めても、途中からオンラインにも切り替えられるようになるとか言ってたよな?

てことは、その切り替えれるタイミングになればログアウトできるのでは? 

もしくは、そのままオンラインにはいって、誰かにログアウト方法を聞けば…。


「よしっ! もう少し頑張るか!」

「そうしてもらえると助かるにゃ」

「……」

「無言は堪えるのでやめてください」

「ならやめろよ…」

「これもキャラ付けです。私しかヒロインいないんですから」

それこそやめろ。姉にそっくりなヒロインとかなんの罰ゲームだよ。


…オレ、ゲーム始める時に、オンラインかオフラインか選んだっけ?

そんな選択肢無かったような? でもオンラインなら他にプレイヤーとか居るはずだし…。

…ま、いいか。そのうちわかるだろ。







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